40億年の未来から空間は40億光年の彼方まで。論理も、倫理も、すべて無視。主人公「大天使ラファエル・ガブリエルⅡを旅させて。毎回、運命の恋に落ちる
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「また追放ものかよ!」と思ったそこのあなた、正解です! 王道の「ざまぁ」と「スカッ」と展開をこれでもかと詰め込みつつ、主人公が宇宙規模のスケールで調子に乗りまくる「おバカ」な作品です。
頭をスッカラカンにして、秒速で読める娯楽作を目指しました。面白かったらブックマークと評価・感想をぜひよろしくお願いします!
虚空の果てから逆さに滴り落ちるネオン紫の雨粒が、
重力を嘲笑うように上空へと昇っていく。
ここは西暦の概念が熔けてドロドロのスープ状になった時空の吹きだまり、
観測限界「+4,000,000,000年」の縁だ。
「やれやれ、今回の出張先はまた一段と悪趣味なペンキを塗りたくった世界だね」
大天使ラファエル・ガブリエルⅡは、
自慢の六枚の翼を透明なオーロラのネクタイのように器用に首に巻きつけながら、足元のピンク色の海を見下ろして呟いた。
彼の背後では、40億光年の彼方にあるはずの超巨大ブラックホールが
目玉焼きのようにジリジリと音を立ててフライパンの上で焼き上がっている。
論理という堅苦しい定規はとうの昔に折れ曲がり、
倫理という手すりのない橋から足を踏み外した世界では、
物理法則すら単なる気まぐれな落書きにすぎなかった。
ラファエル・ガブリエルⅡの任務は、
この狂った宇宙の隅々を巡り、数え切れない輪廻の歯車をただ退屈しのぎに噛み合わせることだ。
だが、この世界に足を踏み入れた瞬間、彼の胸の奥で、
かつて一度も経験したことのない奇怪な警報音が鳴り響いた。
それは心臓の鼓動ではなく、時空の裂け目で茹で上がった目覚まし時計が
狂ったように歌い出すような、甘美で残酷な予感だった。
「ほう……この息苦しさは、まさか」
彼が驚きに目を丸くしたそのコンマ数秒後、
目の前のピンク色の海が激しく泡を立てて裂け、中から一人の人間が飛び出してきた。
びしょ濡れの髪を振り乱し、両手に巨大なフランスパンを二刀流の如く構えたその美女は、
息を切らせながらラファエル・ガブリエルⅡの胸ぐらを躊躇なく掴みにかかった。
「お前だな! 私の記憶から昨日の夕食のグラタンのレシピを盗み出した宇宙泥棒は!」
「待て待て、落ち着き給えよ。私は宇宙泥棒ではなく、気宇壮大なスケールで迷子になっているただの旅の天使だ。それに君、なかなかの美貌じゃないか」
「天使だか何だか知らないが、私の21年の人生において、こんなに変態的な衣装を着た不審者は初めてだ!」
怒りに満ちた瞳を燃やすその美女の肉体年齢は、完璧に、寸分の狂いもなく21歳だった。
宇宙の始まりから40億年、そして終わりから40億年という途方もない時間の広がりの中で、ラファエル・ガブリエルⅡの胸を射抜く「運命の恋」のストライクゾーンは、なぜか常に「20歳から22歳まで」という極めて狭く贅沢な年齢制限に縛られている。そして今、目の前でフランスパンを振り回して怒鳴り散らしているこの美女こそが、今回の旅で出会うべき、世界でたった一人の「運命の恋人」だった。論理を無視し、因果律を鼻で笑い飛ばすこの奇妙な空間で、二人の運命の歯車が、あまりにも不格好に、しかし強烈な音を立てて噛み合い始めたのだ。
「おい、聞いてるのか! 私のフランスパンがさっきから奇妙な重力で三倍の硬さに硬化しているんだが、お前の仕業だろう!」
「いやいや、それは君の情熱が激しすぎて、周囲の空間を構成するクォークが勝手に焼き立てのパン生地と同化したせいさ。それにしても、君のその怒った顔、実に素晴らしい」
ラファエル・ガブリエルⅡは、掴まれたままの胸ぐらを直すこともせず、うっとりとした溜息を漏らしながら美女の顔を至近距離で見つめた。
怒りに燃える美女の名前はマリリンと言った。
この40億光年の彼方に広がる「逆さ磁場都市ネオ・バビロン」の片隅で、ただ一人、落ちてくる星屑をフライパンでキャッチして日銭を稼ぐという、常軌を逸した職業に誇りを持っている美女だった。
マリリンはラファエル・ガブリエルⅡの陶酔しきった視線に気付くと、戸惑ったように両手のフランスパンを下ろし、気まずそうに眉をひそめた。
「なんだ、急に変な目をしやがって……。お前、頭でも打ったのか? それとも私の美貌に気圧されたか」
「ああ、そうだとも。君のその、21年という短い地球時間の重みが生み出す刹那の輝きは、何億年をも生きる私にとって、喉から手が出るほど愛おしい毒薬だよ。さあ、一緒に逃げよう、マリリン。この宇宙が崩壊するまでの残り39億9999万年とちょっとを、二人だけで無駄に過ごすんだ」
「何を言っているんだ、この頭のネジが盛大に吹き飛んだ野郎は! 私はこれから、あそこの空を泳いでいる巨大な焼き鯖に挨拶に行かなければならないんだ!」
マリリンが指さした頭上のはるか彼方では、全長数万キロもある黄金の焼き鯖が、
優雅にヒレを揺らしながら宇宙空間を遊泳していた。
論理も倫理もかなぐり捨てられたこの世界では、焼き鯖が空を飛ぶことなど、
道端の小石が転がるのと同じくらいの日常茶飯事にすぎない。
しかし、ラファエル・ガブリエルⅡにとって重要なのは空を飛ぶ魚ではなく、その隣で必死に現実逃避しようとしている目の前の21歳の美女の存在そのものだった。
「焼き鯖なんかに用事があるものか。それよりも、私の翼の隙間に隠された秘密の時空ポケットに入り込みたまえ。そこには、過去のすべての時代の美味しいプリンが無限に詰まっているし、何より私の愛が君を温めてあげるからさ」
「プリンだと……? いや、待て、私は甘いものには目がないが、そんな怪しいポケットにホイホイ入るほどバカじゃない!」
マリリンはそう叫びながらも、頬をわずかに赤らめ、視線を泳がせはじめた。
その微かな動揺を見逃さないのが、数千の宇宙を渡り歩いてきた大天使の伊達男たる所以である。
ラファエル・ガブリエルⅡはふわりと宙に浮き上がり、マリリンの手首を優しく、しかし絶対に逃さない力加減で掴んだ。
40億年の過去から押し寄せる記憶の波が、二人を取り囲むネオン紫の雨をさらに激しくし、世界をまるごと甘い蜜の味に変えていく。
「あっ、おい、引っ張るな! 私のフランスパンが空中分解しちまうだろ!」
「分解したってかまわないさ! 代わりに、私が君のために新しい銀河を丸ごとスライスしてバターを塗ってあげるから!」
二人が手を取り合って空中の焼き鯖の群れを突っ切ると、周囲の景色は一瞬にして漆黒の闇から、
目が眩むような極彩色の万華鏡へと変貌した。
そこは空間の最果て、40億光年の彼方に位置する「過去と未来の交差点・午前二時のカフェテリア」だった。
椅子もテーブルもすべて透明なゼリーで出来ており、座るたびにぷるぷると揺れるその場所では、
無数の異なる時代の人間たちが、それぞれ自分の未来の遺影を眺めながらコーヒーをすすっていた。
「なんだここは……? さっきまでネオ・バビロンにいたはずなのに、気づいたらメニュー表の文字がすべて古代エジプトの絵文字に変わっているぞ!」
マリリンは呆然と周囲を見回しながら、いつの間にか手に持っていたフランスパンが消え去り、
代わりに熱々のオニオンスープの入ったマグカップに変わっていることに気づいて目を白黒させた。
ラファエル・ガブリエルⅡはマリリンの隣のゼリーの椅子に腰掛け、
自分の翼で美女の肩を優しく包み込みながらニヤリと笑った。
「ここでは時間も空間も、そして常識もすべてスプーン一杯の砂糖と同じさ。君が生まれてから21年、そして私が存在してから40億年、そのすべての数字が今、この瞬間のために寄り集まったのさ。ねえ、マリリン、もしこの世界が明日、いや、5秒後に突然四角いスイカになって爆発したとしたら、君は最後に何をしたい?」
「そんなの決まっているだろ……! こんな胡散臭い天使に捕まって、訳の分からないスープを飲まされている自分の不運を呪いつつ、もっと盛大に暴れておけばよかったと後悔するに決まっている!」
「ハハハ、素晴らしい答えだ! 後悔なんて、この宇宙のゴミ箱にでも放り込んでしまい給え!」
ラファエル・ガブリエルⅡが指を鳴らすと、カフェテリアの天井がパカーと音を立てて割れ、
中から無数の巨大な目覚まし時計が滝のように降り注いできた。
どの時計の針も、なぜか一斉に「20歳から22歳まで」という不気味な数字のゾーンを指して激しく点滅している。
論理の糸がぷつりと切れ、倫理の壁が粉々に砕け散る中、二人の周囲の重力は完全に逆転し、
椅子ごと天井へと吸い寄せられていった。
マリリンは恐怖と興奮が入り混じった複雑な表情を浮かべながら、隣に座るラファエル・ガブリエルⅡの袖をぎゅっと掴んだ。その指先の震えこそが、この奇想天外な世界で最も純粋な、21歳の若さの証明だった。
「おい、天井の向こう側はどうなっているんだ! 星が見えない、見えるのは一面のイチゴジャムの海だけじゃないか!」
「心配いらないさ、マリリ! そここそが、私たちが目指すべき、40億年後の未来の終着駅なのだから!」
天井を突き抜けた二人の体は、無限のイチゴジャムの海へとダイブし、甘く香ばしい泡のなかにふわりと着地した。
周囲には、過去から未来へ向かって流れる無数の時空の残骸が、まるで色とりどりのキャンディのようにプカプカと浮いている。
ラファエル・ガブリエルⅡはジャムの海の中で体勢を立て直し、
ぐしょ濡れになりながらも呆然としているマリリンの顎を優しくすくい上げた。
「よく聞いておくれ、マリリン。私の旅はいつだって気まぐれで、目的地なんて最初から存在しない。だけど、こうして君という21歳の奇跡に出会えた瞬間だけは、どんな神様の計算よりも正確に、私の永遠の胸に刻まれるんだ」
「お前……本当に、からかわれているのか本気なのか、まったく分からない男だな……」
マリリンは顔を真っ赤に染め上げながらも、もう逃げ出そうとはせず、ラファエル・ガブリエルⅡの首に両腕を回した。
その瞬間、40億年の過去と40億年の未来が一本の細いリボンのように結ばれ、
二人の周囲の空間がまばゆいばかりの輝きに包まれて完全に静止した。
論理も倫理も、物理法則も重力も、すべてが消え去ったその世界の真ん中で、
大天使と21歳の美女は、世界が終わることも忘れて、深く、永遠に終わらない口づけを交わしたのだった。
ジャムの海の上を、巨大な焼き鯖がふわりと一匹、尾ビレを振って通り過ぎていく。
第1話の幕は、こうして誰にも理解できない甘い悪夢のような余韻を残したまま、
次の時空のポケットへと吸い込まれていった。
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