決断と実行の速さを好む中国人
中国に住んでいた頃、中国人の経営コンサルタントが開催した中国人向けの経営セミナーに参加したことがあった。中国人の講師は、企業はとにかく管理を簡潔にして(つまり書類にサインすべき承認者の数を最小限に抑えて)、すぐに決定してすぐに実行できるようにしなければならないと何度も強調していた。決定に時間をかけていたのでは変化の激しいこの時代に取り残されてしまう、チャンスを逃してしまうというのである。
中国人の取り柄は、決断と実行の速さにある。
中国人はやるやらないをさっさと決めて、やると決めたら準備などおかまいなしにすぐに実行へ移す。日本人のようにぐずぐずはしない。稟議書を回して、二週間ほどかけて稟議書が真っ赤になるくらい十何個も判子を押すようなまどろっこしいことはしない。中国人はじれったいのが嫌いで、すぐに結果を求めるがゆえに即決即断をする。中国経済が急速に発展したのも、そんな彼らの習性によるところが大きいだろう。中国人の経営コンサルタントの話は、彼らの持ち味である即決即断をより進化させようということだ。
確かに即決即断は変化の速さに対応するにはいい方法なのだが、重大な欠陥もある。
中国の企業は、国営企業も外資系を含めた民間企業も腐敗が常態化している。おいしい利権を持っている社員は給料よりも裏の実入りのほうが多かったりするものだから、ポストの権限を利用して裏の収入を増やそうと躍起になっていたりする。
そんなところへ管理を簡略化してしまったのでは腐敗がもっと進むことになってしまう。本来は会社へ入るべきお金が、個人の懐に入ってしまうのを止めることができない。社員は個人的に懐に入る裏のお金ばかり気にして、仕事の質を気にしなくなる。製品やサービスの質が低下すれば、顧客が減って企業は衰退する。管理が手薄になれば、会社が倒産してしまうような横領事件が起きる虞もある。
「危ないな」と思いながら講師の話を聞いていたのだが、中国人の管理方法は、前回の話で書いたように「用貪官、反貪官」(裏の利権を与えて仕事をさせ、いざとなったら汚職したと非難し、その責任を取らせて辞めさせる)が原則だから、管理職や管理部門が不正が起きないように管理監督することを重視していないのかもしれない。管理職自体が腐敗しているのだから、会議や申請書といった会社としての管理はどうでもよく、むしろ、会社としての管理を強化されれば困るわけで、裏の利権関係の管理をしっかりやっておけばそれでよいということなのだろう。こうなると、会社組織というよりもマフィア組織に近いと言えるのだが。
いいか悪いかは別として、民族によって組織の作り方や組織に対する考え方がぜんぜん違うのだなと、経営セミナーを聞きながらあらためて思ったのだった。