酸菜魚を食べて暑気払い
ずいぶん暑くなってきた。
むわーーーーっとする広州の夏だ。
湿気がきつい。
とりわけ、雨上がりに陽射しがさすと、土にしみこんだ水分が蒸発してものすごい湿気になる。
とはいえ、こちらの人は幼い頃からこんな気候のなかで過ごしているので、こんな湿度の高い暑さでも平気なようだ。
「蒸しむしするから体がだるくてかなわないよ」
と僕が言っても、
「そうかな?」
と首をひねってなんでもないような顔をしている。
こんなときは、辛いものでも食べて、汗をかいて暑気払いするのがいい。
時々、中国人の友人を誘って「酸菜魚」という鍋料理を食べに行く。
草魚や鯉といった川魚と酸菜という名の高菜に似た野菜を鍋に入れ、唐辛子や山椒を思いっきり放り込んで煮込むスパイシー料理だ。漢方薬の草の根なんかも調味料として入っている。
川魚は独特の臭みがあるうえに小骨が多いから最初は慣れないけど、何度か食べているうちにおいしく感じるようになる。日本にいた頃は、川魚はごくたまにしか食べたことがなかったけど、中国で住むようになってからしょっちゅう食べるようになった。 酸菜のすっぱさと唐辛子が食欲を刺激してくれる。山椒の粒をがりっとかむと舌がぴりぴり痺れる。
唐辛子も二種類あって、「鷹の爪」と同じ赤いものと緑色の小さな唐辛子がある。この緑色の唐辛子がけっこうおいしい。味わいのある辛さだ。あんまり食べると次の日にお腹が痛くなってしまうから、すこしだけかじって味を楽しむ。
酸菜魚は僕の好物なのだけど、鍋のなかに食べられないものがひとつだけある。
魚のお頭だ。
中国人はお頭を御椀にとって全部平らげてしまうけど、僕にはできない。箸で頭の肉をえぐったり、直接頭をしがんだりしてあまさずに食べる姿を見ると器用だなあと思う。僕は、えらのそばにある頬の肉をほじって食べるのがせいぜいだ。
食べ終わる頃には、たっぷり汗をかいていい気持ちになる。
舌がひりひりぴりぴりするのも心地良い。
だるい体がしゃきっとする。