日常的でない日常
僕が通勤で乗っている電車は通常時の七割か八割くらいまで乗客が戻った。週末にショッピングモールへ出かけると買い物客で賑わっている。賑わっているのを見るとなんだかほっとする。ショッピングモールのフードコートでは、テーブルの両端にアクリル版を立てて飛沫対策をした上でほぼ全席を開放している。今日、そのフードコートを通りかかったら、以前のように話し声が聞こえなくなるほどの賑わいだった。緊急事態宣言中、ショッピングモールはスーパーや薬局といった一部の店舗を除いて閉鎖されていてゴーストタウンのようだった。こんなことが本当に起きるのだと、いささか呆然としたような心持ちがした。
もう夏だというのにみんなマスクをしている姿はかなり異様だ。暑い中をマスクをつけて歩き回っていると息切れがする。でも、しかたないのだろう。熱中症には気をつけてください。
新型コロナは未知のことばかりだ。
厚生労働省が発表した抗体検査の結果では、東京都民の抗体保有率はたった〇・一%だという。東京都の人口は1400万人なので、抗体を持っている人は1万4千人ということになる。あれだけ大騒ぎしてたったこれだけの人しか抗体を持っていないというのはいったいなにを意味するのだろう?
日本の感染状況が比較的低く抑えられているのは、外国からの入国制限、クラスター対策、マスク着用、うがい手洗いの励行、三密の回避、ロックダウンといった様々な対策の成果なのかもしれないが、それにしてもこの抗体保有率は異様に低いように思えてならない。
新型コロナは抗体ができにくい厄介なウイルスなのだろうか? それとも、たいていの人の場合は抗体を作るまでもなく、人間が普通に持っている体内の免疫系で撃退できるしょぼいウイルスなのか? 一度新型コロナウイルスが体内で暴れ始めると厄介なのはたしかなようだけれど。
知人の実家の隣村ではコロナで村八分にあって引っ越した人がいたそうだ。
東京で働いているその村出身のある息子さんが三月初めに村へ帰省したのだが、彼が東京へ戻った後でコロナに罹っていることがわかり入院した。すると、彼の実家は投石されて窓ガラスが割れ、「出ていけ」といったことが書かれたビラを玄関にばら撒かれたそうだ。実家のご両親はもう村には住めないということで引っ越ししたのだとか。心ないことをしたのはごく一部の人だったかもしれないが、それにしてもひどい話だ。
たしか、今年の二月だったと思うけど、中部国際空港で日本へ観光旅行にきた武漢人と上海人の間でいざこざがあった。彼らは上海行きの飛行機を待っていた。武漢人たちが湖北語で話しているのを聞きつけた上海人たちが、「お前たちは上海へ来るな」と武漢人をこっぴどく罵った。どっちもどっちといったところだけど、人間のやることは日本人も中国人も変わりないようだ。コロナより人のほうが怖いのかもしれない。
クリスマス前に東京へやってきた上海の義母は帰国難民になってしまった。クリスマスと春節は一緒に過ごしましょうということで3か月ビザを申請して東京へ呼び寄せたのだけど、武漢を含む湖北省一帯が封鎖され、上海でも新型コロナの感染者が多数出ていたので3か月の延長申請をして、中国の新型コロナ感染が落ち着いたところで帰ってもらうことにした。
ところが、中国のコロナ感染は急速にほぼおさまり、今度は日本が大変なことになった。中国のほうが安全そうなので、早めに帰国させようと飛行機のチケットを手配したが、手配するたびにフライトキャンセルになる。成田発上海便が埋まっているというので関空発上海便を予約してみたりしたのだけど、関空発もフライトキャンセルになってしまった。あちらこちらの予約サイトをあたって、ようやく七月の成田発上海行きの便を予約した。チケットの値段は毎年の春節時期のピークシーズンのそれよりも高い。でも、背に腹は変えられない。それしかないのだから。
チケットを押さえて、ビザの再々延長手続きに東京入国管理局へ行こうとしたら、爆破予告のために臨時休業になっていた。なんでも、クルド人を弾圧する渋谷警察署と入管が許せないとのことで、爆破するぞとの予告をメールした人がいたそうだ。幸いというか、予告だけで爆破はなかった。コロナのせいで世相がおかしくなっているから、変な人が現れたりする。変な爆破予告はしないで欲しい。
後日改めて入管へ行って無事に義母のビザの再々延長はできた。ビザの期限は九月まであるけど、本人はもう帰らせてくれと上海へ帰りたがっている。七月のフライトがキャンセルにならずに無事に飛んでくれることを祈るばかりだが、義母が上海へ帰ってしまうとこれはこれで心配だ。
義母は上海で一人暮らしをしている。かみさんの姉妹はみな海外で暮らしているのでそばで面倒を看る人が誰もいない。ご近所の老人仲間で助け合っているということなので日常生活は問題ないだろうが、万が一なにかあったとしても、これだけフライト制限が厳しいとかみさんはすぐには上海へ帰れない。
新型コロナと共存して普通に生活できる方法を誰かが考えてくれないものだろうか。