曹丕のロックンロール精神
曹丕は曹操の息子。
曹操の跡を継いで魏王となり、魏王となった後すぐに漢王朝を簒奪して魏王朝を建て、その皇帝なった。
曹丕は政治家なのだが、文学にも通じていて『典論』という文学論を書いている。非常に格調の高い文章なので核心の部分の読み下し文を味わってみていただきたい。読み下し文の後ろに、自分なりに言葉を補いながら訳してみた。
【読み下し】
蓋し文章は経国の大業にして、不朽の盛時なり。年寿は時有り尽き、栄楽は其の身に止まる。二者は必ず至るの常期あり、未だ文章の無窮なるに若かず。是を以て古の作者、身を翰墨に寄せ、意を篇籍に見し、良史の辞を仮らず、飛馳の勢ひに託せずして、声名は自ら後に伝はる。
【訳】
そもそも文章を書くということは国を治めるための非常に重要な事業であり、滅びることのない偉大な営みである。時がくれば人の寿命は尽きてしまう。その人の栄華や享楽はその人の身の上にあるものだけであってその人が死ねばそれで終わってしまう。寿命、栄華や享楽といったものはしかるべき時に終わるものであって、文章が永久であることに比べれば及びもしない。だから、古来より著述家や詩人たちは詩文に身をささげ、書きたいことを書物に著した。著述家や詩人たちは、優れた史書編纂官たちの言葉を借ることもなく、権力者たちの力を頼ることもなく、その名声が自ずから伝えられるのである。
この文の初めに「文章がなければ国家が成立しない」と高らかに宣言し、そしてこの文の最後には、「権力者たちの力を頼ることもなく、その名声が自ずから伝えられるのである。」と結んでいる。
曹丕は中国一の権力者だった。それもただの権力者ではない。足かけ四百年も続いた漢王朝を潰して、中国を乗っ取った男だ。それなのに文学の名声は権力なんて関係ないのだと宣言している。なんだかロックな文章だ。
読み下し文は『文選(文章篇)下(新釈漢文体系)』(竹田晃)による。