夏の亜熱帯のインフルエンザ
この七月の初めに広東省広州へ出張へ行ったとき、びっくりしたことがあった。
八〇人くらいいる事務所のフロアーでは、マスクの着用率が異様に高い。半分近くはマスクをかけているだろうか。インフルエンザが流行していてもう何人も休んだのだという。夏にインフルエンザが流行るなんて変だなといぶかしく思いながら課の席につくと、女性係長はマスクをして長袖のジャンパーを着ている。
「どうしたの?」
僕が訊くと、
「インフルエンザにかかってしまいました。熱があります」
と彼女は答える。
「何度あるの?」
「三十八・六度です。悪寒がします。寒いです」
「え? 高熱じゃない、病院へは行ったの?」
「行ってません。大丈夫です」
「全然大丈夫じゃないよ。仕事はいいから早く病院へ行きなさい」
そう言って僕は彼女を帰した。一度インフルエンザにかかったら三四日は安静にしておかなくてはいけない。それだものだから、しんどかったら休みなさいと言ったのだけど、翌日、彼女は蒼白な顔のまま出社してきた。見るからに席に坐るのがやっとという感じだ。彼女は仕事の処理が終わってないからやらなければいけないという。中国の女は強いよなとあらためて思う。真面目なのはいいのだけど、インフルエンザは怖い病気だ。むりをさせられない。昼前、もう一度彼女の様子を見るとやはりかなりつらそうだったので、午後から休みなさいといって帰した。
報道によると、広州、深圳、香港、マカオといった珠江デルタ一帯でインフルエンザが流行っているという。
クーラーを利かし過ぎてキンキンに部屋を冷やして、寒い部屋と暑い屋外を行ったりきたりするものだから季節違いのインフルエンザが流行ってしまうのだろうな。