香港デモをめぐる大陸中国の愛国プロパガンダ宣伝
前回書いた大陸中国の公安スパイが捕まった後、人民日報は中国版ツイッターの微博上に、
「我支持香港警察。你们可以打我了(私は香港警察を支持する。あなたたちは私を殴ってもいいよ)」
と、赤地に白抜きの文字で書いたプラカードのような画像を掲載した。公安のスパイである付国豪がデモ隊に捕まって縛り上げられた時、カメラに向かって叫んだ台詞だ。人民日報は、この赤いプラカードをばらまいてデモ隊を暴徒と決めつけるプロパガンダ宣伝を行ったのである。
中華系の芸能人たちもこの香港警察支持のプラカードを微博上にあげ始めた。二〇年三月公開予定の実写版『ムーラン』(ディズニー映画)の主演を務める女優の劉亦菲もこのプラカードを微博にあげたのだが、それを見つけた人がすぐさま、ツイッター上に「 #boycottMulan 」のハッシュタグをつけて紹介すると、実写版『ムーラン』をボイコットしようという呼びかけが瞬く間に広がった。
劉亦菲は十歳の時に米国籍を取得している。アメリカ公民なのに自由と民主を弾圧する香港警察を支持するとはなにごとだと反感を買ったようだ。
もっとも、劉亦菲は十四歳の時にアメリカから大陸中国へ戻って女優の道を歩み始め、スター女優になったのも大陸中国でだった。アメリカ国籍を持ってはいるものの、彼女のアイディンティティは中国人としてのそれだ。おそらく、中国の国策として彼女に香港警察支持のプラカードを微博にあげさせ、愛国プロパガンダ宣伝の一環としたのだろう。劉亦菲が微博にあげた香港警察支持プラカードの欄には一万六〇〇〇ほどの彼女を支持するコメントが書かれ、十二万ほどのいいねがついている。中国国内向けの愛国プロパガンダ工作としては成功したといってよいだろう。
中国国内での報道でもムーランボイコットの件は取り上げられ、過激派が『ムーラン』のボイコット工作を行ない、一部の西洋人がそれに同調しているなどといった論調で伝えている。なお、この香港警察支持のプラカードはツイッター上にもツイートされていた。香港を除く中国国内はツイッター禁止で、ツイッターにはアクセスできない。国外にいる中国人が広めていたようだ。
この一件からも見えてくるのは、中国政府は愛国心によって国内をまとめ、香港デモが大陸中国へ飛び火してこないように努めているということだ。
ディズニー映画の実写版『ムーラン』がボイコットされようがされまいが、それは中国政府にとってはどうでもいいことだ。デモに参加する香港人への敵愾心を煽り、愛国心を煽り、国内をまとめ上げることが重要課題。劉亦菲主演の実写版『ムーラン』がボイコットされれば、むしろ中国を壊しにかかる輩がいると逆宣伝をして人民の愛国心をさらに煽る。
中国国内は貧富の差が拡大する一方で、不満を抱えている人が多い。おまけに、米中貿易戦争の影響から景気がすこぶる悪い。経営の行き詰まった工場が閉鎖の申請を政府へ出しても、政府は工場閉鎖の許可を出さない。中国政府は、失業者が街角にあふれるのを懸念するからだ。工場経営者は赤字を垂れ流しながら泣くなく操業を続けるしかない。にわかには信じがたい話だが本当だ。それくらい今の中国経済は弱くなっている。
もし、香港デモが大陸へ飛び火して反中国共産党デモが発生すれば大変なことになる。中国政府としては、まずそれを防ぐのが最優先だ。人民に香港を敵視させておけば、人民の不満の矛先が中国共産党へ向くことはない。香港警察支持のプラカードも、スター女優も、そんな愛国宣伝活動の小道具の一つにすぎない。