便乗ストライキのほうが厄介だったりして ~中国反日運動
案の定、朝から緊急対応に追われた。
反日デモに乗じて、あちらこちらで便乗ストが起きている。混乱している隙をついて賃上げを要求するのだ。ストライキはタイミングが大事だから、駆け引き上手な中国人らしいやり方だ。
僕としてはこちらのほうが厄介だった。
引取り先の工場がストライキのために出荷停止状態になってその確認に追われたり、納入先の工場も操業停止にするとしないとか情報が錯綜してその確認に追われた。一部の工場ではスト隊が「日本人を出せ」と大騒ぎしたところもあったようだ。
もっとも、僕の身の回りの中国人はふだんとあまり変わらなかった。
勤め先の事務所の中国人スタッフは、朝は元気がない感じだったけど、午後からいつもどおりになった。いつものように中国語で声をかけると、いつもと同じ反応がかえってきた。おおらかというか暢気な彼らだったので助かった。ぴりぴりした雰囲気が事務所に漂っていたらどうしようかと思っていたのだけど。
「野鶴さん、危ないから気をつけてね」
と、大変だなあとにやにや笑いながら声をかけてくる中国人スタッフもいる。まるで、バナナの皮を踏んづけてすべらないようにねと言っているみたいだ。こちらではデモの模様を報道していないせいもあるし、もともと政治とは縁の薄い人たちだからあまり緊張感がない。
もちろん、他所の日系企業では剣呑な雰囲気のところもあった。デモの発端となったある日系工場へ確認しに行ったところ、付近には警察隊が繰り出して警戒していて、工場への進入路のところは公安が道路を封鎖していた。
明日は九月十八日は柳条湖事件の記念日だ。デモの噂がいろいろと飛び交っているので、臨時休業にした工場も多い。ひと口に広東といっても地域によって温度差があるけど、万が一のことがあったら困るから休業しておいたほうがいい。
今回の反日運動は前回よりもずっと規模が大きい。
もっと根が深いようだ。
広がるばかりの経済格差によって不満を溜め込んでいる人たちの数がずっと多くなったというのもあるだろうし、ナショナリズムやファシズムがそれだけ深く浸透したということもあるのかもしれない。いずれにせよ、人が死んだりとそんな最悪の事件が起きなければいいのだけど。