エピローグ(外側)
「『――こうして恋人たちは季節廻る塔を攻略し、四季の豊かなその国でいつまでも幸せに暮らしました。おしまい』」
お父さんが最後の一文を読み終わったと同時に、画面が切り替わりました。
真ん中に「HAPPY END」の文字が浮かび、その下で二頭身のドット絵キャラが2人、万歳を繰り返しています。
茶色い髪の男の子と、黒い髪の女の子――そう、ここまで追いかけてきたジャックとマリーでした。
「……はっぴーえんどぉ?」
タカシくんが疑り深い声を上げると、お父さんはびくりと肩を震わせました。
「あっ……タカシくん、疑ってる!? これはね、紛れもなくお父さんの作品なんだよ? ほら、この辺の地の文の説明とか、いかにもお父さんっぽいでしょう?」
「そこんとこは疑ってないけどさぁ」
タカシくんが言いたいのは、もちろんそこんとこじゃありません。
単純に、何というどうしようもないゲームか、と言いたかっただけです。
だって、まだ小学校5年生のタカシくんにさえ、このお話のだめっぷりが分かってしまうのですから。
「……これって、クソゲーってやつじゃないの?」
「あ、ひどい! タカシくんがやりたいって言ったから見せてあげたのに……!」
「確かに僕が言ったんだけどさ……」
タカシくんのお父さんが昔、自分だけでプレイする用のゲームを作ったことがある、という話を聞いて、どんなゲームだったのかやらせて欲しい、とねだったのがすべての始まりでした。
自分がお願いしたからには最後までつきあわねばなるまいと、そんな常識をタカシくんが既に備えている年だったのも不幸なことでした。
こうしてタカシくんは、クリスマスの貴重な3時間をかけてクソゲーに取り組むことになったのです。
世界観はめちゃくちゃ、登場人物は変なヤツばっか、物語は中途半端、地の文はうっとうしい、どうしようもないこのクソゲーに。
「ひどいよひどいよ、タカシくん……! お父さんがクリスマスにお休みとれるなんてこと、ほとんどないからさぁ、朝から一生懸命タカシくんを喜ばせようと思って頑張ったのに……! タカシくんのサンタさんになりたかったのに!」
えーんえーん、と泣きまねをして見せるお父さんは、確かに地の文と同一のうっとうしさでした。
ついでに言えば、あくまで泣きまねな辺り、王さまとも共通するうっとうしさに思えます。
タカシくんは、お父さんの顔をちらりと見てから、わざとらしいため息をつきました。
それから、投げ出していたコントローラを握って、スタートボタンを押しました。
「……ちょっとさっきは読み飛ばしたとこあったし。もっかいやってみたら、もしかしたら思ってたほどクソゲーじゃないかも」
ぴたり、とお父さんの泣きまねが止まりました。
最初の画面に戻り、オープニングの映像が流れ始めます。
タカシくんは画面を見たまま、背後のお父さんに声をかけました。
「お父さん、泣いてないで、この選択肢どっち選べば良いのか教えてよ」
「……あは! やっぱ面白かったんだね、タカシくん! あのね、これはさぁ……」
嬉々として説明を始めるお父さんの声を聞きながら、タカシくんはもう一度ため息をつきました。
全く。
マリーんちも大概だったけど、僕んちだっておんなじだ。
お父さんはなーんにも分かってないんだから。
はい、いつだって子どもの気持ちが全部わかる親なんていないのです。
だけど……どこかで気持ちが繋がっているのなら、それが安心できるお家なんじゃないかな、と地の文は思います。
今日は12月25日ですね。
最後までこれを読んでくれた優しい皆さんの傍に、素敵なサンタさんがいてくれますように。