疑いだせばきりがないけど
文房具の購入について会社で中国人スタッフとミーティングをした。
ネット通販で安い物が便利に買える時代なのだから、もう総務課で一括購入するのはやめて、ネットの指定業者を決めて、各部署にはそこで自由に購入してもらえるようにすればいいのでないかと僕は言った。総務課の人だって手間が省けていいだろう。そしたら、あるスタッフの女の子が、
「そんなことをすれば大変なことになります」
と血相を変えて反対する。
「どうして?」
僕は不思議に思いながら訊いた。
「もしその人が配達先を自宅に指定してしまえば、文房具を自宅で受け取って簡単に転売できます。会社はコントロールできません」
「ネコババねえ」
大いにありうることなんだろうなと思いながらうなずいた。
また別のミーティングでは事務机や椅子やキャビネットや食堂に置いてある冷蔵庫や電子レンジなどの雑多な物品の管理が話題になった。共有のものは総務課で管理するとして、そのほかは各部署や各出先事務所で台帳を作って管理してもらえばいいじゃないと話したところ、
「そんなことをすれば大変なことになります」
とまた大反対された。別の女の子が、
「各部署や出先事務所には任せられません。勝手に転売してしまうかもしれません。会社はコントロールできません」
と僕に言う。
「またネコババの心配か」
なんだかなと思いながらうなずいた。これもありうる話なのだろう。やれやれ。文房具にしても一般資産にしても、そのあたりをうまく管理するためにマネージャーがいるわけだけど、誰も信用していない。そんなに誰も信用できないのなら、会社のなかに警察隊を作ってパトロールさせればいいじゃないかとまぜかえしたくもなる。一から十まで全部張り付いて見張れば、完全にコントロールできるかもしれないけど、そんな人手のかかることをできるはずもない。
彼らは完全に性悪説に基づいて発想している。他人をまったく信用しない社会というのは厄介だ。疑いだせばきりがない。いつも誰かがネコババするのではないかと疑心暗鬼にならなくてはならない。ネコババ防止のためによけいな手間をかけることにもなる。
日本もいつかこんなふうになるのかもしれないけどね。