夏の文庫本フェアの思い出
毎年、この時期になると大手出版社が夏の文庫本フェアを開催する。「新潮文庫の100冊」フェアや「角川文庫の夏フェア」などの文庫本が、書店の割といい場所に並べてある。
中学三年生の夏休みの時、チャリンコを転がして国道沿いに建っている大きな書店へ行った。部活も引退したことだし、これから受験勉強を始めなくてはならない。それで参考書を買いに行ったのだった。
だけど、僕は夏の文庫本フェアに惹かれた。参考書はそっちのけで、文庫本フェアの本を一冊ずつチェックして、フェアの中にあった筒井康隆さんの小説と他の小説を何冊かを買った。参考書を買うはずだった小遣いはすべて小説の本代に消えた。
家へ帰ってから、クーラーのない部屋の窓を開け放し、畳に寝っ転がりながら読んだ。勉強どころではない。小説が面白くてしかたなかった。窓の外に浮かぶ夏雲をちらちらと眺めて汗をかきながら本を読む時間が好きだった。
小説を読み終えた後、フェア紹介の冊子を読んだ。僕はこの冊子が好きだった。フェアの対象となった100冊の本について一冊ずつ簡潔に紹介してあり、作家などの著名人の方が書いた読書についてのミニエッセイがついていた。
そのエッセイのなかで、若い時は「乱読」するものだといったことを書いていたものがあった。今から思えば、「乱読の勧め」ではなく、単に「若い頃は手当たり次第にいろいろと読むものだよねえ」ということが書いてあったのだけど、
「そうか、手当たり次第に乱読しなくてはいけないのだ」
中三の僕はなぜかそう思いこんでしまった。
フェア紹介の冊子には面白そうな本がずらりと並んでいる。でも、小遣いはもうない。それで、フェア紹介の冊子を持って図書館へ行き、フェアで紹介していた本を数冊ずつ借りていった。塾の夏期講習以外は、ほぼすべて読書の時間だった。
SF、推理、純文学……いろんなタイプの小説を読んだ。どの小説も僕の知らない世界へ連れていってくれた。楽しかったなあ。