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揚州格安バスツアー

 せっかくの連休なのでどこか小旅行でもしようということになり、上海人の奥さんがネットで見つけた揚州バスツアーに申し込んだ。

 値段は、往復のバス代とホテル代(朝食込み)で一人四百三十九元(約七〇〇〇円)とかなりお得だ。ただし、観光地のチケットや昼食と夕食は自分で払わなくてはならない。ツアーのオプションの昼食や夕食に申し込んでもいいし、自分で勝手にレストランへ行ってもいい。ホテルは五つ星のシャングリラホテルだ。奥さんはきれいなホテルでゆっくりできると言ってよろこんでいた。

 上海の人民公園に八時集合で観光バスに乗りこむ。上海から無錫を抜けて、長江を渡り、四時間ほどで揚州に着いた。

 揚州へ入ったところで、京杭運河を渡った。隋の時代の六一〇年に完成した北京から杭州までを結ぶ全長一八〇〇キロの大運河だ。運河の真ん中にバラ積み船が横になって泊まり、その両端の隙間に上下に船が行き交っている。土手は、春の光を浴びて緑に染まっている。なかなかいい景色だ。

 ――これが歴史の教科書で習った運河なんだ。

 僕はぼんやり眺めた。

 六一〇年といえば、日本は推古天皇の時代で、聖徳太子が摂政を務めていた頃だ。そんな時代に南北に渡る長大な運河を完成させたのだから、中国はすごい国だったんだなと思う。

 揚州の外れにある小さなレストランで昼食をとり、箇園という名所へ行った。清朝の一八一二年に作られた豪邸とその庭園だ。庭園の面積は約二万四千平方メートルとやたらに広い。そのなかに清朝風のいろんな建物があり、庭園が広がっている。当時の塩商人が建てたという。

 春山、夏山、秋山、冬山と四季を彩った庭園があり、これが箇園の目玉になっている。春山は竹林を作って春のうららかな様子を表現し、夏山は涼し気な石を積み重ねて入道雲を表し、秋山は紅葉を配し、冬山は白い石で雪山に見立てている。こうして一年中、四季を楽しめるようになっている。まだ五月なのに紅葉は色づいていた。一年中紅葉する品種なのだろうか。

 石造りの通路や中庭の地面には、縁起のよい模様を石でかたどっている。ツアーガイドのおじさんは、

「昔の役人は家族の繁栄や金儲けを願ってこのような模様を作りました。今の役人は共産主義のために働いているので、このような演技担ぎは不要です」

 などと大声で言う。

「なに言ってんの?」

「ぜんぜん聞こえなかったよ」

 通りすがりの観光客がツアーガイドに茶々を入れる。

 中国では役人が賄賂をためこむのは常識なので、ツアーガイドの余計な解説は悪い冗談か皮肉にしか聞こえない。

「共産党の宣伝をしているだけだよ」

 ツアーガイドは慌てて弁明した。もしかしたら、そんなふうに宣伝しろと上から通達がきているのかもしれない。

 主人の部屋、親の部屋、奥さんの親の部屋、子供の部屋、応接室、食堂、使用人の部屋、仕事部屋、勉強部屋といろんな部屋がある。

 勉強部屋は二階にあるのだけど、建物のなかに階段がない。勉強部屋の裏手へ回ると、庭から狭い石の階段で二階へ上がるようになっていた。階段の入口には見張りを置いて、子供が外へ遊びに出られないようにしていたそうだ。

 十七歳以上の娘が住む部屋というものもあり、これも二階にあって男が簡単に近づけないようになっていた。深窓の令嬢とはこのような部屋に住む娘をいうのだろう。


挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)


 箇園の裏手に出ると、左右約一キロにわたって土産物街が広がっている。昔はこの通りが一番栄えていた商店街だったそうだ。今は昔風の建物に土産物店がずらりと並んでいる。

 臭豆腐が名物だというので、揚げたての臭豆腐を買い食いした。鼻につんとくる臭さだ。臭豆腐は豆腐を発酵させたものだ。中国の各地にある。それにしても臭かった。好きな人はこの臭みがやみつきになるのだろうけど。

 揚州名物の麻油饊子マーヨーサンズを買う。ラーメンを大鍋でさっと揚げたお菓子だ。揚げたてはほくほくしておいしい。

 土産物街をぶらぶらした後、バスでホテルへ行った。さすがに五つ星のホテルだけあって部屋は広くて綺麗だった。バスタブにゆっくり浸かって疲れをとった。


 二日目は、痩西湖へ行った。痩西湖は世界文化遺産になった観光名所だ。湖の周りに清朝の頃に作られた庭園がある。ここも箇園と同じように塩業で儲けた資金で作ったそうだ。

 湖のあちらこちらに橋がかかり、湖のほとりに亭が建っている。遊覧船が忙しそうに行き交う。ぶらぶらと散歩した後、自分で操縦するボートに乗った。奥さんが運転して湖をゆっくり進む。このボートは舵を切ると速度がとたんに落ちる。なかなかまっすぐには進んでくれない。橋の下は真ん中しかくぐれないのでそこに小さなボートが集まって渋滞する。しかも、遊覧船がやってくるので水路を譲らなければならない。ほかの小さなボートにごとんごとんとぶつかりながら前へ進んだ。なかなかスリルがある。奥さんは舵がすごく重いと言いながら楽しそうに運転している。ようやくのことで他のボートがあまりいないゆったりとした湖面へ出た。のんびりとボートを走らせ、さわやかな風に吹かれながら景色を楽しむ。そうこうしているうちに時間がきたので急いでボート乗り場へ戻った。岸辺へ上がった後、奥さんはだるそうに腕を振っていた。よほど力を使ったようだ。


挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)


 西痩湖を出て、入口の近くにある評判のいいレストランへ入った。名物の包子、巨大肉団子、干し豆腐の千切りを頼んだ。巨大肉団子は握りこぶし三つ分くらいある大きなもので、真ん中に卵の黄身が入っている。甘辛い味付けでおいしかった。

 観光名所を二か所回って、おいしいものを食べて満足して上海へ帰った。



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