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ソドムの住人

20代の中頃から途端に増え始める結婚の知らせ。マイノリティーの私はその報告を聞きながらうまく社会に擬態するのであった。

高校時代の同級生が婚姻届けを出した。

その報告を居酒屋で聞く。今回の飲み会にはクラスメイトの男子だけで集まっており、表情に遠慮がない。

「何でも聞きだしていい」という承認をこの狭い空間が与えていた。


これから繰り広げられるであろう一切興味のない惚気話を聞くだけで済むなんて、なんて手の掛からない会だろうと内心喜んだ。

世間的には「おめでたいこと」であるから、私はやや照れくさそうに報告する彼を主役に祭り上げ、乾杯を促した。


「おめでとう!いや本当におめでとう!!」


嘘が受肉した顔や体は素直に彼を褒めたたえ、人生の階段を一段上がった背中を崇めた。客観的に私を見る神の視点あるいは心の内奥から私を見つめる素面の私を何者かがじっと見つめている。そんな気がした。

何かを祝うという感情は非常にシンプルなものである。つまり私に関係しない事柄であればあるほどその場いる人物を主人公にしてしまえば、私の話をする必要が暫く無くなる。私に関係がないものであるほど、その場に不必要な私情や葛藤を言葉に乗せずに済んでしまうのである。ゆえに嘘の身体は流暢さをもって彼にこう伝えるのであった。


「お前は漢だ!流石だよ!」


こうした感覚が染みつくと次第に私の中で結論の出ていない感情や思想ですら「一旦どうでもいいもの」として身体から分離させる習慣が染みつく。その方が演技が上手になるのだ。幼馴染や級友と世間的に認知される間柄というものは、その実「私がそう認識しなければ」他人になり、彼らの人生のすごろくに惑わされずに済む。結婚の報告とは非常にどうでもいい話であった。


彼は慎重に婚約の経緯を話し始めた。私はその話を適度に遮り、どういう状況なのか、相手はどのような顔をしていたのかを聞きだし、一人称視点で語る彼の遠慮を孕んだ情景描写を事細かに紐解いていく。

お前の話を聞きたいんだ、気になるんだという体裁でおおよそ感動的シーンを安易に想像し質問を重ねていく。


聞き手に回ることがどれほど精神的に楽であるか。彼に目を向けたまま酒を仰ぐ。彼の言い淀みを肯定するように、さも「聞き手に回っているからゆっくり話してごらん」と落ち着かせるように「おん、」「ほいで、」と相槌を打つ。フレッシュな話題が展開される中で落ち着きのある和やかさが場を包むのであった。そうした雰囲気をファーストペンギンになって展開しておくと他のクラスメイト達はその空気に同調する。そうすると勝手に彼の口からRPGのストーリーが流れ、私は単なる傍観者でいられるのだ。


一通り話を聞き終えると全員が満足したように彼の言葉を消費し、話の区切りを付けようとする。私はその空気を逃さない。婚約をした彼の向かいに座るクラスメイトに今度は話を振るのだ。司会者というものは場の盛り上げに対する貢献度を高く評価される割に個人的な話をしなくても済む。「自分の話ばかりでお前は最近どうなんよ」と言われそうな空気にならないように細心の注意を払う。

私は相槌を打ちながら会話の端々で捏造したプライベートを小出しにして提供する。ここで注意しなければならないのは、その情報に巧妙さを滲ませてはならないのだ。


もし彼が「〇月〇日に挙式するから来て欲しい、場所は〇〇」と言えば、私は「〇〇って△の近くだよね?あそこ前通った時に雰囲気良かったよ、良いところを選んだね。」などと言うのだ。虚言だったとしても確認する価値のないような内容でなくてはならない。その内容に対して少しでも疑問符が浮かぶような内容を言ってしまえば彼らの顔が一瞬曇る。それ以降の私の言葉には引っ掛かりが生じやすくなり、会話の矛先がこちらに向いてしまうリスクが出てきてしまうのである。


とある水質の良さが美しい景観をつくることで有名な湖を舞台に、彼は桟橋でプロポーズをしたそうだ。

「ここは本当に波が穏やかで、日が入れば湖全体がキラキラしていて絶景だよね。彼女も感動したんじゃない?」

こう言っておけば、「行ったことあるんだ」という彼らの推測から勝手に私のプライベートを知った気になってくれるのである。私は斯くして世界で王道のすごろくに参加をしているフリをして社会に擬態するのであった。

皆さんはどう社会に適合・擬態していますか?

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