偽りなき選挙
彼女は、誰にでもわかりやすい言葉で、冗談を交えながら、今の共和国の現状と問題点を話をした。
笑いが起き、緊張がほどける。
「上手いわね?」
「ええ、プレゼンは得意なんですよ。澪お姉様は」
観覧席の隣に座っているマリアが、自慢気に答えた。
それから、内乱で死んだ可哀想な女の子の話をした。
完全な作り話だ。
だが、さっきまでと話のトーンも落ち着き、儚気な話し方は、その会議場にいる者の涙を誘った。
誰もが己の身近な誰かを重ねる。
「ですから、変わらなければいけません。この国の指導者であるみなさんが。そして、それを率いていくのは、ヴァーデン侯爵でないかと私は思っています」
最後に、リラの優れた人柄を褒めた。
そして、彼女を中心に結束をと。
一拍の静寂。決断の沈黙。
――息を呑む空気。
「皆様の行く末に幸在らんことを!」
会議場は大きな拍手に包まれ、ソフィアの宣説は幕を閉じた。
マレクが憤怒の顔をしている。握り締めた拳が白くなる。
隣の騎士の視線がわずかに揺れた。
「ああ、怖い怖い。でも、貴方は絶望の淵にこれから落ちるのよ」
拍手の音が、ゆっくりと断頭台の階段を上る足音のように聞こえる。
――処刑台へ続く、冷たい足音のように。
※
「それじゃ、貴族院議長を決める選挙をしましょう」
マリアは、それを合図に会場から出て行く。
彼女は、次の手の準備に。
――すでに盤面は動いている。
「おい! 何勝手に進めてるんだ! お前にその権利は無いだろう?」
マレクが、叫んだ。
「でも、指導者を決めないと先に進めないわよ! もしかして、元老院筆頭は私の提案に反対なのかしら?」
「いや……」
マレクはこの段階で、聖女に反対する愚をわかっているのだろう。
「そうね、立候補の演説が必要よね。この国の良識たる貴族院の長となりたい者は、前に出て」
マレクと、聖女に指名されたリラが前に出る。
私たちは、リラに何も話をしていない。
だから、これは私たちの想いを受けた、彼女自身の意思だ。
――彼女自身が選んだ道。
「それじゃ、一人ずつ演説を」
元老院筆頭である彼は、今までの実績と人民からの無謀な要求に断固とした対応をとっていくことを話した。
次にリラ。
「戦いで殺しあうのを無くしたい。幸せで、豊かな共和国を私と一緒に作っていきましょう!」
話が終わったあと、彼女はその場に倒れそうになるほど全力だった。
――息も絶え絶えに。
私は彼女の言葉に心を揺らされた。
「私たちの英才教育のおかげかな」
違う。
彼女の思いが伝わったのだ。
「もう、言い残すことはないかな。では、選挙開始の号令をお願いするわ!」
ソフィアは、会議を進行する。
「それでは、これより貴族院議長の選挙を宣言する」
元老院の筆頭の彼は仕方なく言った。
それを合図に、国軍が、会場に入り取り囲んだ。
「何ごとだ? ここは、元老院の警備が守るところだぞ?」
「新たな我らの職務です。我々に皆様の警備はお任せ下さい」
「ふざけるな! ここはお前たちがいていい場所じゃ無い」
「ですが、どなたも立ってませんでしたよ。見に行きますか?」
元老院の警備が、マレクの私兵なのはわかっていた。
だから、会議が始まると始末していた。
国軍、それは、クルミとドノバン配下の偽共和国軍だ。本物は、新指揮官だけ。
「ここを、今、離れる訳には…」
投票が始まってしまう。目を離すと、彼を裏切る者が出るかもしれない。
マレクはそれが怖かったようだ。
「それでは私が見てきましょう」
側近の騎士が離れる。
「ああ、すぐに帰ってこいよ!」
「怖がりですな! 御安心を」
マレクは、既に彼の元の仲間が次々と殺されているのに気づいてる。
だから余計に恐れているのだろう。
だが、様子を見に行っただけの騎士はなかなか戻ってこない。
――戻らない。
「くそっ、何をしてるんだ! 高い金を払っているのに」
彼の呟きが、私の耳に届く。
「それでは、お配りした用紙に記載して、投票を」
用紙は、聖女印のある特別なもの。
筆記用具も、特殊で書いた文字は時間が経たないと浮かび上がってこないもの。
不正防止で、私が考案したものだ。
「お前! こんな出鱈目なやり方で、騙そうとするのか!」
マレクは、聖女をお前呼ばわりして、怒っている。
だが、無視して投票は進む。あのニース侯爵ですら大人しく従っている。むしろ楽しそうに。
「全員、入れ終わりましたね。それでは開票します」
結果は、圧倒的多数で、リラだった。
マレクに投票したのは、側近の数人だけ。
「それでは、初代貴族院議長はリラ・ヴァーデン侯爵。前へ」
会場全体から、拍手が起き、リラが立つ。
「待て待て、やはりおかしい! 筆記用具に仕掛けがある!」
私たちは、そんなことはしない。
議員たちと事前に話し合ったことを思い出す。
「あなた方は、この国の行方を考えてくれてるんですね!」
「ええ、この国の成功が、やがて大陸中に広がるでしょう。正しく進んでもらわないと、我らの父の思いが無駄になりますから。王国よりも先に行きますよ」
革命や内乱を輸出することでは決して無い。
「わかりました。協力します」
だが、最後は彼らの意思だ。
だから、あえてこの形をとったのだ。
本当に良かった。
――ここまで導けた。
「落ち着いて、マレク筆頭。疑われては、リラも可哀想。彼女に投票した人は立ってくれるかしら?」
リラに投票した殆どの議員が胸を張って立ち上がった。
マレクはその場に崩れ落ちそうになり、側近に支えられている状態だった。
――完全な敗北をこの男に味わせることができた。
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