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今年最後の眠りに就く前に 2017


 今年の中国は景気が持ち直した。

 特になにかがよくなったわけでもないのにどうして景気がよくなったのだろうかと思って調べてみたら、かなり絞り込んでいた公共投資を復活させたことが景気回復の要因だったようだ。公共投資が増えたことで製鉄などの基幹産業の調子がよくなった。中国の基幹産業は国営企業だ。つまり、公共投資で国営企業を支え、国全体の景気を支えたというわけだ。

 ただし、公共投資には副作用もある。たとえば、中国鉄路(中国の国鉄)は、総負債額は四兆八二五〇億元(約八十三兆円)もある。これは長年にわたって高速鉄道などの新線を作り続けてきた結果だ。高速鉄道網が整備されてかなり便利になったのだが、莫大な負債が重くのしかかる。今はまだ表立って問題になっていないが、こうした公共投資にかかる負債は、後年、必ず大きな問題になる。


 この秋には五年に一度の党大会があり、習近平国家主席の続投が決まり、重要な人事も決まった。二〇二二年までは習近平体制が中国を運営する。

 習近平はこの五年間凄まじい権力闘争を繰り広げ、次々と有力な政敵を追い落としてきた。権力闘争の武器は「腐敗追放キャンペーン」だ。中国の共産党幹部、政府高官の腐敗ぶりは桁違いにスケールが大きい。日本円にすれば何百億円、何千億円、はては何兆円とため込み、十数人もの愛人を囲っていたりする。重大な規律違反を犯したとして目をつけた政敵を捕らえ、裁判にかけて追い落とす。習近平派が汚職に手を染めずにクリーンで、反習近平派が腐敗分子というわけではない。汚職を行っているのはどちらも変わらない。汚職捜査の権限を握っている習近平一派がそれを利用して敵を捕まえているということだ。

 習近平は喧嘩に強い。五年前の国家主席就任時は歴代の国家主席のなかでも一番弱い人物だとみられていたが、権力闘争に勝ち続け、権力を掌握した。


 共産党は中国の特色ある社会主義は成功したとさかんに宣伝している。こうした論調を読むと、バブルの頃の日本を思い出す。バブルの頃の日本は自分たちのやり方が正しいと信じていた。今の中国も自分たちのやり方が正しいと信じている。今が中国の絶頂期でこの調子でこの先五年十年はいくのだろう。

 気になるのは、中国共産党が習近平に対する個人崇拝を始めたことだ。もちろん、習近平がやらせているわけだが、これは危険な兆候だ。民主主義のない中国では、共産党の最高幹部が集団指導体制をとることでバランスを保ってきた。個人崇拝の禁止は政治的なバランスをとるための知恵でもあるわけだが、現役の国家主席に対する個人崇拝はこのバランスを壊してしまう。中国は国内の思想統制をより強化する方向で進むだろう。


 今年は日中国交正常化四十五周年に当たる。

 その記念イベントの一環として、六月に谷村新司さんのコンサートが上海で開催されたので、上海人の奥さんと二人で観に行った。

 コンサート会場は人民広場の裏手にある上海大劇院。千八百人収容のきれいな劇場だ。観客は三割くらいが日本人で、七割くらいが中国人といったところだろうか。

『いい日旅立ち』から始まって、『22歳』、『三都物語』、『陽はまた昇る』、『サライ』、『群青』、『浪漫鉄道』といった谷村新司さんの代表的な曲が続く。中国でのコンサートなのでスタンダードな選曲にしているのかもしれない。

 香港、台湾、大陸中国の様々な歌手が谷村新司さんの歌を中国語や広東語の歌詞に変えてカバーしている。奥さんは谷村新司さんのオリジナル曲だとは知らずに中国語バージョンのほうで知っていた歌がいくつもあった。谷村さんは上海音楽学院の教授を務めたこともあり、上海万博のオープニングの際、上海へきて『昴』を歌ったりしたので上海ではよく知られた歌手だ。

 コンサートは盛り上がって一曲ごとに拍手がわき、ラストの『昴』では観客はみんな楽しそうに合唱していた。アンコールの『花』ではさらに盛り上がって大合唱になった。

「谷村新司さんはテレビで観たことはあったけど、まさかほんとうにコンサートへ行くことができるなんて思いもしなかったわ。いい歌が多いわね。歌い方も優雅だし、とても気品にあふれた歌手ねえ」

 上海人の奥さんは満足してくれたようだ。

 こんなふうに日本人の歌手が中国でコンサートを開けるような平和な関係が続いてほしい。

 


今年もお読みいただいてありがとうございました。よいお年をお迎えください。

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