第2話 いろどりいいとこどり結成(4)
月曜日の朝、たまきと久哉が自転車で走りながら会話をしていた。いつも颯爽とした久哉が、どこかスッキリしない気分だった。
「なんかさ、モヤモヤするんだよな」
「久哉くんでも悩むんだ」
たまきは、前日のまりなとのやり取りのおかげで、清々しそうだ。
「1週間くらい前に、同じことすみれに言われたわ」
「だって余裕そうに見えるんだもん」
「高校入ってから環境が変わって、刺激を受けまくりだからさ」
「そっか、刺激が強いからかも」
「まりちゃんとみっちゃん、刺激に弱そうだもんな」
「みんなそうだと思うよ。違うタイプ同士だと、上手くいかないことが多く
て、ストレスになりやすいって、ママが言ってた」
「そりゃそうだよ」
「とくに環境が変わるタイミングで、そうなると強くトレスを感じやすいんだって」
「そうなると、すみれも同じか。あいつプライド高くてオーラがあるように見えて、実際疲れているかもな。そういうところ見せないからさ」
たまき、すみれのことを心配してしまい、表情に出てくる。
「なんか、放っておけなくなってきたかも」
「たまちゃんさ、今日すみれと一緒に帰ってよ」
「久哉くんと3人で?」
「ごめん、俺は用事があって無理なんだ。頼むよ」
久哉、表では用事があると繕うものの、実際は面倒事をたまきに押し付けている。
「えっ、ぼくとすみれちゃんで2人きりって…」
1-D組の教室では、かえでとすみれがいつも通り会話をしていた。かえでは相変わらず、元気前向きなコンディションである。
「まりちゃんとみっちゃんと話をしてみなよ。そこから仲が深まるかもしれないよ」
かえでは、すみれに対して。みつばにがまりなとみつばの話を持ち出し、お互いを理解し合うことも目的として、会話を提案してきた。
「多分、あの2人そのような気分じゃないと思うけど」
たまきが2人の会話に入り込む。
「あのさ、すみれちゃん。放課後ちょっと時間ある?」
「放課後?」
「たまちゃんから、すみれちゃんにお誘いって何だろうね」
「いいよ」
すみれ、たまきからの誘いに何か裏があると察知している。それを汲み取った上で返事をした。
「ありがとう」
たまき、すみれに悟られないか不安に感じながら、彼女の顔を見つめる。
「どうしたの? 断ると思った?」
すみれの発言に、ドキッとしてしまう。ちょっぴり恥ずかしい。
「えっと、帰る方向も割と同じだからどうかなって」
すみれと帰っても何も会話しないままバイバイということになりそうだと内心思っていた。机のなかにある、イラストを取り出して眺めたときにふと思いつく。
1-B組の教室では、まりなとみつばが弁当を食べながら会話をしていた。みつばは、ペットボトルの緑茶(煎茶)を飲んでいる。みつばの好きな飲物は茶類であり、一番好きなのは煎茶である。
「みっちゃんって、お茶好きだよね」
「おばあちゃんが茶道の先生やっているから、そこから好きになって」
「ということは、お茶について詳しく知ってそう」
みつばの母方の親戚は茶道の家元で、お茶について祖母や母から学んでいるため、その類の知識には詳しい。
「実はね。緑茶とウーロン茶と紅茶の違いって茶葉の発酵具合の差なの」
「凄い。みっちゃんって結構物知り」
まりなは純粋な心と目で表現しながら、みつばを褒めた。
「物知りだなんて大げさだって。でも、お茶とか植物関係とかならちょっと詳しいかも」
「そういう一面、もっと出していいとまりなは思うよ」
「そう? 私ってただのビビりで引っ込み思案だとしか思われていないから」
「豆知識持っているなら、みんなの役に立つって」
まりな、みつばのことをとことん励ます。
「まりちゃん」
まりなに褒められたことで、みつばの心は嬉しさが募って安らいできた。
「たまちゃんとかかえでちゃんが聞いたら、喜んでくれるかも」
「あの2人ならきっとね。でも…」
「すみれちゃんがどう思うかってことかな。きっと大丈夫」
たまきとすみれが、自転車で走りながら下校している。たまきは、すみれの後ろにつくように走っている。
「あのさ。まりちゃんとみっちゃんのことどう思ってる?」
「意外とストレートに聞くなんて。別に嫌いじゃないよ」
基本的にすみれは誰かに対して特別強い感情を持たない。それだけである。
「あの2人。すみれちゃんと上手くいかなくて悩んでいるっぽくて」
「やっぱり似てるね。まりなに。お節介なところが」
「ぼくって、そこまでお節介かな?」
「じゃないと、わざわざ私に一緒に帰ろうって声かけないでしょ?」
たまきは、純粋にすみれのことが心配で助けたかった。まりなでも同じことをするだろうとは思っていた。ある意味、すみれが言う2人が似ているというのは、強ち当たっている。
「すみれちゃんも悩んでいるんだよね」
「別に悩んでないから」
「悩んでいなければ、あの時意見をちゃんと言えていたと思うけど」
すみれ、沈黙する。たまき、すみれの隣まで進んでくる。
「大丈夫?」
「うるさい」
すみれ、あっさりと返す。そんなすみれをたまきは見つめる。
「何?」
「素直に言えばいいのに。自分でも悩んでいるって」
「私が強がっているって言いたい訳? か弱いのに久哉みたいにかっこつけちゃって」
「ごめん。せっかくみんな友達になれたのにここでバラバラになるのが怖くて」
「ちょっとどこか寄らない?」
帰宅を誘ったのはたまきであったものの、すみれから寄り道のお誘いが来た。
2人でカフェに立ち寄り、カフェラテを飲みながら、すみれが語りだす。
「この際だからハッキリ言うね。私も何していいかわからなかった」
「やっぱり」
「みんなの前で言ったら、メンツ丸つぶれになりそうだから言わないで」
たまきは、思わずくすりと笑う。
「ぼくは言わないよ。すみれちゃんが自分で言わないと」
「そこ笑う 私が口下手で誤解されやすいのわかっている癖に」
「でも、まとめるのが得意なこともわかるよ」
「まとめるって、別にみんなをリードするタイプじゃないし」
「どちらかと言えば、独特な雰囲気があって惹かれるようなタイプだよね」
「それって、褒めてる?」
「褒めてる」
「わかった、信じてあげる。久哉と違ってからかうような子じゃないのはわかっているから」
「あのさ、すみれちゃんを描きたいんだけど。いいかな?」
「ここで描くの? 教室で描けば良かったのに。というか許可とる必要ないでしょ」
すみれは、たまきがクラスで時々絵を描いていることを知っている。ただ、自分のことを描いたことがないという声に、少し驚いたみたいだ。
たまき、すみれを見ながら、紙に絵を描いていく。
「ブサイクに描いたら許さないからね」
「大丈夫。出来た!」
たまきが描いたすみれの似顔絵は笑ってはいないが、どこか優しさを感じさせるような雰囲気だった。その周りは紫で縁取られて描かれている。
「悪くないじゃん。それに私、紫好きなんだよね」
すみれ、軽く口角を上げる。
「あ、笑った」
「少し、嬉しいだけ。写真撮ってもいい?」
たまきが首を縦に振ると、すみれはスマホで似顔絵の写真を撮った。
「もしかしたら、一番頑張っているのはたまちゃんかも」
「そうかな? 他のみんなも色々考えていると思うよ。だから、みんなを信じようよ」
すみれの心は僅かながら、たまきの純粋な気持ちに答えてあげたいと思えてきた。
まりなとみつばは、2人きりで廊下で会話をしていた。
「まりな、すみれちゃんと距離を縮めたいんだよね」
「結局、たまちゃんと同じことするの?」
「たまちゃん、今日すみれちゃんと帰っているみたい」
「大丈夫かな? 何も会話せずで終わらなきゃいいけど」
「大丈夫。たまちゃん、色々と考えながら動いてくれているから」
まりなは、たまきのことを信じていた。みんなのために一途になって考えていた姿を隣で見ていたからだ。
「なんか、私だけ何もやらないままじゃ勿体ないかも」
「みっちゃんは、すみれちゃんのことどう思っているの?」
「風変わりっていうか、肌寒いっていうか、何考えているのかわからない」
「だから、みんなで語り合うのが大事なのかな。まりなはそう思う」
「すみれちゃん。軽くあしらったりしないかな」
「大丈夫。すみれちゃんもみっちゃんと同じように悩んでいると思うよ」
「どうしてわかるの?」
「すみれちゃんってマイペースだけど真面目で、みんなのことを思っているように見えるから」
「意外と人に興味なさそうだけど、あるってことね」
「すみれちゃんは、多分強がっているだけだと思う」
「じゃ、私からすみれちゃんと話をもちかける」
この時、いつも受け身なみつばとしては珍しく、自ら動きかけるようなことを言い出した。
「みっちゃんなら、大丈夫」
「やっぱり、まりちゃんと友達になれて良かった」
リュックを背負って帰ろうとしていたかえでが、2人に気づいて近づき、真正面から抱きしめる。
「いたー。もう、かえでちゃんも入れてよ~」
まりなとみつば、若干苦しそうだが嬉しい。みつばお決まりの大げさリアクション。
「ビックリさせないで。窒息したらどうするの?」
「嬉しいけど、もう少し優しく抱いてほしいかな」
「ごめんごめん。2人とも落ち込んでいないか、心配しちゃったんだよ」
「かえでちゃんでも心配するなんて」
まりな、少しばかり面白笑いしてしまう。
「明るくないかえでちゃんなんて想像できないよ」
みつばも、お決まりのツッコミで返しながら、和んでいた。




