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メダルのナイト  作者: たて ばてん
10/16

第10話 クマに棍棒

 緊急クエスト発生。


 クエストの内容は東の街アルテバロンに襲撃に来た、ゴブリンの群れを一匹残らず討伐。


 ちなみにゴブリンとは、魔物中で一等、弱い魔物と呼ばれている。


 街の被害を考慮され、門の扉は固く閉ざされていた。


 街を守るため冒険者達は、正門前でそれぞれバラけ、ひたすらゴブリンを狩っている。


 クエストに参加していた聖騎士の背後へと襲いかかったゴブリンの頭を突然の流水に穴が開く。


「流石、ナイト様です」


 鎧の青年からの喝采にナイトは顔を赤らめた。


「そんな大したことは…………それにしても聖騎士さんも参加なんですね」


「はい!一様、街の危機との名目でして、とは言っても私一人ですが」


「他の方々は?」


「北の魔物討伐に」


 ここでもなんだ。

 国の殆どの勢力を使ってるなんてどんな戦いなんだろうか?


 想像したナイトは身震いし、頭を振って前を向く。


 聖騎士の青年はゴブリンの攻撃を交わしつつ五匹ほど一掃する。


 近くで見ると剣を使うって、かっこいいなとナイトは目を輝かすが、よそ見はいけないと両頬を叩いて自分に喝を入れた。


 よし。僕も冒険者だ頑張るぞ!


 ナイトはナイフを片手に、よそ見したゴブリンに向かってタックルを決め、喉に刺すを繰り返す。


 倒せそうになかったり距離が遠かったりすると、ウォーターカッター魔法で頭を吹き飛ばす。


 さっき冒険者カードを確認したけど、魔力が半分時以上回復していたから余裕もって使っていこう。


 メダル持ちであることが国王陛下から明かされてる手前、魔法に関しては遠慮するなとこの街のギルドマスターから言われた。


 それにしても命狙われる割に結構、言いふらされていて僕、狙われない?


 かと言って体術も武器もまともに使えないナイトはメダルを握りゴブリンの頭を撃ち抜く。


「血が結構つく。よく他の人達どんどん前に切りかかれるな」


 ここの人達は100匹でも()()・・と認識している。

 10匹でも苦戦する役立たず候補の僕のすべきことは、なるべく魔力を節約しつつ冒険者の皆さんを援護することと察した。


 ナイトは粉末状になった毒の瓶を取り出した。


「ナイト、その瓶は?」


「あっクルーガーさん。野営前に、クルーガーさんが教えてくれた毒の粉末です。覚えてませんか?」


 ナイトの言葉に思い出したクルーガーは、ぎょっとする。


「それって、水に溶けない失敗作って言ったやつだろどうやって使うつもりだ?」


 そっか、ゴブリンの巣穴の時クルーガーさんは馬車で待機してたから知らないんだ。


 ナイトは体を光らせクルーガーに魔法を見せるように出す。


「こうやって水で包むようにして、ゴブリンの目や鼻、口に突っ込むんです」


「凄いこれがメダル所有者の力、魔法か。あれ?成功した方は、どうした?」


「操れなかったもので」


 ナイトは昨夜の様に水を操ってゴブリンに毒を盛ろうとする。

 しかし昨夜の時とは違い、ゴブリン動きが俊敏で耳や鼻に当たるも命中とまではいかない。


 それでも隙は出来るので、他の冒険者によってトドメが刺される。


 難しいなと一瞬、油断するナイトの視界端に赤い花がさいた。


 森でのトラウマが刺激されるも、よく見ればそれはゴブリンの血しぶきだ。


 どうやら他の冒険者の方がナイトを助けてくれたみたいだ。

 ナイトがお礼を言おうとすると、


「お前、何しに来たんだよ帰れよ。邪魔」


 グサリと言葉が刺さる。


 うん、確かに他の人みたいにバシュバシュと倒せてないから実質いても、いなくてもいいみたいな立ち位置なのだろう。


「ねぇナイト、杖は?呪文は?」


 そんな落ち込むナイトに一人の声がかかる。


 悪態を着いた隣の冒険者とナイトは、「ん?」っと声のした方を向く。


 そこには──────


 血まみれのクマの着ぐるみが、血が滴る棍棒を片手に佇んでいた。


 サフィである。


 その姿にさっきまで悪態を着いていた隣の冒険者はヒュと変な声を出す。





 ────時は少し遡り10分前のこと。


 あの緊急放送の後、ナイトたちは必死にサフィの顔を隠すものを探した。


 しかし、鎧も兜も成人したマーロム人のサイズで作られていて、体格が子供サイズのサフィには、合わないものばかりだった。


 ナイトが困っているところに、タイミングよく道具屋の奥さんが小柄のサイズの着ぐるみの処分について揉めていた所を、ナイトが会話に割り込み頼み込んだ。


 捨てる手間が省けたと奥さんからは快く譲ってもらった。


 正直、顔と体を隠せれば何でも良かった。


 何でも昔、小柄の人が祭りの呼び込みに使っていたらしい。


 文化は大分、昔と思っていたが、こういう僕の世界の時代から近いものもあるんだな。


 武器も何がいいかわからないため、誰でも使いやすい、武器屋からおすすめされた武器が棍棒だった。



 そうしてできたのが先ほどの血まみれクマさんだ。





 よそ見をするナイトの前に飛びかかってくるゴブリンを、クマ(サフィ)はグシャリと棍棒で地面に叩きつける。


 ホラー映画のワンシーンが出来がっている。


 ───って、それより


「サフィさん。杖ってどういうことですか?」


「……持ってないの?」


「はい。必要なんですか?」


 サフィはため息を着く。

 表情は見えないが、落胆したのはわかった。


「杖がないと魔法を使った時、余計な魔力が外に漏れ出て、魔力切れを起こしやすい。呪文を唱えないと魔法をイメージしても最悪変に失敗する。初めて魔法を使うなら普通はやらない」


 メダルを持つ人にとっては常識らしい。


 杖の概念がなかった訳じゃないが、呪文や杖にそんな役割があるなんて思いもしなかった。


「因みに魔法を使って体が光るのは魔力が体から漏れ出てる証拠。光が魔力」


 そうなの!?目から鱗落ちる。


 ガシャン!


 クルーガーがゴブリンの攻撃を受け流して、真っ二つに切る。


 クルーガーはサファに向き直り、一瞬怯んだがすぐに次の獲物に切り掛かる。


「生憎だが、エルフ(そっち)と違ってここマーロ厶だからな。メダル持ちの常識とか基本なんてものは周知されないんだよ」


「まさか杖すら売ってない?」


「確かに昔は武器屋に杖とか売っていたみたいだが、メダル持ちの目印みたいに扱われてな。杖なんて買うこと自体、周りに殺してくれと言ってるようなもの何だよっと!」


 余裕があるのかクルーガーは器用にゴブリン達を倒しながら会話している。


 そう言われるとナイトは確かにと納得した。

 でもだからって、これは無視していい情報では無いと思った。


 僕も、これから魔法を使って行くことになるから、どのみち杖を入手を考えないと、まずい訳でもある。


「えぇっと杖ってどんなものがあるんですか?」


「興味出てきた?まず、初心者は純粋な魔の木を杖代わりにする」


 魔の木?


「魔物の木の事」


「魔物!?」


 意外な材料!


「基本的に全ての魔物は体内に魔力を循環させている生物。杖や錬金術の素材としてよく使われてる。だから杖なら魔の木は最適。でも気おつけて。偽物として魔物化してないものも、売られてる詐欺もあるから」


「あっありがとうございます」


 ついでのように警告までしてくれて優しい人だ。


 ナイトは緊急の方が終わったら、峠に行く道で杖になる魔物の木を探してみようと決めた。


 この国自体に杖売ってないみたいだし。


「雑魚なのはわかるが、今は群れを討伐してくれないかクマと黒騎士」


「クルーガーさん、ごめんなさい。そのあだ名は勘弁してください。」





 ゴブリンは木々の中から次々と湧いて出てくる。

 しかし、だんだん勢いがなくなってきた。


 おそらく、もう数が少なくなってきているのだろう。

 冒険者も余裕そうだし、このくらいの数ならわざわざ町中の冒険者を無理やり集めなくてもいい気がする。


 他の冒険者達もそう思ったのか所々余裕を見せていた。


「なんで指名手配犯を追っていた俺たちがゴブリンの襲撃に付き合わなきゃなんねぇんだよ……」


「仕方ないでしょ義務なんだかぉ──」


「え?」


 余裕そうに話し込んでいた冒険者の一人が吹き飛ばされ、一緒にいた男は呆然とその巨体を見上げ叫ぶ。


「オークだ!」



 ゴブリンより巨体な体型で巨大な木槌を携えたオークと呼ばれた魔物に、出遅れた冒険者達が次々と投げ出される。


「オーク?」


「ナイトは下がってろ。あれは中級の魔物だ」


「中級?」


 焦った冒険者達の背後から受付嬢が走ってくる。


「皆さん!調査によるとあのオークが群れを率いた可能性が高いです。群れのリーダーの報酬は金貨2枚が送られます!しかし、相手は中級なのでリタイアする方は門の小さな扉から入ってください!」


 受付嬢の声を聞き、門へ引き返す者、パーティーごとに集まって挑む者と別れた。


 残った彼らは連携をとってオークに攻撃を仕掛けるが、近くにいるゴブリンを盾にして攻撃を防いだ。


「仲間を盾に、酷い」


 その隙に冒険者はオークに拳で叩き潰され、冒険者が次々に倒れていく。


 オークの周りは血出できた赤い絨毯で染まっていく。


 ナイトは、あまりの光景に足がすくんでいるとオークと目が合った。


 オークが、どんどんとこちらへ近づいてくるとクルーガーがナイトの壁になるように踏み出す。


 その様子を見ていた隣の冒険者から文句が飛び出す。


「おい!そいつはメダル持ちなんだろう!」


「あんくらい、お前なら倒せるだろ!」


 メダル持ちに対するその戦略的信頼は何なんだろう。


 そんな立ち尽くすことしかできなかったナイトの腕を、冒険者の一人が掴み、オークに向かって体が投げ出された。


「え?え?ええええぇぇぇぇぇ?」


 ナイトの体はオークの前に投げ出され尻餅をついた。


 確かに役に立ってないとはいえ、躊躇なく投げるか?冒険者の人。

 じゃなくて───


「近い近い近い近い近い近い近い近い。どうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう」


 自身の倍ある大きさと、殺意のこもった目にナイトは、冷や汗が止まらず腰が抜け涙が出る。


 冗談抜きで今度こそ死ぬ!


「ナイト、魔法を使え!」


 クルーガーの声にナイトは我に帰る。


 急いでメダルを掴み、何本か水の直線がオークに降りかかるが勢いがでず、巨大を濡らすだけだった。


 落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け


 冷静になろうとして逆に思考がまとまらない。


 多分、これがサフィの言ってた魔法が失敗してる状態なのだろう。


 ヴァインボアと対峙した時のことを思い出せ!


 オークは距離は近いが、ヴァインボアと変わらない豚の顔をしている。


 割と容赦なく殺しにくるし、動きも早い。

 隙を見せたら死ぬ!

 目を逸らせない!顔怖い!

 気分はクマに遭遇した気分だ。


 可愛い血まみれのクマなら後ろにいるが……


 オークは目にも止まらない速さでナイトに容赦なく木槌を振りかざす。


「偽蛍!」


 ───が瞬間、ナイトの声と同時に目眩しの閃光が放たれた。


 一瞬オークの目が眩み木槌が、ナイトの体への直撃を免れた。


「でっ…………出来た…これが呪文で………合ってるかな?出たし…」


「ナイト、いったん下がれ!」


 クルーガーがオークの体へと切り掛かる。


「くらえ!」


 ガキンッ!


 しかしオークには、何故か傷一つつかない。


 それどころか硬い何かにぶつかった音が一瞬、響いた。


「はぁ!?どうなってやがる!こいつ急に攻撃が通らなくなりやがった!」


 突如、物理現象を無視したオークの体に他の冒険者が「嘘だろ」と数人リタイヤし始めた。


 殆どの冒険者達は戦意喪失し次々と門の中へと入っていく。


「流石に下級には無理だったか…」


 聖騎士は潮時だといい、サフィの腕を引っ張り下がらせようとする。


「クマ?の方、貴方も先に戻りましょう。今回オークを倒せなくても北の魔物狩りへ行った冒険者がそのうち帰って来るのを待つしかありません。現状は数を減らせただけで十分です」


「でもそれじゃあ門は、いつ開くかわからなくなる。私達、先に進めないのは困る。聖騎士の貴方はいかないの?」 


「あいにく私は見習い。教会を任された者として、ここで死ぬわけにはいかないのです」


 魔物の群れは増えるのは、あっとゆう間だ。


 凄腕冒険者が不在の街では襲撃クエストは大概、群れを倒して、増えて、倒して、増えて、を群れのボスを誰かが倒してくれるまで繰り返すだけになる。

 そこから進展することは基本ない。

 下級冒険者しかいないこの状況なら尚更だ。


 サフィは杖すらも持ってない状況で、下手に魔法を使うとクルーガーみたいに勘のいい人間に気づかれる可能性がある。


「どうしよう。でもだからといって棍棒じゃアレは倒せないし」




 ナイトは、オークの頭に向けて水の魔法を放ったが、見えない壁に憚られ分散する。


「魔法も効かない。どうなってるんだ?」


 カンカン!


「こっちだオーク!」


 剣と鞘で大きな音を鳴らすことでクルーガーは、ナイトからオークを離そうと試みる。


 自身に通じない魔法には興味なさそうにオークは、クルーガーの元へ走っていく。


「クルーガーさん、無茶です!僕に構わず逃げてください!」


「逃げるのはお前だ!俺が囮になるからお前は門に戻れ!」


 そう強がってはいるが、クルーガーはこの1日ほぼ休めてない。

 心做しかクルーガーの足がふらついているように見えた。

 そんな状態なのにオークからの猛攻撃を受けても剣を振い続ける。


 しっかりしろ僕!


 さっきから守られてばかりで恥ずかしいぞ!


「考えろ考えろ。手持ちにあるのはナイフ。でも見えない壁に幅来れて攻撃が当たらない。そもそも何で急に当たらなくなった?魔物もメダルを持ってたりするのか?いっそのこと、さっきのクルーガーさんみたいに音で引き付けて罠にはめる?落とし穴とか?でもそんな時間ないし………音?」


 ナイトは保留にしていたメダルを取り出しよく見る。


「まさか………」


 ナイトはかつての友達に見せてもらった、動画を思い出す。


 ───「なぁ騎士、この曲イカすだろ?」───


 今まで自分が確認したメダルはストレートに表現されたマークが描かれていた。


「でもやらないよりやってみる!」


 冒険者のほとんどがリタイアしてしまうとゴブリンの標的が段々、絞られてくる。


 おかげでクルーガーはオークの攻撃を受けながら、ゴブリンにも死角を攻撃され、ダメージが蓄積されていく。


「くそっ、なんつう馬鹿力だ。あー!雑魚ゴブリンが鬱陶しい!イテッ!」


 鎧もボロボロになっていき、膝をついてしまう。


「しまった」


 殺される!咄嗟に頭を守ろうと丸くなる────


 突如、耳鳴りと共に空気が揺れた。


「何だ?ゴブリンが倒れた?」


 オークは頭を抱え暫く固まった。



「クルーガーさ───ん!!」


「ナイト?何してんだ早く門へ戻れって言っただろ!」


「大丈夫です!オークは僕が倒します!」


「はぁ?」


「今のうちに逃げてください!」


 クルーガーは戸惑いながらも、チャンスとして急いでゴブリン達から距離を取ることに成功した。


「ナイト、何か策があるのか?」


「はい。そのためにはクルーガーさん、できればすごく離れてていただけますか?」



 オークが首を横に振り、原因であるナイトを睨みつけ、早いスピードで走ってくる。


 ナイトは焦らず冷静に深呼吸をして、水の玉を顔を狙って打ち続ける。


 効かないとはいえ視界の邪魔になるだろう。


 オークは木槌を振り回して水を払う。

 すかさず偽蛍の閃光を浴びせる。

 オークの目が眩んだところで、ナイトは3枚目のメダルを握りしめ標的をオークにぼり込む。


 空気が振動し、さっきより高くも轟音が長時間、響いた。


「ぐぅうう」


 ナイトは耳から出血し、オークは呆然と立ち尽くす。


 オークはふらつきながらも、ナイトの体を掴みそのまま握りしめようと力を込める。


 ナイトの体がさからミシミシと音を立てるが、オークの体から無数の水の槍に貫かれる。


「魔法を使ってる時と同じだ。意識してないと攻撃を弾く力は使えないんだな」


 今度こそオークは地面は崩れ落ち、本当に動かなくなった。


「ナイトが中級の魔物を倒したのか」


 思いもよらない出来事にクルーガーは、ただただ呆然とこの事実を受け入れるしかなかった。


「まさか?この模様オーディオスペクトラムだったの?」


 あの音楽に合わせてうねったり、波紋を作ったりする?


 かつての友達が見せてくれた音楽に合わせて波打つ円型の方。


 「名前の雰囲気が、かっこいいからと覚えさせられたな〜」


 ………分かりづらいにも程がある!


 後のメダルなら音符とかあったでしょうに。


「この世界、コンピュータがあるのかな?」


 じゃなきゃこんな発想ない。


 頭を悩ませるナイトに冒険者から歓声がかかる。


 先程のことなど無かったことのように冒険者はナイトの周りに集まった。

 それぞれの冒険者から称賛の声がされる。


 ナイトは自分を投げた冒険者の顔を見つけ、その男が「見直したぜ」と親指を立てた。


 ナイトはふふッと笑顔を浮かべ───


 鼻に向かって頭突きした。


 ナイトはちゃんと祖父の教え通り勝つまで仕返しはするタイプなのである。


「ぶべり」とその男は情けない声をあげて転げ回る。


 周りの冒険者を押し除けて、よくやったとクルーガーは親指をグッと立てた。


「ナイト、かなり重症だな」


「クルーガーさん、耳は痛いですけどそれ以外は大した事ないです。クルーガーさんが守ってくれたから」


「怪我、後で教会行って直してもらおうな?さて、オークを倒したからと言ってクエスト終了なわけじゃないぞ?残り少ないとはいえゴブリンは全部討伐だ!」


 クルーガーとナイトは構え直し、他の冒険者達もゴブリンへ向かっていく。


「サフィはナイトの援護をして……く………喰ってる?」


 クルーガーの様子にナイトもサフィを見る。


 そこには可愛らしいクマが、ゴブリンを咥えている光景があった。


 ムシャムシャと音が聞こえてきそうだ。


「喰べてない」


 因みにこのクマの着ぐるみは、口から外が見える構造をしている。


 だから本当は、サフィがゴブリンを持ち上げ、首元をよく見ようとしているのが正解だろう。


 サフィはゴブリンの死体をポイっと雑に投げ捨て、ゴブリンの首や体に付いていた飾りを見せると、クルーガーはただらない雰囲気だ。


「これ見て。ゴブリンの首飾りなんだけど、さっきナイトが倒したオークの飾りと明らかに違うの」


「それって!」


「え?どう言うことですか?」


「ゴブリンは群のボスと似た飾りをつける。そのボスの群れである証として」


 飾りには荒い紐と小さい琥珀色のほんの小さな石が、通されてるだけのデザインだ。

 こうしてみないと気づかないくらいに小さい飾りだ。

 群のある証にしては目立たないデザインというにはあまりにも粗末なものだ。


「これが本当なら、あの群れは別の魔物に惹きつけられたってことか。ギルドの調査が間違えた?」


「皆さーん!お疲れ様です!魔物の死体は回収屋の仕事ですので、報酬を受け取りに来てくださーい」


 受付嬢の方から呼び掛けがかかる。


 どうやら話してるうちに残りのゴブリン達は全て倒されたようだ。


「兎に角この事は俺がギルドマスターに報告しておく。お前らは報酬を受け取りに行ってくれ」


 クルーガーは急ぎ去っていく。


 ほぼ二人きりになった途端ナイトは唸った。


「あ゛ぁぁぁ────怖かった」


 終わったことに今までの緊張が一気にほぐれ、ナイトは地べたに座り込んだ。


「ナイト、ゴリ押しとはいえ、よく倒せたね」


「不意打ちとかの時は攻撃が当たってた気がしたから、その隙をついたらうまくいきました」


「足ガクガク。怯えすぎ?」


「僕の世界じゃ普通、ここまで危険な事する仕事は、特別な仕事以外ないんです」


 自衛隊とか警察組織の機動隊とか?


 少なくとも一般人が事故に巻き込まれても、こんな自ら戦うことはなしない。


「だから油断が多いんだね」


 ふふっと笑うサフィにナイトはグッと口を結ぶ。

 ナイトはふと自分を投げた冒険者のことを思い出す。


 いくら僕が役立たずだからといって自分が戦ったら負けるかもしれない相手に他人を投げ飛ばすかね。


 仕返しはしたが、思い出したらまたムカムカしてきた。


「聖騎士。さっきから見当たらない」


「先に帰ったのではないでしょうか?聖騎士さん一人って聞いたから普段から忙しかったのかもしれませんね」


 てっきりナイトの活躍を見て1番に駆け寄ってくると思っていたが、その時には彼の姿はなかったことにサフィには気になった。


「そこまで気にすることでもない。それよりナイト、早くギルドに行こ?私もこの着ぐるみ早く脱ぎたい」


「あっうん。着替えもついでに買わないといけませんね。パーカーみたいなのとか売ってないかな?」


「パーカー?」


 この後ギルドに行く途中、街中を歩いていると血まみれクマさんが衛兵に囲まれたのはいうまでもない。







 緊急クエストが終わる頃にはもうすっかり日が暮れていた。


 クルーガーは、ギルドに報告の後、その街のギルドマスターに呼び出された。


「もう二年か……」


「何がだ?」


「冒険者を初めてからです。フレアさん」


 人気のない裏路地にドラゴンの刺繍がされた、赤いチャイナ服のようなファッションの女性が、歩み寄ってくる。


「思いに耽るなんて、ついに見た目通りに歳をとってしまったか」


 やれやれと首を振る。


 彼女は東のギルド『クリムズンフレーム』のギルドマスター。フレア・ドラゴン。


「見た目通りって何ですか。俺は十分若いでしょう」


 クルーガーは、ふん!と腰に手を当て胸を張る。


「クルーガー、お前から若々しさと言うのは感じないよ。老けなら感じるが危険な仕事だからと言って無理をするなよ」


 ガーンと軽くショックを受けクルーガーは項垂れた。


 俺の方が年下なはずなのに……。


「なぁ、あのメダル持ちが噂の”英雄様”か?別人じゃないのかい?」


「いえ、俺もこの目で見てはいないのでわからないですが、呪いを解いたのは、あいつで間違い無いとスターリスカイ(ウチ)のギルドマスターが言ってましたし」


「あの馬鹿が言うなら間違い無いんだろうが、わかった。呼び出してすまなかった。もう遅い、ゆっくり休め」


 立ち去ろうとするフレアにクルーガーは引き止める。


「あの……飾りの件どうなりましたか?」


「おそらくだが、前の群れのボスが街に来る直前に倒され、上が変わったとかだろう。うちの調査員が調査したんだ。あのオークがボスで間違いない」


 フレアはクルーガーと目を合わせず言い切った。


「………嘘ですよね」


 クルーガーは、納得しなかった。


「ほう、なぜそう思った」


「あのオークの武器には目立つような血が着いてませんでした。最近獲物を倒してない証拠です。群れのボスより手下のゴブリンが獲物を取る役目を負うので、普通なら珍しく無い。しかし、ボスが変わったのならオークが戦ってないとおかしい。それと、手下であるゴブリンがボスに飾りを合わせていないのは圧倒的に不自然です」


 暫し、彼らに沈黙が流れる。


 タバコを取り出しフレアは一息吐く。


「まったく、そのくらいの知識があるんなら、もうお前、中級受かるだろ。だか、あのオーク以外にボスらしき者はいないのは間違いないよ。お前の不安は奇遇に終わる」


 それでもと食い下がるクルーガーにフレアは彼の肩に手を置く。


「お前が不安なのは魔物を養殖していると噂の盗賊だろ?あいつらが群れを嗾けたんじゃないかって」


 フレアはタバコの灰を落とす。


「それはあり得ない。たとえエルフであろうと、オークのような中級モンスターを使役できたものは存在しない。それを含めての中級だからな」


 フレア言い切った。


 実際冒険者の他にも今までの魔物を使った犯罪者の中でさえ中級モンスターを手懐けたなんて話は聞かなかった。


「それに、噂の盗賊は足取りは掴めたと報告が入っている。取り押さえられるのも時間の問題だろう。安心したか?」


 クルーガーが不安と感じていた事を全て突破られてしまった。


「わかった取り敢えず、この話はこれで納得しておく」


「いい子」


 しかし裏がある可能性についてフレアは否定の姿勢を見せなかった。


「マスター!」


 受付嬢が二人の元へ走ってきた。


「来るなと言ったはずだぞ?」


「すっすみません。あっと、そちらの冒険者の方に要件が」


「俺に?」


「血まみれのクマの着ぐるみの仲間って貴方でよろしかったですよね?今、そのクマの方が………」


 サフィの事だ。


「まさか、あいつ暴れたのか?」


「いえ、しばらく立ったら急に苦しみ始めて動かなくなり、連れの青年が泣き出してしまって、どうしましょう?」


 多分、サフィが衛兵にキレて魔法を使いそうになり、ナイトが魔法で止めてパニックになったってところだろう。


 ナイトは無意識に魔法を使うことがある。


 頭を抱えたクルーガーに爆笑するフレア。


「随分と騒がしい仲間だな。ディオラ以外にもそんな奴がいたんだな」


「二人とも一時的なパーティーだ。明日には門が開くだろう。そしたら俺たちは街を出ていく」


「そうか。なぁクルーガー、お前は何で昇級試験を拒否するんだ?能力も十分備わってるってデイヴィスから聞いたぜ?」


「………わからん。でも、中級になりたいって思えないから…………か?」


「こっちが聞いてんのに疑問系かよ」


 二人はそのまま別れ、クルーガーはナイト達の元へ走った。


 残されたフレアの元にローブを着た男が忍び寄る。


「あまり褒められた行動じゃなかったな。腰の抜けた少年をオークの前に投げるなんてな、アルバナディオス」


 フードを脱ぐと眼鏡をかけた青年が不機嫌そうな顔を出す。


「私もそう思います。しかし、彼の強さを周りに見せつける必要があったんですよ。”英雄様”には気弱でいられると無法者に狩られやすくなってしまう。何より彼が、どっちなのか見分けなければならない」


 どっちという言葉にフレアは首を傾げた。


「確かに聞いていた年齢より小さいけど、見た感じ買い被りすぎたと思うわ。気弱すぎる軟弱者って感じがしたわ」


「貴方の目から見てもそう思いますか」


「これは私の予想なんだけど、あの子が特別視されてるのって呪いを解く力とか?」


「………」


「国王陛下は味方にするつもりで、冒険者やらせてるの?いくら冒険者が魔物討伐が主流だからといって鍛えたいなら兵士にすればいいんじゃないの?」


「デイヴィスからの話によると最初の彼は冒険者になろうとしたのは一時的の日銭稼ぎのつもりだった。と聞いています。しかし、どういう心境の変化か正式な冒険者として活動することを決めたそうで」


 フレアは意外だと思った。


 あの震えてるだけの少年がそんな好戦的な考えを持つなんて。


「もしかしてあの少年、王族なのかしら?」


「それは無いと思います。見たことないですし」


「そう。よく分からないわね。………ところで、あの()()も国王陛下の仕込みなの?」


「それは知りません」






 クルーガーは、ギルドへ入り、ナイトを迎えに行った。


 サフィに関しては、ナイトの魔法を喰らったのか、びしょびしょなのは予想通りだ。


 しかし衛兵がうずくまったナイトを囲み眉を顰めオロオロしていた。


「一体何が……ナイト?」


「ゔっ………クル…が……さ」


 ナイトは、ひどく苦しんでいる様子だった。


「おい!一体何があった!サフィ、説明しろ!お前らこいつに何をしたんだ!」


 ナイトが衛兵に何かされたのかと思い怒鳴る。


 しかし衛兵は心当たりがないようだった。


「いや我々は何もしていない。話をしてるうちに、急に元気がなくなって、だんだん苦しみながら倒れていったんだ」


「毒か?ナイト!しっかりしろ!」


 まさかあのオーク呪い持ちだったのか?

 冷や汗をかくクルーガーにナイトは目を開く。


「クルーガーさん、おかえりなさい。大丈夫です。気にしないで……ください」


「まさか傷が悪化したのか?待ってろ!今教会に連れていってやるかなら!」


 しかし、衛兵はナイトに用があるようで話が終わってないとクルーガーを止めるが、クルーガーはもどかしさに衛兵を押し除けようとする。


「っどけ!」


「クルーガーさん………本当に!大丈夫なんです。……痛いだけで…………少しすれば治ります」


 ナイトはこの状態が何なのか知ってる口ぶりだった。


「何だ?お前の体に何が起きてるんだ?」


 焦りながらも、恐る恐る聞くクルーガーにナイトは、痛みを堪えて声を絞り出しす。



「────筋肉痛です」


 サフィは無言でナイトをしばいた。


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