Cerulean Blue sky
アンへレスまでの道のりは、車で2時間の距離だ。Mariaが、運転手と車を手配してくれた。
Evelyn、孝二と一緒にアンへレスまで行くことにした。
三菱ミラージュは、マルコスハイウエという、戦後の日本借款で作られた道を飛ばしていた。
この国では、夜は走らない方がいいと言われていた。
車ごと、持っていかれるか、命さえ取られるのだ。
トカレフの模造品が、その辺の町工場で作られている。
銃の携帯は、認められていないが、所持は認められている。
だいたいの中流家庭の家には、銃があると思った方がいい。
10万人当たりの、年間10人以上の殺人件数だ、日本の30倍以上だ。
さらに邦人の殺人件数は、世界一だ。
日本円の20万そこらで、殺人が請け負われる。
おめでたい、日本人は、大体頭を打ちぬかれて確実に仕留められる。
そして、絶対に死体で見つかる。
死体がないと、保険金が下りないからだ。
孝二は、そのことはEvelynから車の中でさんざん聞かされた。
よく言う言葉だが、安全と水がタダなのは日本ぐらいだ。
この国は、やく7%位の人間に富が集中した、貧困層があふれている。
海外での出稼ぎの収入の送金が、経済を支えているといっても過言ではない。
しかし、根っからの悪人ではない。日曜日には教会に通い、熱心に祈りをささげる姿には神々しいものがある、フレンドリーな人たちなのだ。
知らないから、未知のものだから人は、恐怖を抱く、そしてそこには、理解できない感情がうまれて、感情に流されて、争いがうまれる。
孝二は、いろいろと注意をしてくれるEvelynを見ながら、昨日見せた辛そうな顔が幾分か、昔のEvelynに戻っていることにホッとした。
「やっぱり、マバラカットに行くの」
と、車の中でEvelynは、確認するようにいった.
「たぶん、あの場所に行かなきゃ始まらない。たぶん、自分中で芽生えた、あの戦争がどこで、どうすれば特攻なんて攻撃ができたのか、あの場所にたって感じたいんだ。」
「そう、わかったわ。でも今では、誰もが忘れているわ。たぶん、昔に慰霊塔がたった思うけれどもただそれだけよ。ほとんどの人は覚えていない。それくらい時間が流れたから。」
「分かっているよ。話が聞きたいわけじゃないんだ。ただ、その景色を見てみたい。最後に見たかもしれない景色を見てみていだけだよ」
といって、孝二は車窓を流れる風景を見ていた。
右側通行の国だから、ややが違うが、それでも日本と違う風景には、懐かしさがあった。
たぶん昭和の時代を思い出させる。
ノスタルジックな風景と、スペイン統治時代の名残とか、こちらでいう ハロハロだ。
途中、休憩をはさんで、パンパナガ州のアンへレスに入った。
国道を、ジプニーが黒煙を吐いて走り、トライシークルも走っている。
運転手が、目的場所を確認するために、車から降りて現地の住人へ訪ねてくれたが、直ぐには場所が分からず、高齢の老人に聞いてやっと場所が分かった。
国道のすぐ横に、"神風"という日本語と"DIVING WIND" と書かれた看板があった。
コンクリートで作られた、鳥居があり、その奥には、日章旗とフイリピンの国旗がコンクリートの壁に絵描かれていた。
中に入ってくと、奥に石済みの土台の上に、飛行服をきた青年らしい銅像が立っていた。
その土台の下には、生花がおかれてあった。
まだ、新しいものだった。
孝二は、違和感を覚えたが、銅像の前まできて、銅像を見上げた。
銅像は、腰に手を当てて、飛行帽が風に吹かれているように作られていた。
銅像の顔は、空を見上げていた。
南国の空は、やや雲がかかっていた。
国道の傍なので、車のエンジン音が絶え間なく聞こえていたが、孝二やEvelynには、不思議と気にならなかった。
町の風景や、そこに住む人は変わったとしても、その銅像が見上げている空だけは、変わらないはずだからだ。
「孝二、何か感じた」
「正直言って、何かを感じたわけじゃないんだ。物理的に、ここに銅像があるだけなんだと思う。それでも、新谷さんや竹部さんが、ここで生きてたんだなと思うと、不思議な感覚になる。」
「そう、私は新谷さんが言っていた、ことがここからの風景では、想像できない。ただのモニュメントにしか見えない。」
といって、Evelynは銅像を見上げた。
「たぶん、想像ができるわけがない。戦争だったんだ。国を誰かを守るという、自衛の戦争ではなかったから、いつからか、そうすり替えて言い聞かせんだと、新谷さんは言っていたよね。」
孝二は、新谷の言葉を思い出していた。
"死ぬ意味がわかりませんよ"
孝二も、そう、思った。
死ぬことに意味を持たせることで、自分の死を受け入れる。
そんな状況ではなかったのかと、思った。
孝二もEvelynも、かつての現地に立っても、感じるものは少なかった。
記念碑を後して、今度は"マバラカット西飛行場"跡地をたずねた。
白い壁に、日本語で"第二次世界大戦に於いて日本神風特別攻撃隊が最初に飛び立った飛行場"とかかれていた。ピナツボ火山の噴火で一度は埋まってしまったが、再度体なおしたものだそうだ。
孝二は、ここでも、あの東空港後と同じ、生花の花束がおかれていることに気づいた。
ここ、フイリピンでは、多分自生していないまた、輸入されてもいない、その花は、テンニンギクまたの名を、特攻花だった。
孝二は、神風特別攻撃隊のことを調べているうちに、この花が特攻機の中継基地である喜界島で自生しており、その花を特攻へいく搭乗員に贈り、搭乗員が祈りを込めて、滑走路に置いていったとのことで、いまでも空港跡地に咲いているという話を聞いたことがあった。
「孝二、ここから竹部さんも新谷さんも飛び立ったんだよね。」
「ああ、そうらしい。そして、君のおばあさんと出会ったところだ。」
「うん。だから、グランマの遺言で、この場所の墓地に眠っている」
「え、どういうこと」
Evelynは、モニュメントを背にして
「多分、待っているのよ」
「誰を?」
「グランマが、全身全霊込めて愛したひとを」
Evelynは、空を見上げて言った。
空は、さきっまでの雲が、上昇気流に流されたのか、青空が広がり、前方にフイリピン富士と呼ばれていた、アンへレス山が見えた。
「この空の色は、あの時と変わらないのよね」
とEvelynは、孝二に訊ねた。
「何千年たったも、多分人類が死に絶えたとしても、変わらないと思う」
と孝二は答えた。
Evelynは、空に手をかざした。
「この空の色は、何色なのかしら」
とEvelynは、孝二の目を見据えて言った。
何かに答えを求めている目だ
「Cerulean Blue、Cerulean Blue skyだよ」
といった。




