春の潮ー3
「桜……ですか」
ナナはカップをテーブルの上に置いて、ゴソゴソと鞄を開けた。
「何だ?」
鞄の中からメガネをかけたウサギが顔を出した。
「そのウサギは?」
村長は思わずナナに聞いた。
「クラウです。私の旅のお供です」
「言い方が違うぞ、ナナ。お前が俺の旅のお供なんだ」
「それはヒドイよ~」
ナナは笑いながらクラウの頭をポンポンと叩いた。
「あやすつもりなら、止めた方がいいぞ」
「ゴメン、ゴメン」
クラウは舌打ちを残して鞄の中に入っていった。ナナはメモ帳を取り出して、鞄を閉まった。
「珍しいな。喋るウサギなんて」
「そうですか? 結構いますよ。イヌとかネコも喋りますし」
「はぁ、世界は広いな」
村長はコーヒーを口につける。
「それで、村長さん。詳しく教えてもらえませんか?」
ナナはノック式のペンを何度もカチカチと鳴らした。
「分かった。そう、急かすな」
村長は立ち上がり、家の奥へと入っていった。
村長が家の奥から持ってきたものは、色褪せた歴史を感じる本だった。
「俺が説明するよりもこれを読んだほうがいい。この本には、あの桜のことについて書かれている」
「それはとても貴重ですね!」
「とはいっても、ただの観察記録。今回のような事態はどうも初めてなんだ」
「じゃあ、何の手がかりにもならないじゃないか!」
ナナのカバンからクラウが顔を出して
「うむ……申し訳ない」村長は苦い顔をする。
「こら! クラウ、口が悪いよ!」
ナナはクラウの頭を思いっきりカバンの中へと押し込んだ。クラウは不服そうな顔をしてカバンの中へと入っていった。
「大丈夫です! 何とかしますから!」
「ああ、よろしく頼む」
「この本、借りていきます」
ナナは本を右手に持ち、村長の家をあとにした。