表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
断罪された悪役令嬢に、ひきこもりが転生。貧乏平民からの無双。リリカ・ノクスフォードのリベリオン  作者: 織部


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/85

光の御木、王都を行く

 二本の大木を引きずって、ティア様の待つ湖にたどり着いた。


「遅かったね。――あれ、一方はスサノオの木じゃない?」


「実は……」


 私は、“あの少年の声”について、ティア様にすべて打ち明けた。


「なるほどね。峻烈な王と呼ばれたスサノオだけど、本当はとても優しい子なのよ。隠れファザコンでもあるしね。魂が共鳴したのね、きっと」


 ティア様の笑みに促され、王都近郊の丘へと木々を移送する段取りが整った。そこから先は、私たちの仕事だ。


 私はガンツ隊に招集をかける。


 王都に近づきすぎると、突然現れた大木が不審視される恐れがある。(……まあ、この丘からでも十分に怪しいのだけれど)


「わっしょい、わっしょい!」「よーいっとせ!」


 掛け声とともに、大木が動き出す。まるで祭りのような空気だった。私たちの使命に、楽しさが混ざっていた。


「何をしているんだ?」


 馬上から王都の検問所の男が声を上げた。


「父の馬車の材料を運んでいます」


 私の答えに、彼は目を輝かせた。


「俺の勤務もあと少しだ。是非とも手伝わせてくれ!」


 そう言うと、彼は検問所へ駆け戻り、待機中の職員や市民を引き連れてやって来た。


「バルト様への恩返しだ! あの冬、薪を配ってくれた恩は忘れてねぇ!」


 民の数が増え、声が空を満たす。


「俺たちにも運ばせろ!」「手伝わせてください!」「僕たちも引っ張りたい!」


 貧民街の老人たち、子供たち、商人、職人、旅の者。誰もが手を差し伸べようとしていた。


 そして、あっという間に目的地――馬車職人の工房に到着する。


 だが、民衆はまだ名残惜しそうに立ち尽くしていた。


「――さらに大きな木が、もう一本あります! ぜひ、運ぶのを手伝ってください!」


 私は大木の上から呼びかけた。


 空気が震える。


「おおーっ!」「わあい! もっと大きいんだって!」


 スサノオの木が現れると、その身から霊光があふれ、荘厳な光が王都を照らした。


「なんだ、あの木の光は……」


 どよめきが走る。その中で、一人の老婆がゆっくりと立ち上がった。


「……足が、軽い。長年、動かなかったのに……」


 スサノオの木は、祝福の木だった。


 セバスチャンが高く掲げたのは、白地に盾とドラゴンが描かれたノクスフォード家の大旗。


 スサノオ大王の妹・サクナヒメの血を引く、王国東方の守護貴族。


「旗が上がったぞ!」「ノクスフォードの旗だ!」


 その声に、私はセバスを睨むが――彼はうっとりと旗を見上げていた。


「……やりすぎじゃない?」


 私は嘆息しながら、進行を再開させる。


 最悪、王都騒乱と見なされれば、首謀者は死刑だ。もちろん、彼に責任を押しつける気はない。


「ガンツ隊は誘導を! 門の衛兵たちは交通整理をお願いします! 安全第一で!」


 空には歌声が満ちていた。


「エンヤ、エンヤ――神の御木を曳くは我らの誇り!」


 そして、工房街の手前――。


 王都守備騎士団の数名が、進路を塞いだ。


「これは何だ! 首謀者、前へ出ろ!」


 私は一歩前に出ようとするが、門番の一人が制止し、代わりに警備長が叫んだ。


「市民の祭りです!」


「そんな申請は出ていないぞ! 暴動と見なすぞ!」


「法律上、申請は不要です。安全配慮義務も満たしています」


 私が静かに進み出て、毅然と告げた。


「首謀者は……リリカ様、か」


 周囲がざわめく。だが、私は迷いなく宣言した。


「――工房に到着しました。これにて祭りは終了です」


 明確な収束宣言。騎士たちに口実を与えない、ギリギリの手綱捌きだ。


「じゃあ、万歳三唱で解散だ!」


「クリスフォード家、万歳! バルト様、万歳! リリカ様、万歳!」


 ……やれやれ、それじゃまるでデモ行進じゃない。


 私はただ、騎士たちがこれ以上は追わないことを祈っていた。



「こんな立派な木で馬車が作れるなんて……こりゃあ、腕が鳴るな!」


 工房長の目が、まばゆい木の幹に輝いている。


「お願いします。ただし――この光る木については、余りが出ても、他の方へはお売りしないでください」


「そうか……残念だが、仕方ないな」


 取引は順調に進み、むしろ私たちが大金を受け取る形になった。交渉は、すべてセバスに任せた。


 馬車の完成には数日かかる。その間に、私はもう一度、パールの家を訪ねた。


 だが、家は空だった。家具も何もない。整然としていた。


 荒らされた形跡もない――だが、不穏な沈黙が残っていた。


「行方を至急調査します」


「……ええ、お願いね」


 引っ越しか、それとも――。


 何かが、ふいに遠くへ滑り落ちていった気がした。


お忙しい中、拙著をお読み頂きありがとうございます。もしよろしければ、ご評価をいただけると幸いです。又、ご感想をお待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ