取引を試みるわたし
他人に触れられない猛毒体質の大魔法使いと、彼に触れても平気な毒耐性持ちニセ聖女(※実は妖精)の
人違い×隠し事から始まるハイテンションファンタジー
毎週火曜日20:20更新です。
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『猛毒持ち次期魔王(自称)に捕まった偽聖女の私、実は毒耐性持ちの妖精なんだが? バレる前に即逃げる!』
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ニセ聖女コンビが泊まってたのは町でいちばん大きな宿だった。
どうも、宿の主から「ぜひうちへ泊まってください! 宿代? まさか! 聖女さまからお代を取るだなんて!」みたいな申し出があったらしい。
至れり尽くせりの話だけど、おおかた、あとで『あの【銀煌の聖女】さまが滞在された宿』みたいに触れまわるつもりなんだろう。(……商売上手だなあ。)
もちろん、部屋もいちばん上等な部屋。居間と寝室が分かれてる、いわゆるスイートルームっていうやつだ。
その居間の方へわたしを招き入れたあと、ニセ聖女はわたしに向かって申し訳なさそうな顔をした。
「……すみません。私は付き人と少々話がありますので、こちらでお待ちいただけますか?」
そう言い残すなり、彼女は金髪の従者を連れてしずしずと奥の寝室へと入ってく。
「――セレスお嬢さま! なに考えてるんですか!」
……直後。
いましがた閉まったばかりの扉の向こうから、ニセ聖女の焦ったような声が聞こえてきた。
「いったいどんな話を持ち掛けられたか知りませんけど、さすがに警戒心なさすぎです! あんなどこの誰かも分からない人間を連れて来るだなんて!」
「大丈夫ですわ! だって、とてもお人柄の良さそうな方ですもの!」
「そういう問題じゃないです! セレスお嬢さま、あたしたちがいま、なにをしてるか分かってます!?」
「勿論ですわ!」と、金髪の少女のものらしき声が自信満々に応える。
「聖女さまと同じ銀髪と青い瞳で、美人で、性格もよく、治癒魔法まで使えてしまうわたくし自慢のリサを【銀煌の聖女】に仕立てあげ、皆さんからお金を戴こうという完璧な計画を遂行している最中で……はっ」
その声は、そこまで言ったところでぱったり途切れた。
しばしの沈黙ののち、ニセ聖女が深々とため息をつく気配がする。
「……まあ、いまさら焦ってもしょうがないですね。とにかく、あたしたちの正体がバレないよう気をつけなきゃ。……とりあえず、話を聞くだけ聞いて、なんか良い感じで追い返しましょう」
「そ、そうですわねっ……」
……ややあって、寝室の扉が開いた。その向こうから、金髪の少女を連れたニセ聖女が粛々と姿を現す。
「――お待たせしてしまって申し訳ありません。改めて、わたくしが【銀煌の聖女】エル・クレアードです」
ニセ聖女はなにごともなかったみたいに微笑みを浮かべ、優雅に頭を下げて名乗った。
……って、いや、全部聞こえてましたけどっ!?
やわらかく笑むニセ聖女の後ろには、金髪の少女が少しばつの悪そうな顔して控えてる。
……寝室から聞こえてきた話から察するに、どうやらこっちの金髪の少女が本来の主で、ニセ聖女をやってる銀髪の少女が従者らしい。(って、ややこしいな!?)
……どうも、この人たちもなかなか訳ありっぽい様子。
けど、わたしにとっての最重要課題は、この人たちを利用してあの魔法使いからまんまと逃げおおせること。この人達の事情なんて気にしてる余裕はない。
楽屋裏のやりとりは聞かなかったことにして、わたしはふたたび金貨の袋を取りだした。
「――事情を話すと長くなるので、単刀直入に言いますね」
袋を差し出しながら、わたしはニセ聖女に切り出す。
「聖女さまには、わたしのことをニセ聖女として断罪して欲しいんです」
「だ、断罪っ!?」
目を丸くするニセ聖女に頷き返し、わたしはさらに言葉を続けた。
「筋書きはこうです。
――ここ最近、聖女を騙るニセモノの出没に悩まされているあなた方が、人垣の中からニセ聖女……つまり、わたしを発見し、吊し上げます。
わたしはみっともなく悪あがきしますんで、聖女さまたちは集まった人たちを味方に付け、全力でわたしを非難してください。
わたしはすっかり追い詰められ、ついに観念して聖女さまにひれ伏すので、あとはなにか、聖女さまの慈愛溢れるお言葉で、本物の聖女の格の違いを示していただければ……と」
どうだ、わたしの完璧な作戦は! わたしはつい、心の中で自画自賛してしまう。
これなら、たとえニセ聖女が剣を使えなくても問題ない。
なんせ、どう見たって彼女たちの方が本物なんだ。彼女たちが断言すれば、みんな絶対にそっちの味方する。
そうすれば、わたしは晴れてニセモノ確定、ってわけ!
「なっ……」
わたしの説明に、ニセ聖女は目を白黒させた。
「そ、そんなこと、あたしにはっ……」
「もちろん、報酬はお支払いします」
そう言ってわたしが金貨をちらつかせると、金髪の少女が目を輝かせて身を乗り出した。
「聖女様はよろこんで、と仰せですわ!」
「ちょっ、お嬢さっ……」
ニセ聖女はうっかり言いかけた言葉を呑み込んで、こほん、と誤魔化すみたいに咳払いする。
「す、すみません。付き人と話があるので少し、席を外させていただいても?」
そう言い残すなり、ニセ聖女は金髪の少女をがしりと掴むと、引きずるようにして奥の寝室へ飛び込んでった。
「――いったいなんなんですか、あのひと!?」
……扉が閉まるやいなや、寝室からは悲鳴に近い声が聞こえてくる。
「絶対ヤバいですよセレスお嬢さま! あのひとの依頼、意味分かんないですもん! 人前で断罪しろってどういうことっ!? ……なんか、そういう趣味のひとなんですかね!?」
「けれども、あの金貨を見たでしょう? あれだけあれば三日は食いつなげますわ!」
「なに言ってるんですかお嬢さま!? あの額なら一年は余裕で生活できます!」
「まあ、そうですの!? 庶民というのは、随分とリーズナブルですのね……」
「とにかく! 報酬の額も含めて、絶対まともな話じゃないですよ、あれ! なんかの詐欺か、それとも罠に違いないです! もしかしたら、セレス様のお父様の差し金かも……絶対に断るべきです!」
「――でも、いまのわたくしたちにはお金が必要でしょう?」
その言葉に、ニセ聖女がはっと息を呑む気配がした。
「あなたに掛けられた呪いを一刻も早く解かなければ、それこそ、お父様に見つかって連れ戻されてしまいますわ」
「で、でも、あたし、断罪なんてっ……」
「大丈夫ですわ、リサ。あなたにならできます! だって、あなたはわたくしの自慢の侍女ですもの!」
あ、あのう……だから、ぜんぶ聞こえちゃってるんだけど……。
わたしはにわかに不安になってしまう。
この人たち、聖女のフリをする気あるっ!? この人達に頼んでほんとに大丈夫かっ!?
……いや。でも、少なくとも、見た目は完璧だもんね。
見た目は大事だ。現に、この町の大半の人たちは、彼女たちが本物の聖女だってこと、疑いもしてないだろう。
それに、考えようによっちゃ、彼女たちのうかつさはメリットでもある。
……いくら聖女の名を騙ってるとはいえ、彼女たちにあのクソ魔法使いを押し付けるの、さすがに良心が咎めなくもない。ぶっちゃけた話、わたしの代わりにあのヤバ魔法使いに捕まってもらう、ってことだもんね。
だから、わたしがうまく逃げおおせたあと、彼女たちにはなるべく早めにボロを出してもらった方がこっちも安心だ。さすがの魔法使いだって、ニセモノだって気づいたらすぐ彼女たちを解放し、再びわたしを追ってくるだろう。
でも、そのときにはもう、わたしはとっくに行方をくらませてるって寸法よ!
結果、わたしは逃げられるし、ニセ聖女の彼女たちにもそこまで迷惑はかからないはず。
うんうん。やっぱりこれって、最高に冴えたやり方では!?
まあ、魔法使いが悔しがる顔を見れないのは残念だけど。
やがて再び寝室の扉が開き、ニセ聖女が覚悟を決めたみたいな顔をして戻ってきた。
「――分かりました。引き受けます。……事情は分かりませんが、困っている方を見捨てるわけにはいきませんから」
そう答えるニセ聖女の表情には、どこか不安げな色が浮かんでいた。
お間抜けニセ聖女コンビを仲間に付けて、いよいよ主人公の逃亡計画スタート!
主人公のたくらみは今回こそ成功するのか!
次話「魔法使いを連れ出すわたし」、3/24(火)20:20更新
いちゃラブ回です(いちゃラブ回???)




