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先祖がイナゴになって帰ってくる
広州へ出張した時、事務所脇の喫煙所でたばこを吸っていると、喫煙所の隅に茶色の大きなイナゴが地面に這いつくばっていた。僕が子供の頃に捕まえたイナゴの三倍くらいの大きさはあるだろうか。日本では見かけないかなり大きなイナゴだった。
一緒にたばこを吸っていた広東人とイナゴについてあれこれ話をしていると、
「広東の農家では、先祖がイナゴになって帰ってくるという言い伝えがあるんだ」
と彼は言う。
家にイナゴが入ってきたら、それは先祖が帰ってきたことだから、喜ばしいことになる。そのイナゴを摑み、お酒を入れたコップにイナゴの頭をつっこませてお酒を飲ませてあげ、それから、そのイナゴを外へ放す。おもてなしをうけて酔っ払ったイナゴはいい気持ちになってどこかへいく。もっとも、今ではよほどの老人しかこのようにイナゴをもてなしたりはしないとか。
そのうち消えてしまうのだろうけど、素敵な風習だなと感じた。