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8話

久しぶりの更新になります。

  あたしは皇宮に到着してから女官の案内で皇妃様とフィオナ皇女様の私室に向かっていた。


  女官とあたしの二人だけだ。キャシーとイアンは一緒ではない。彼女達は外してほしいというのが招待する条件らしいのだ。あたしは不自然には思ったが。それでも足を進めた。


「……ヨハンナ様。皇妃様と皇女様がこの中でお待ちです」


「案内をありがとうございます」


  お礼を言うと女官は頷き、もったいない事ですと答える。その後、ドアをこの女官が開いた。ここは既に皇宮でも後宮と呼ばれる区画だ。男性は一人も入る事は許されない。なので後宮の建物や門等の警備、お妃方の護衛は女性騎士が担う。まあ、皇族の男性方は例外なのだが。

  お妃方が男性の家族や親戚と会う場合は専用の後宮の一番外宮に当たる部屋であれば、許可されていた。女官や女官長の監視があって下手な事は話せないが。

  さて、そんな事を考えていたら私は廊下に立ったままでいたらしい。女官がドアを開けた状態で固まっている。私はごめんあそばせと笑いながら中に入った。ドアがぱたんと閉められた。


「……あなたがフェリックスの婚約者の方ね?」


  穏やかでけど淑やかな声がかけられた。私はカテーシー、皇族の方に対しての礼の姿勢を取った。まずは皇妃様、皇女様方に膝を曲げてドレスの裾を摘んで上げる。深々と頭を下げた。


「頭を上げてちょうだいな。後、挨拶がまだだわ」


  先ほどよりも若々しいはきはきした声が私に言った。発言の許可をいただいたと気づいてカテーシーの姿勢から立礼に戻した。頭を上げると黄金の髪に薄い緑色の瞳の儚げな雰囲気の美女と紅茶色の髪と青い瞳の快活そうな美少女が目の前にいた。お二人とも皇妃様とフィオナ皇女様とすぐに気づく。私は大きめの声で挨拶した。


「初めてお目にかかります。今日はお招きいただき、ありがとうございます。ヨハンナ・フェン・ホルストと申します」


「……ああ。あなたがあのヨハンナ殿ね。わたくしはフェリックスの母で皇妃のイルミア・フィン・ホーリックスです。隣にいるのが娘で妹のフィオナ・ホーリックスよ」


  皇妃様--イルミア様はにこりと笑った。フィオナ様も興味津々といった面持ちでこちらを見ている。あたしはさてどうしたものやらと考えた。


「あら。困ったような顔ね。まあ、仕方ないわね。いきなり呼んだのだから」


「あの。皇妃様?」


  イルミア様はほうと息をつくと壁際に控えていた女官やメイド達に目配せをする。女官やメイド達はすぐに気づいたようで静かに部屋を出ていく。フィオナ皇女様は防音と結界魔法を展開した。


「……これでいいわ。お母様。人払いもしたし。存分に話せるわね」


「そうね。ヨハンナ殿。うちの息子のフェリックスは失礼をしていないかしら?」


「……失礼はないと思います。むしろ、私の方がご迷惑をおかけしていないかと心配になります」


  そう答えるとイルミア様は成る程と頷いた。


「フェリックスはあなたに良くしているのね。それを聞いて安心したわ」


「お母様。もう、あたくしが言うわ。あの。ヨハンナさん。今日、お呼びしたのはね。兄様と婚約を解消すると聞いて。その真偽を確かめるためだったの」


「そうだったのですか。私は婚約を解消したら祖国の西和国に帰るつもりです」


  淡々と答えるとフィオナ皇女様は目を見開いた。


「……どうしても兄様と別れるつもりなの?」


「別れるも何も。私とフェリックス様は恋仲ではないですし」


「……そう。兄様はあなたを気に入っているのに」


  フィオナ皇女様はちょっと残念そうな表情になる。イルミア様も仕方ないわねと言わんばかりだ。あたしはどうしたものかと考える。


「……ヨハンナ殿。立話も何だし。そちらの椅子に座ってちょうだい」


「わかりました」


  頷くとイルミア様が立ち上がった。そして驚く事に茶器があるワゴンの近くに歩み寄った。そのまま、紅茶の用意を始める。いい香りが部屋にたゆたう。


「お母様の淹れるお茶はピカ一よ。まあ、兄様の話は置いといて。今はお茶を飲んでゆっくりしましょう」


「……ありがとうございます」


  お礼を言うとイルミア様は蒸らした紅茶の蓋を開けてこちらに持ってきてくれた。本当に高価な茶葉を使っているようだ。さすが皇宮だわ。


「……さ。どうぞ」


  私はお礼の代わりに頭を下げた。イルミア様は「そんなにかしこまらなくていいわ」と言う。頭を上げて置かれたカップを手に取る。両手で持って香りを吸い込む。こくりと一口飲んだ。ほんのりとバラの香りが鼻腔を抜けた。味も甘みと酸味が効いていてけっこう美味だ。


「あの。このお茶は遠方のヴィルイス国産のものですか?」


「そうよ。わたくしの故郷でもあるわ」


  成る程と納得する。イルミア様はヴィルイス国の出身だった。あちらは紅茶の茶葉にバラの香りを纏わせたローズティーが名産品である。私はゆっくりとお茶を飲む。本当に良い茶葉なのがわかる。


「……皇妃様。殿下。こんなに高価なお茶をありがとうございます」


「いいのよ。今日はあなたと話して人となりを知りたかったの。また、いらしてね」


  イルミア様はにっこりと笑った。フィオナ皇女様もそうよと頷く。私はこれで余計に帰りづらくなったなと内心で思う。それでもそんな事はおくびにも出さず、退出の旨を伝えた。応接間だという部屋を出たのだった。

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