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最難関ダンジョンから帰還した俺は、配信に映り最強だと騒がれているらしい ~“完成済みの主人公”なので殺しに来ました~  作者: レイヴ
第二章 悪役令嬢は主人公になりたい

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第十話 全部、私がやってました

 王宮から二度目の使者が来たのは、その日の午後だった。


「また?」


 リリアーナは、目の前に置かれた手紙を見た。


 王太子アレクシスの署名。


 内容は朝とほとんど同じだった。


 西方三領との食糧供給契約について、至急王宮へ来るように。


「断ったわよね?」


「はい」


 執事が答える。


「そのようにお伝えしましたが、今度は王太子殿下直筆でございます」


「だから何?」


 横のソファで菓子を食べていた田中が聞く。


「偉い人が直接書いたから来いってことじゃない?」


「行かないわよ」


「だよね」


 田中が菓子をもう一つ取った。


「これ美味いね」


「人の家でくつろぎすぎじゃない?」


「暇だから」


「だったら証人を調べてきなさいよ」


「今休憩中」


「いつ働いたのよ」


 リリアーナはため息をつき、手紙を机へ置いた。


「西方三領との契約は、去年から私が進めていたの」


「王子の仕事じゃないの?」


「名目上はね」


 西部では昨年、長雨で麦の収穫量が落ちた。


 一方、南部では豊作になり、余剰分の保管場所に困っていた。


 そこで輸送経路を整え、三年間の供給契約を結ぶ計画を立てた。


 価格。


 輸送費。


 税率。


 護衛。


 保管倉庫。


 全部調整した。


「殿下は?」


「最後に署名する予定だったわ」


「楽だな、王子」


「私も今そう思ってる」


 婚約者だった頃は、それが当然だと思っていた。


 未来の王太子妃として夫を支える。


 王妃からも、そう教えられていた。


 だから疑問すら持たなかった。


 だが婚約を破棄された翌日に呼び戻されてみると、さすがに腹が立つ。


「自分でやればいいのよ」


「できるの?」


「知らない」


「結構冷たいね」


「昨日、大勢の前で悪女扱いされたのよ?」


「それもそうか」


 その時、廊下から慌ただしい足音が聞こえた。


 また執事が入ってくる。


「お嬢様」


「三度目?」


「いえ、今度は王宮ではございません」


「誰?」


「西方三領の代表者がお見えです」


 リリアーナが目を瞬いた。


「ここに?」


「はい」


 三人の領主代理が応接室へ入ってきた。


 全員、リリアーナとは何度も会っている顔だった。


「リリアーナ様」


 一番年長の男が頭を下げる。


「昨日の件、今朝知りました」


「お騒がせしております」


「食糧供給契約について確認したく参りました」


「それでしたら王宮へ――」


「すでに参りました」


 男の表情が曇った。


「ですが、話が通じませんでした」


「……はい?」


「価格改定の条件も、輸送路が封鎖された場合の代替案も、王宮側の誰も把握していないのです」


 リリアーナは額へ手を当てた。


 田中が小さく笑う。


「もう面白い」


「笑わないで」


「だってリアルざまあ始まってるじゃん」


「本人の前で言わないで!」


 三人の代表者が不思議そうに田中を見る。


 リリアーナは無視した。


「契約書の副本は?」


「ございます。しかし、交渉経緯までは記されておりません」


「王太子殿下へ毎週報告書を提出していました」


「その報告書について尋ねたところ……」


 男が言いづらそうに口を閉じる。


「何?」


「まだ確認できていない、と」


 リリアーナの目が細くなった。


「まさか」


 嫌な予感がした。


 父の許可をもらい、王宮へ問い合わせる。


 一時間後。


 答えが返ってきた。


 アレクシスの執務室。


 棚の一番下。


 封も切られていない報告書が、二十七通見つかった。


「……全部、私が出したやつ」


 リリアーナは頭を抱えた。


 田中が横から覗く。


「読んでないじゃん」


「読んでないわね」


「二十七通?」


「二十七通」


「逆にすごいな」


「褒めないで」


 しかも問題は、それだけでは終わらなかった。


 夕方。


 王都の孤児院から問い合わせ。


 来月分の補助金申請が止まっている。


 原因。


 リリアーナが毎月行っていた確認作業を、引き継いだ者がいない。


 その一時間後。


 東部国境の騎士団から連絡。


 冬季装備の追加発注について、承認が止まっている。


 それもリリアーナが調整していた。


 さらに商業組合。


 外国商人への関税優遇措置。


 王都北区の排水設備改修。


 春の外国使節団受け入れ。


 一つ。


 また一つ。


 出てくる。


 夜になる頃には、リリアーナの机の上に問い合わせが山積みになっていた。


 田中がその束を見る。


「君、何してたの?」


「王太子妃になる準備」


「これ全部?」


「……全部」


「王子は?」


「だから最後に署名してたのよ!」


 言ってから、リリアーナ自身が黙った。


 改めて考えると、本当にそれしかしていない。


「私……」


「うん」


「働きすぎじゃない?」


「今さら?」


「今さらよ!」


 リリアーナが机へ突っ伏した。


 一方、その頃。


 王宮では、アレクシスの執務机を大量の書類が埋め尽くしていた。


「なぜだ!」


 アレクシスが声を荒らげる。


「なぜ私のところへ、これほど仕事が集まる!」


 側近たちは誰も答えなかった。


「今までは問題なく回っていただろう!」


 沈黙。


 やがて、一人の文官が恐る恐る口を開いた。


「恐れながら申し上げます」


「何だ!」


「今まで、それらの大半を整理していたのは……リリアーナ様です」


 アレクシスが止まった。


「何?」


「殿下へ上がる頃には、必要な判断と署名だけで済む状態になっておりました」


「そんな話は聞いていない!」


「毎週、報告されております」


「どこにだ!」


 文官の視線が、机の端へ向いた。


 そこには、今朝見つかった二十七通の封書が積まれている。


 すべて未開封だった。


 アレクシスは何も言えなかった。


 その夜。


 田中はアルベルト公爵邸を出る前に、スマートフォンを取り出した。


【リリアーナ・フォン・アルベルト】


【主人公化率 94.6%】


「おお」


 昨日より上がっている。


 続いて、セシリア。


【主人公化率 97.1%】


「……まだ上か」


 田中は画面を見比べた。


 少し考える。


「聖女、強いな」

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