第十一話 The END of the War to End All Wars ~すべての戦争を生み出した戦争の終わり~
この世界大戦を特徴づけるものは総力戦であった。昔のように、ただ利益だけを求めて争う時代ではなくなった。民衆は力を持ち、自ら考えるようになった。戦争は人を殺害する行為であり、遂行していくためには掲げる「正義」が必要となった。このことによって利が出なくとも戦争を止めることは難しくなった。勝たずに終わることは自分たちの「正義」を果たすことができないことを意味した。止められなくなった戦争は国民を総動員して長期化し、膨大な犠牲を出した。
戦闘による戦死だけでなく、劣悪な環境による病気も犠牲者を増やした。それらの数は一千万人を下らないという。多くの命が失われ、大量の弾薬が消費され、国土と人心は荒廃した。その先に待っていた世界は、それはそれは悲惨なものであった。
ヴェルサイユ条約はドイツから徹底的に奪い、ドイツを破壊しようというものであったのかもしれないが、ドイツを破壊するには弱すぎ、屈辱感と敵意を持たせないには強すぎた。条約に苦しむドイツでは様々な噂が飛び交い、憎悪を滾らせた。それはやがて新たなる世界大戦を生み出し、かつての世界大戦を凌駕する被害を生み出した。
力を持たないバルカン諸国はドイツとソビエト、後に東西冷戦の前哨地となり、大国に命運を握られることになった。
中東では主にイスラム教徒とユダヤ教徒が対立し、国を持たないクルド人の問題も表面化し、現在に至るまで争いの絶えない地域の一つである。
何が正しいのかは誰にもわからないし、どうすれば良かったのかなど主張できる者もいない。
ただ争いは争いを生み、破壊は次なる破壊の源になる。
最後に、ウィンストン・チャーチルの言葉でこの話を締めたいと思う。
――戦争から煌きと魔術的な美がついに奪い取られてしまった。アレキサンダーやシーザーやナポレオンが兵士達と共に危険を分かち合い、馬で戦場を駆け巡り、帝国の運命を決する。そんなことは、もうなくなった。これからの英雄は、安全で静かで、物憂い事務室にいて、書記官達に取り囲まれて座る。一方何千という兵士達が、電話一本で機械の力によって殺され、息の根を止められる。これから先に起こる戦争は、女性や子供や一般市民全体を殺すことになるだろう。やがてそれぞれの国には、大規模で、限界のない、一度発動されたら制御不可能となるような破壊の為のシステムを生み出すことになる。人類は初めて自分達を絶滅させることのできる道具を手に入れた。これこそが、人類の栄光と苦労の全てが最後の到達した運命である。
(ウィンストン・チャーチル『世界の危機』)
若干駆け足になった気もしますが、初完結です。感想や記述のおかしな点、修正すべき点などがありましたらお聞かせください。ここまでお読みいただきありがとうございました。




