表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
断罪された悪役令嬢に、ひきこもりが転生。貧乏平民からの無双。リリカ・ノクスフォードのリベリオン  作者: 織部


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/138

貧民街の顔役

 王都に戻ると、貧民街の表通りにある「サクナ薬局」で騒ぎが起きていた。

「だからよ、風邪薬を十箱寄越せって言ってんだろが!」

「お売りしません」


 毅然と応じるのは、店番のエマ。相手は明らかにごろつき――いや、薬の転売屋だ。彼女は一歩も引かず、冷静に睨み返している。


「なあ? ここに十人いるんだしよ。ひとり一箱ってことなら、問題ねぇだろ」

「昨日も、まったく同じ面子でお越しでしたよね。薬の購買記録、残ってます」


 図星を突かれて、連中のひとりが舌打ちした。中でも一番ガタイのいい男が苛立ちを爆発させ、カウンターのテーブルを拳で――

 どかんと叩き割った。


「お客様、破損物は弁償いただきます」

 その瞬間、いつの間にか現れたセバスが、男の腕を軽く掴んで締め上げていた。顔は無表情。目は容赦がない。


「釣れたわね。ご苦労さま、エマ」

 私が歩み寄ってそう声をかけると、エマはぱっと緊張を解いて、駆け寄ってきた。頑張った証に、そっと頭を撫でてやる。


「さて。ボスのところに、案内してもらおうかしら?」

「し、知らねぇ……俺はただ言われて来ただけで……」


 締め上げられたごろつきの大男が、泣きそうな声を出す。

「じゃあ、知ってる奴のとこまで案内してくれませんか?」


 セバスの声は相変わらず丁寧だが、背後で音を立てているのは、どうやら腕の関節らしい。近頃の彼はちょっと荒ぶり気味だ。私も静かについていくことにした。


 店の外では、逃げようとした他のごろつきたちが、すでにガンツ隊に囲まれていた。

「逃げたり、剣を抜いたら――燃やすよ?」

 警告が終わるより先に、ひとりが剣を抜いた。すかさず、その服に火魔法をぶつける。


「ああっ、熱っ、焼けるぅ!」

 服に火が移り、地べたを転がって消そうとしている。あら、ちょっとやりすぎたわね。


 水魔法でさっと鎮火。

 ……私も最近、ちょっと荒ぶってるかもしれない。

「はい、剣は捨てて、手は後ろ!」

 ガンツ隊が手際よく、ちんぴらたちを拘束していく。魔法で燃えたのも含めて、皆おとなしくなった。


 無駄な流血はなし。店も守った。悪党も捕縛。

 結果だけ見れば平和的な解決だ。たぶん。

 私たちは、この貧民街のギャング団のボスの居所を探していたのだが、見つけられずにいた。かなり用心深い男らしく、全く表にも出てこない。


 なんとか芋づる式で、ボスのいる場所にやっと辿り着いた。

「本当に、こんなところにいるんだろうな?」

 幹部になるほど口が固かったが、そこは平和的に解決した。



 貧民街の外れ。

 崩れかけた、古びた教会――まるで廃墟のように見える建物だ。だが、その裏口には僅かながら、人の出入りの痕跡が残っていた。


「……またも、西方聖教会、なのね」

 ゲームでは通常ルートでは訪れない場所。私が“聖女闇堕ちルート”と呼んでいた、特殊なシナリオでのみ登場した教会。

「警戒して入るわよ」


 内部からは、人の気配がする。私は小さく息を吐き、セバスとともに扉を押し開けた。

「ほらよ。信者様には先に道を開けてもらおうか」

 セバスがギャングの幹部の背を軽く蹴り、強引に先導させる。堂々たる礼拝堂を横目に、私たちは脇の小部屋の前で立ち止まった。


 ――コンコン。

 ノックに応じて、扉の奥から現れたのは、年配の司祭だった。

「……どうなされましたか?」

「この者たちが、司祭様にお話があるそうです」

「そうですか。どのようなご用件でしょう?」


 ――違和感。

 柔和な表情。穏やかな声。だが、それはあまりにも自然すぎた。

(……この人が“首領”? 本当に?)


 私は視線だけで合図を送る。ガンツたちが司祭を囲み、じわじわと間合いを詰める。だが――司祭は微塵も動じなかった。


(……変だ。まるで、何も知らないような……)

 このままでは、ただの弱い者いじめだ。私は、慎重に声をかける。


「なあ、お前。本当にこの司祭が“首領”なんだろうな?」

「ああ、間違いない。ずっと俺たちを導いてくれている」


 だが司祭は、「私は何も知りません」と繰り返すばかり。幹部のことを“多額の寄付をくれる信者”としか語らない。まるで――会話が、噛み合っていない。


(ギャングが、力もなさそうな老人に従う? それとも本当に……この幹部が、慈善家?)

 脳裏に、嫌な予感が走る。


 そのとき――窓の外に、ふと目を奪われた。

 教会の裏手に、小さな建物があるのが見えた。

「司祭様、あの建物は?」


「あれは……孤児院でございます」

 孤児院――その言葉に、記憶の底がざわついた。

 闇堕ちルート。

 あのとき、敵は精神干渉系の魔法を使う者だった。選択肢すら歪める、最悪の相手。


(……そう。あの子。私の一つ下――トモオ。あそこにいるのね)

 私たちは司祭の案内で、孤児院へと足を踏み入れた。


「……孤児院とは思えないほど、立派ですね」

 古びた外観とは裏腹に、中はまるで裕福な学生寮のようだ。ギャングから吸い上げた金で、こんな贅沢をしているというの?


「トモオ。いるんでしょ。出てきなさい!」

「……何の用だ、リリカ様。遊びに来たんですか?」


 不貞腐れた顔。エマと同い年のはずだが、背丈はやや小さめ。記憶では――確か、平民クラスにいた子。カンクローの思い人、スミカちゃんと同じ魔術の素質で入学している。


「いいえ。今日は先輩として、指導しに来たのよ」

 お仕置きの時間だ。


お忙しい中、拙著をお読み頂きありがとうございます。もしよろしければ、ご評価をいただけると幸いです。又、ご感想をお待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ