第15話 教会は騒がしく牢屋の中はわりと暇
前回と引き続き少しグロ表現あります。
ご注意ください。
ナイト命名ゾンビエルフことリーデルは、アルテバロンの中央部に位置する廃城から少し離れた場所の教会へ飛んできたと思いきや、ほぼ肉塊と化した死体の一部を引きちぎり口にほうばっていた。
時折こちらをチラチラとこちらの様子を見てくる。
「なんかリーデルさん、チラチラこっち見てますね。てっきり逃げた僕たちを追ってきたのかと身構えたのに、一緒に飛んできた肢体に夢中って…何しにきたんだ。この人」
ナイトは先ほど吹き飛ばされた老婆に駆け寄りたかったが、少し足を動かすたびにリーデルは足を強く踏む。
「警戒するくせに喰べ続けることをしている何がしたいんだ?」
「今、敵は私達を相手するより、食欲を優先にしてるって事かな?『殺人』が目的なら動かない死体より、生者の私達に襲いかかってくるはずだもの」
「なるほど。だったら教会まで来る必要あったのでしょうか?」
「さっき死体が際にきたっとことは誰かが、死体を教会まで投げつけて、敵を此処の入り口に投げつけ人を襲わせようとしたと考えるのが自然」
「確かにちょうど、おばあさん日課って言ってましたしね。え?じゃあおばあさんを狙って?」
一体どう言うことなんだろうか?とサフィとナイトは顔を見合わせる。
しばらくするとサフィが一言だけつぶやいた。
「そこまで知らない。あくまで推測だもの」
「あっはい。そうですよね」
にしても一度見たことのあるとはいえ、やはり人が人を食べているなんてひどい光景だ。見たくなかっただろうな仲間のこんな姿。
昔、勉強漬けで参っていた僕を気遣いゲームセンターに誘ってくれた山内くん。もし山内くんがゾンビになってしまったら僕は、どう感じるだろう。
現代日本人であるナイトは、『ゾンビ』といえば『ゲーム』という余計な偏見により、過去に一緒にプレイしたホラーゲーム中の友達の言葉が自然と頭に浮かんだ。
━━『ナイト、いいか?まず頭!ヘッドショット狙え!ゾンビはヘッドショットと同時に挨拶だ。今日は!』━━━
━━『わー物騒』━━
「ダメだ。水でヘッドショットは流石に……しばらくあの人を水につけておいた方がすぐ死なない…」
「ナイト、リーデル様に襲われたとはいえ、そこまで何か恨みでもあるの?」
「あっごめんなさい。何でもないです…」
違う違う目の前にいるのはNPCじゃなくて生身の人間だった。間違えた間違えた。何考えているんだゲームの話なんて今は、置いておけ!
挙動不審になったナイトにサフィは、少し心配そうな表情をしていたが、布の被り物によナイトがが気づくことはない。
「そういえばリーデルさん、でしたっけ?白目をむいて、人肉を頬張り血まみれの体、本当にゾンビみたいだ……出っ張った、お腹以外は」
リーデルの体は痩せ型だった。だからなのか大きくふくらんだお腹が、よく目立っていた。
にもかかわらず邪魔な腹を気にせず。大股を開き、周りの肉を掴み、大きく口を開けて肉をねじ込んでいる。
その姿からは品のかけらも感じない。
「あっ本当だ。いつの間にあんなお腹になるまで食べたんだろ」
「城の時は、もう膨らんでましたよ。サフィさん今、気づいたんですね」
城の時あったはずなのにサフィさんの反応を見るに、着ぐるみはやっぱ見づらいんだろうな…
「あとサフィさん。ごめんなさいお腹の原因は僕です」
「どうゆう事?」
「僕が水の魔法で拘束しようとしたら、それに使った水がリーデルさんに飲み………いえ、吸い込まれてしまって」
「飲み?ふ〜ん。地下の出来事のことを考えると、もしかして………」
「サフィさん?」
それってさっき言ってた地下の牢屋の出来事かな?何に対してかはわからないが、サフィさんは納得した様子。
「ともあれ教会まで飛んでき理由は、わからないけど死体はもうすぐ食べ切る。ナイト!ナイフは?」
サフィからの突如の問いに、ナイトは少し吃る返事になる。
「コッコココ腰に!」
「よし、ナイトは自己防衛に徹底!行く!先手必勝!」
「四字熟語!?」
布の腕がリーデルに向けられ、突風と共に教会の土が舞い上がる。
土煙がリーデルの視界を遮り、この隙にとナイトは老婆の体を必死に抱える。申し訳なさそうにナイトは、サフィへ聞こえるよう叫ぶ。
「えぇっと…サフィさんごめんなさい!先にお婆さんを安全なところへ運びたいのです!」
「それについては賛成」
老婆を何とか抱え、問題のリーデルの様子を見ようとサフィさん越に覗いた瞬間、白く細くて鋭い物がナイトの眼球前で止まった。
「危ない!出ないで!」
サフィの一言で、しばらく呆けたナイトは現実に戻され、足の力が一瞬抜けるが座り込むことなくなんとか耐える。
「ダーツ?針………いや違う。これよく見たら…リーデルさんが、さっきまで食べてた人の骨?」
「そういう事!飛んでくるっからっ!後ろからあまり顔出さないでっと!」
サフィは、ナイトと会話しつつ勢いよく投げられるダーツのような骨を、サフィの魔法によって当たる前に砕き落とす。
よく見れば、赤く濡れた白い棒状のような物が「バキッボキッ」と音を立て砕かれていくのがみえる。ナイトの周りには、ちらほらと綺麗な地面に白い粒が散らばる。
骨のダーツに気を取られてしまい、リーデルは眼前まで迫ってくるが、炎が二人の間で壁を作ることでリーデルが距離を取る。
「仕方ない」
突如として目の前一面が赤い光に照らされだと思えば、すぐに収束し上空に渦を作り出した。
「うわっゲームでしか見た事ない炎のエフェクトが現実に…」
「エフェクト?」
聞き覚えのない単語に反応したクマの顔が、ナイトの方へ傾いた。
「えっちょ!サフィさん前!前!よそ見!」
「被り物がズレてるだけ。私はしっかり前を見てる」
「どのみち見えづらくはなってますよね!僕が直しましょうか?」
「ナイト動けないでしょ!問題はない!」
強がってるのか、本当に見えてるから問題ないのか、ものすごくわかりづらい。
「それよりどうする?そのマーロム人の目が覚めると面倒なことになる。だから私が、敵を抑えてるうちにナイトが、その人を運んでほしい。けど今、此処離れたら不味いことになる。ナイト案ある?」
サフィの言うとおりだった。リーデル一人を残して二人がその場を去れば一般人に被害が出てしまうかもしれない。
「一瞬なら大丈夫。…多分」
サフィが、そう言って両腕を高く掲げると周りの炎が勢いを無くした。その代わりに、サフィの頭上に集まっていた炎が、槍の形を成す。
「『フレイランス』」
炎の槍は、サフィの呪文と共にリーデルへと発射された。しかし、その速度はリーデルのスピードが上回っていた為、体を捻り避けられる
しかし、突如槍が爆発しあっという間に炎がリーデルを包み込む
「ナイト、今回はわざとだけど覚えておいて。杖が無いと、こんな感じに魔法の形が崩れやすい。から」
「おぉぉ!!」
二人の間に長い沈黙が流れ暫くして、ナイトが冷や汗をかく。
「サフィさん、流石にもういいんじゃないんですか?」
「うん。少し魔力残したいしね」
炎の勢いがなくなり、姿を表したリーデルは上体を前に倒しつつも決して倒れなかった。しかし、ダメージはあるようで黒い息をしながらも立ち尽くして動かないでいるみたいだ。
黒焦げになったリーデルは、教会から生み出され続ける癒しの光と共に少しずつ物と色を取り戻す。
「ナイト敵は、回復したら、また襲ってくる。これからどうする?」
「はい。まず、お婆さんをこの場から動かさなければ始まりません。だからと言って不用意に教会から出したら余計騒ぎになる」
クルーガーさんが言っていたように、王都で使われた透明な石のようなものを持っている人間がいないとは限らない。
バレてしまったその時、エルフとバレなくても、少なくともサフィがタダでは済まない事態になるのは確かだ。対してナイトはメダル持ちである事自体、街のギルドマスターは知ってる。
そこまで考えたナイトは、決心したように自身の両頬を手で打ち、自身の体に寄りかかっていた老婆を布のボディに押しつけ、サフィの前へと出た。
「ナイト?」
「サフィさん、ごめんなさい。お婆さん連れて逃げてください」
「何言ってんの。ナイト勝算ある?メダルどころか冒険者初心者なんでしょ?逃げるならナイトだよ」
二人が揉めてる間もリーデルは肺から黒い息を思いっきり吐き出してヨロヨロと二人は近づく。
「でも、これしかないんです。このままお婆さんが目覚めれば、サフィさんも戦いにくくなります。それに、万が一、他の方が教会にこられた時も誤魔化せなくなる。危険なんですよね?エルフってバレるのは。」
その言葉にグッと言い返せなくとも最悪のリスクを負うのはナイトであることに変わりはないのだ。
なのにナイトはニッと笑い、サフィが見えるであろうクマの方に向かってVサインを見せる。
「大丈夫です!此処教会ですし、回復するから死にはしないでしょうし。第一僕が、お婆さん一人抱えて逃げ切れると思いますか?むしろサフィさんの邪魔になってしまいます。」
「………うん」
「素直に肯定されると落ち込む。でも僕なら魔法使っても何か言われることはないでしょう」
ナイトは自分で戦いの経験がほぼないことを、サフィに打ち明けている。それを知っていてナイトを置いて行くなど、みすみす死なせるようなものだった。
しかし、サフィが反論する暇を与えず、大口を開けた存在が現れナイトの右腕に齧り付く。
痛みより先に無事の方である左腕で、膨らんでいるリーデルの腹を殴りつけた。リーデルの口から大量の水が吹き出す。
正面から水を被ったナイトは、腰のナイフの柄についている蓋を外しリーデルの空いた口へ、殴るように液体を捩じこむ。「ごくり」と喉が鳴りリーデルの目が見開かれる。
薬が効いているのかリーデルの足元がふらつき膝をつき、チャンスとばかりにナイトは、彼の腕を掴んで地面に押さえつけた。
「吐いたら飲み込むのは自然。初心者の痺れ薬です味は保証できませんが。ちょっとサフィさん何してるんです!僕が抑えていますから行って!」
「それじゃあナイトが」
「非力な僕じゃ逃げきれない。迷ってないで早く!」
「すぐ戻る」
弾かれたように布のクマが、老婆を背負い一目散に駆け出した。教会の門が勢いよく開け放たれ安堵した。しかし一瞬にして、ナイトの体は強い衝撃を受け、上空へと高く弾き飛ばされる。
ちょっ高っ!地面が遠い。風が目に入る。仕返しなのか腹を思いっきり殴られた衝撃で呼吸ができない。
正直、腹が抉れたかと思った。
地面に追突される恐怖を払拭するために、自分を鼓舞するようにとにかく叫ぶ。
「命懸けなのは、もう!わかってんだよ!」
空中で咄嗟に一つのメダルを握りしめ、ナイトが叫んだ瞬間リーデルの視界を真っ白な世界が奪う。
「水!」
落下地点に大きめの水の塊を出す事で勢いを一瞬殺せたが、完全に止まったわけじゃない。
落ちた体は、水を突き抜け地面に背中を打ちつけ悶絶する。
「っあ゛痛いけど…まだ立てる」
しかし、ゴブリンみたいに暗闇で隙をつく作戦は出来ないだろうな。オークの時みたいにゴリ押しで倒すには、相手は素早く避けられて攻撃自体当たらないだろう。
それにしてもこの人、サフィさんと同じ冒険者と聞いていたが攻撃方法が噛みつくことばかりなのは少し気がかりだ。
視界を奪われたリーデルは、敵を見失い頭を左右に振る。
「よしよし、この先に拘束する!」
メダルを取り出し、地面から冷たい冷気を感じるとリーデルも自分に向けられた敵意に気付いたのか、駆け出そうと姿勢を低くした。
「やば、逃げられる!」
「神聖な教会で、なにを騒いでいるのですか!?」
「うえっ!ごめんなさい!」
突如シスターが建物から出てきてしまい、反射的に謝罪の言葉がでた。
プリプリと怒ったシスターは、よりにもよってリーデルの背後に立ってしまう。
そうだった!
忘れてたけど、シスターさんも教会にいたんだった。
「いけない、シスターさん!逃げてください!エルフが教会に来て」
「エッ!エルフ!?やっなんで、メダルを持ってるやつなんて………」
ナイトの声をかける前にエルフに気づき、シスターの顔色がみるみる青ざめ甲高い悲鳴が響いた。
シスターは、パニックになり腰が抜けたのか地面にへたり込んでしまう。
近場の獲物を見定めた獣の目は、動けない獲物を捉えた。
「させるか!」
祈るようにメダルを両手で握りしめ、水のベールが形を作りリーデルの体へと巻きついた。
ナイトは魔法を発動させ、リーデルを水の檻に閉じ込めた。そこまでは前回と同じだった。しかし今回は普通に閉じ込めず、首周りを避けて水を展開したのだ。
リーデルが、攻撃しようとしてもこんな広い場所では壁を蹴ることもできない。尚且つ城の時のように水を飲んで拘束を解くこともできない。彼は、なんなら水を飲み込んでやろうと首を四方八方とひねるが、お盆届かないせいか獣のように喉をならす。
「Tシャツ、水のTシャツ、首周りに集めなければまた飲まれないはず……うわっ!腰を曲げて飲もうとしないで!危な!大人しくしてください…結構集中力がいる、ぎゃ〜」
その度に水を移動させつつ空中に留まらせらことに成功するが、思ったり集中力がいるせいで余計なことを考えないよう自然と独り言が止まらない。
落ち着いてやらないと、形が崩れて水が飲まれる。
深呼吸、深呼吸。すーはー、すーはー。
「よ〜し、よ〜し。待っててください。」
ナイトはゆっくりと空中に囚われたリーデルを凝視しつつ迂回し、自身のバックから一つの小瓶を取り出す。
リーデルさんを無力するには、意識を奪うのが手っ取り早い。しかし、肝心の眠り薬をどう飲ますかが問題だ。
薬を飲ませようとすると噛みつかれる。
サフィさんの話を聞く限り、耳を食いちぎられたそうだから、うっかりすると僕の腕とか食いちぎられかねない。
「あっナイフ!これなら当てるだけで薬が体の中に入る!」
初めて液体入れられるナイフで良かったと思った。
何処を切ればいいんだろうと迷っているが、リーデルの暴れっぷりが激しくて水がいつ飲まれるか気が気じゃない。
「死なないところを…ちょっ動かないで……よしっ当たった」
振り回された腕に掠った瞬間、瞼がゆっくりと降りて行きリーデルの体は徐々に落ち着きが見えた。
「相変わらず薬が効くの早い。逆に怖い」
気を抜いた瞬間、バシャンと水飛沫を立ててリーデルの体が重力にしたがい、ナイトの体に覆い被さるように落ちた。
「ぐえっ!ブッ!」
リーデルの体をその間に受け止め、拘束に使っていた水がナイトの顔にかかる。
「魔法が解けたか、あ゛〜疲れた。あれ?此処教会だから毒とか回復される?でも、なんかリーデルさん泡吹いてるし回復しないけど効いてるってこと?っま!いいか!」
「あっあぁ………」
背後からの声に、震えるシスターの存在を思い出す。
体に乗っかったリーデルを、一度どけてシスターの元へ駆け寄った。
「あっ大丈夫でしたか?怪我とか…」
「いえ、大丈夫です。でも貴方、メダル持ちなんですか?」
「はい。おかげで対応できてよかったです」
怖い思いをした後というのは、なかなか抜けないものかシスターは未だ震えが止まらない様子だ。
「ナイト!」
「あれ?サフィさん早くないですか?」
門から避難したサフィさんが戻ってきた。
体感で10秒で戻ってきた感じだったから思わずつっこんでしまい、サフィは少し不機嫌になる。
「悪い?近場におばあさんの知り合いがいたから、預けてすぐに戻ってきた」
「悪くないです。そっか、ならよかったです」
「そんな事より、敵から目を離しちゃ……あれ?敵が倒れてる?」
サフィは警戒しつつリーデルへ近づくが、完全に気絶してるとわかると布の獣は歩み寄り跪いて顔を寄せる。
敵だなんだと誤魔化してはいたけど、仲間が心配なわけじゃないもんな。
仲間との再会は邪魔してはいけないのは鉄則だもんね。
………あっでも、やっぱり光景がクマが食べてるようにしか見えない。言っちゃあ駄目なのはわかるから舌を噛んで耐えるべし。
クマは、その口からリーデルの顔を離し気遣うように地面に下ろした。
「ナイトが倒したの?」
「いえ、眠らせただけです。この薬を使いました。僕、これでも毒使いなんです……って言ってもついさっき成り行きでなったばかりで薬の知識とか一切なくて、クルーガーさんに教えてもらってるんですけどね」
「ははっ」っと笑いつつ先ほどの小瓶を取りだし、サフィに見せる。するとサフィは、勢いよくナイトの手から瓶を奪い取り、あらゆる角度から瓶をまじまじと見始めた。
「……眠り薬?そんな毒々しい色のした液体が眠り薬?」
「はい!イビの草原でとれる、百合みたいな花…じゃなくて白くて大きい花の葉っぱを擦って茹でて作りました!」
「作り方は知ってる。材料も知ってるでも色は白濁の液体なはず。なんでナイトの持っている液体は黒いの?なんか異物入ってない?固形のものが見えるんだけど、ちゃんと潰した?」
小瓶の中は明度の低い液体と、所々に黒い塊がチラホラと姿を表す。先ほど使ったばかりで、量は半分以下になっている。そのお陰で固形の異物の形が見えやすい。
「クルーガーさんに見てもらいながら作りましたよ?クルーガーさん何度も本と僕の薬を見比べてくれましたし」
それにしてもディオラさんが、作ってくれた魔物のシチュー。色鮮やかな野菜が沢山入っていて美味しかったな~。
初めての野営の時を思い出しナイトは喜びに耽った。
そんなナイトの思考を遮るようにサフィはナイトへと詰め寄る。
「使うなとは言われなかったの?」
「ちょっと待ってとは言われましたが、その日は食事の時間がきた後有耶無耶になってしまったので、でもクルーガーさん作り方合ってるって言ってくれましたから大丈夫だと思ったんです」
「ストップされてる!そんな物を使うな!!」
「え?あぁごめんなさい?」
使うなとまでは言われてなければ、少なくとも戦闘中役に立つ程度は使えると思ったけど、そんなまずかっただろうか?
毒使いでなくても冒険者ならある程度、自作出来る程度の薬だとクルーガーさんから教わったが手順は全部完璧と太鼓判を推してもらえたはず。
ナイトは納得いかないと思うも、サフィの剣幕に気圧され反射的に謝罪の言葉が出る。
「あの〜、クマさんは仲間なんですか?」
すっかり蚊帳の外となってしまったシスターさんは何故か距離を取りながらそんな審問をしてきた。ナイトが、とりあえず「はい」と肯定するとシスターは目を逸らして俯いてしまった。
「ナイト、あのシスターどうしたの?」
「さっきまで襲われそうになったからショックだったのでしょう。僕もこう見えて心臓バクバクなんですよ?」
「おーい。怪我人だ!治療終わったらどいてくれ!」
遠くからの声にナイトとサフィが振り返ると、目から血を流し、肩を赤く染めながら走ってくる冒険者の姿が見えた。
「わかりました!すぐ、どきます!」
「背負われてる人目から血がすごい。治療の為にきたんで………あ!」
やっやばい!
僕らの足元にいる都合の悪い人物の存在に冷や汗をかく。
サフィは、すぐにリーデルを担ぎ出す。
「ナイト!」
「あっ隠さないと」
しかし、そんな時間は1秒もなかった。
「何だ何だ?騒がしい」
「教会にそんな重症者がいるのか?」
最悪なことに路地から人が、次々と教会へと集まってくる。
どうしよう、これじゃあ人の壁でリーデルさんを担ぎながら逃げて仕舞えば完全に不審に思われる。
慌てふためくナイトとサフィの後ろから、さっきまで震えていたシスターのお姉さんが必死になって人々に訴える。
「エルフです!そのクマが担いでるのは、アルテバロンを襲いにきたエルフです!」
町の人々は憎きエルフの存在に気づいた瞬間、人が変わったように目をギラつかさせ罵詈雑言が飛び交う。
「なんだとエルフだと!」
「エルフはこのアルテバロンの敵だ!」
「人を呼べ人を!」
「見ろ!あの赤い塊、死体だ!誰か殺されている!200年前みたいに、また俺たちを殺しに来たかもしれない!だれか縄を!」
まっまずい……教会で暴動が起きる!
石が人々の「出てけ」の声と同時に、教会へと投げ込まれる。
そんな場所に先程の重症である冒険者が入れなくなり門の周りをうろつく。
「ちょっと投げないでください。怪我人が入れない」
ポケットの水のメダルを取り出し念じる。突如ナイトの手の中のメダルの形に違和感を感じた。
サフィに声をかけようとしたが、その場は武装した兵士の怒鳴り声によって阻止される。
「サフィさん、メダルが………」
「そこ、動くな!!」
「おか…し?」
「メダルのお菓子?」
一瞬頭にチョココインが頭にうかぶ。
懐かしいな〜。いや、そんな事考えてる場合じゃない。
急に兵士がナイトの方へ、ずんずんと近づいてきた。
その場を取り仕切った兵士に呆気に取られ、野次馬たちはざわつく。
「伯爵の兵士達だ。」
「エルフを捕まえにきたのかしら?」
「あの伯爵が?」
伯爵ってアルテバロンの隅に屋敷を構えたっていう?
目の前の男は怪訝そうな顔をしながら、ナイトを睨みつけた。
怖………なんでそんな親の仇を見るようなまだ僕を見るんだろ。
メダル持ちだからとか?
あ〜王都での出来事を思い出す。
「貴様、黒騎士などと呼ばれているガキか?」
「え?っはい!一般的には大人ではあります」
「なんだその回答は!ふざけたやつめ、こっちにこい!冒険者ギルド、スターリースカイ所属ホウショウナイト!貴様に逮捕状が出ている」
出された一枚の読めない書類、彼の言う通り逮捕状なのだろう。
此方が弁明をしようとする前に後ろから突然、衝撃を受けて目の前が闇に染まった。
目が覚め、土や苔まみれな天井、小汚い牢屋と頭の頭からして殴られて連れてこられたのだとわかる着ぐるみが剥がされたサフィさんがいた。
「ってサフィさん、その目!!」
サフィの目は殴られたであろう青く腫れていた。
「あ〜うん。エルフだとバレて殴られちゃった。ごめん。シスターに仲間って思われてナイトも牢屋に入れられちゃって」
「そんな僕のせいで………それにエルフだからと言って女性に暴力を振るう理由にはならないでしょ!サフィさんはこの街の人達に酷いことなんてしてないじゃないですか!」
僕も殴られた後頭部が、ぎじぎしと痛み同時にイラつきが止まらない。
殴った奴は後で仕返し出来ないものか………
「サフィさん此処でたらサファさんを殴った人の顔教えてくださいね」
「気にしない方いいのに。それよりナイトこそ大丈夫?あの兵士に殴られた時、倒れて白目剥いて暫く痙攣してたけど」
「白目!?痙攣!?どんだけの力で殴られたんですか僕は!」
「幸い教会だったからその場で回復して済んだけど、割とすぐ敷地から追い出されたから全部は回復してないでしょ?」
ほらほらと、サフィによってナイトの体を再び地面に押し倒させて休むように促される。
にしても手錠されてないってことは、王都の時とは違ってメダル持ち用の牢屋ではないのか………脱出し放題だな。
いや、脱出なんてしたら罪とか加算されそうだ。
やめておこう。
後、何故か近くに見張りとかもいないから、これは暫く暇しそうだな。よし………
「サフィさん。メダルのレベルについて教えてもらえますか?」
「今欲しい情報!?それで脱獄の手立てとかあるってこと?」
「いえ、今なら暇もあるからと思いまして」
「暇って………絶対タイミングおかしい」
あっはい。
マイペースなナイトにため息をつきつつ、サフィは少し乗り気なのか教えてくれた。
「メダルのレベルは、簡単に言えば上がれば上がるほど強い魔法を使うことができるようになる。メダルのレベルの上げ方は、魔法を沢山使って行くとだんだんメダルの力が解放の予兆が起きる。」
「予兆?」
「なんか…メダルが解放を求めてるような感覚がするの」
そんなアバウトな感覚で今までやってきたの!?
今は教えてもらってる立場だから突っ込むのは、
一旦我慢………。
「その時が来たら他のメダルと融合させることでレベルは上がり、今より強い魔法を使うことができる。ナイトは、この町にくるまでに散々魔法を使ったはず。メダルから何か感じない?もし、変化があれば他のメダルを融合させてみて」
「他のメダルって、そういえばメダルに触れた時なんか違和感が……」
ナイトはそっと全てのメダルをポケットから出す。
「あれ?傷?模様かな?それが増えてる?」
最初に拾った時は単純な雫のマークのみの柄だったはずなのに、雫の周りに奇妙な傷がついていて何なら動いていた。
正直、模様が蛇のようにうねうねしてて気持ち悪い。
かと言って、あまりポケットから出さないようにしてたから外でぶつけた覚えもない。
どうゆう仕様なのだろうか?
「予兆出てる」
「え?これが?」
「ナイト、他のメダル何持ってる?」
「えぇっと…光のメダルと、音…じゃないか、なんて言うんだろあれ…音響のメダル?」
「使用したのに、分かってない?」
「でも、この模様が何かはわかっています。オーディオスペクトラムのメダルだと思うんですけど」
二人の間に長い沈黙が流れる。
「え?なに?」
「オーディオスペクトラム」
「………」
「何言ってるんだって顔やめてください!なんか音に合わせて動く円型のアレです!知りません?」
「………ごめん知らない」
ダメかー。
そりゃ、あったら受付とかに設置されてるはずだもんなー。便利だし。
僕も友達に何か、「かっこいい」って感じでほぼ名前だけ教えてもらっただけで、詳しく知ってるわけじゃないから人のこと言えないけど。
「おそらく音に、関連するメダルです」
「最初からそう言って」
なんでわざわざ変な単語を出すんだと、ため息をつかれた。
だって電子機器を知ってるのかと思ったんだよ。
………あっそう言えば一様、聞いてなかったな。
「サフィさんパソコンとか端末とか聞いたことありますか?ネットとか」
「?………知らない。何それ?単発?ネットって網?網でわかるのは………罠の話?」
「罠は関係ないです。ごめんなさい」
「まぁ、確かにオーク倒したところ見てたけど、水や光以外の魔法見えなかった。音関連で音そのものとは限らない……なるほど意味がわからない模様」
サフィさんの様子からして本当に機械類の存在は無いのかもしれない。
だったらなんで、このメダルはこんなデザインなんだろう?
「とにかくスキルメダルは、沢山ある中にそういったよくわからない模様のメダルがよくある。そういう変なメダルは、レベルの為に早々に消費した方がいいって私の故郷で習う」
何かをアイテムとして、レベルをあげるなんていよいよゲームじみてきた。こういうところが現実的に感じられないんだよな。
サフィさんの話から、訳がわからないメダルの対処についてエルフ達の諦めが伝わる。
そんなに訳わからない模様のメダルあるのか…他にもあるなら気になってきた。
しかし消費か………
まだ音(?)のメダルについて何も知らないのに。
適当にメダルを消費するのは──
「勿体無い気が…」
「取っておいても、仕方ない。わからないということは、メダル本来の力を理解できず無駄に手持ちを増やすだけ。ナイトのような同化をすませてない、手元にメダルを持ってるタイプのスキルメダル所有者はメダルの管理が大変になる。」
「スキルメダル……」
ナイトの顔つきが変わり、サフィがどうしたと聴く。
ナイトは何でもないかのように答えた。
「あぁ…そういえばこのメダルの正式名称、そんな名前だったなと」
「え?忘れてたの?」
思わずずっこけたサフィにナイトは、あわあわと弁明を図らんとするも、サフィの言葉ですぐに止められてしまう。
「皆さんメダルメダルいうから、スキルメダルなんて名前忘れるんですよ。そんなややこしい名前」
「オーディオナントカラムより覚えられる名前でしょ」
「それは……確かに」
「話がズレた」とサフィは、一度咳払いをして再び解説を続ける。
「うゔんっ!とにかくバレるリスクがかなり上がる。だから無駄なメダルを消費できて魔法が強くなるシステムは、私達スキルメダル所有者としては寧ろありがたいはず」
確かに、一度魔法を使えたとしてその力を100%引き出す前にメダルの持ちすぎが原因で、メダル持ちだとバレてポックリ行っちゃあ世話ないけど……
「とにかく、レベルの為にも使ったほうがいい」
「勿体無いですけど……わかりました、ちなみにどうやって使うんです?」
「消費するメダルを、レベルを上げたいメダルに近づけて」
音(?)のメダルを水のメダルへと近づけると、水のメダルが震え出した。いつも一緒のポケットに入れてるのになんで今になってこんな反応を?
「そこから『媒介とするメダルが、水のメダルに吸収される』ようにナイトが、命令して」
「命令?メダルにですか」
ナイトの疑問にサフィは、待ってましたと『こほん』と咳払いをし得意げに両手を掲げた。
「『なんとかのメダルよ、何のメダルを上げる為の礎となるがよい』とか?」
「レベル上げるたびに、そんな儀式してたんですか?エルフの方々は」
儀式中のカルト教祖のような、危ない人のセリフだった。
え?これ毎回言うの?恥ずかしい。命懸けの戦闘中に言うとなると、なおのこと恥ずかしい
「むっ!でもそう習ったし………」
少しいじけたように呟くサフィさんから、羞恥心が見え隠れする。
ナイトの頭の中に、サフィ似のエルフ達が両手を掲げながら先ほどのセリフを叫んでる絵面が浮かんだ。
サフィさんは、赤面しつつ声を張り上げる。
「とにかくやってみて!せっかく見張りいないんだから!」
そうは言われても、二人っきりとはいえ、普通にあのセリフは恥ずかしい。もしかして、さっきのポーズもしなくては行けないのだろうか?嫌すぎる。
「………おっ音のメダル様どうか水のメダルのレベルを上げる為に入ってください」
「ナイト?さっきのセリフそんな嫌?」
そんな素面でカルト教祖みたいなこと出来ないよ!
でも、サフィさんのやり方とは、さすがにかけ離れすぎかな?
しかし、ナイトの言葉に反応するかのごとく音のメダルは光の粒となって消え、水のメダルに波紋のような模様付け足される。
もしかして………出来た?
呪文(?)も違うのに。ひょっとしたら所有者の命令があればレベルが上がるのだろうか?
「あっできた?のかな……にしてもなるほど、こちらからの指示がないと消費ができないシステムなんですね。ってあれ?なんかメダルのサイズが、大きくなったような?これがレベルをあげるって事なんでしょうか?サフィさん」
メダルの変化に驚きが隠せないナイトだが、すぐさまメダルに詳しいであろうサフィに、正常か否かを確かめようと振り返る。
しかし、肝心のサファは顔が、青ざめオロオロと落ち着かない様子だった。
「え?なんで?蜿ォ縺ー縺ェ縺上※繧ゅ〒縺阪k縺ョ��」
「なんて言いましたか?サフィさん?」
唐突に人語ではない謎の言葉を早口で呟いたと思ったら、そのまま地面へと倒れ叫び続ける。
「『縺�d縲√♀縺九@縺�〒縺励g!!』」
「サフィさん、なんですかその言葉。言葉?何語ですか?あっ地元の言葉だったり?」
「『譚鷹聞驕斐b縺昴≧蜚ア縺医※縺溘�縺ォ!』」
「あの、聞いてます?僕の言葉、耳に入ってます?」
「『蜿ォ縺カ蠢�ヲ√b縲√≠繧薙↑蜆蠑上§縺ソ縺滉コ九r蜻ス諛ク縺代〒繧�▲縺ヲ縺滓э蜻ウ縺ッ、縺ェ繧薙□縺」縺溘s縺�!!』」
「すみませ〜ん!!誰か!誰かサフィさんを直してください!!」
「『繝翫う繝医≧繧九&縺�!!』」
「サフィさん!耳痛くなってきた。お願いします僕にも、わかる言葉で喋ってください!それか誰か助けて!キーンと耳鳴りもしてきた!煩い!痛い痛い痛い!」
言葉とは思えないエコーがかかっていたり、ハウリングのような音が所々音と共に混じっていてナイトには、聞き取れなかった。




