ビートルを千台数えるとしあわせになれる?
たしか小学校一年生の頃だったと思うけど、ビートルを見かけるたびに何台見たと数えていた時期があった。
ビートルとはフォルクスワーゲン・タイプ1――カブトムシみたいな格好をした自動車のことだ。今では一部の愛好家しか乗っていないようだけど、昔は街角でよく見かけた人気車種だった。デザインが洗練されていて、かつ個性があり、性能も値段も手頃だった。なんでも二千百万台も製造して、乗用車の製造台数としてはいまだに世界一なのだとか。
「カブトムシを千台数えるとしあわせになれる」
誰が流したのかは知らないけどそういう噂があって、クラスメイトはけっこう信じていた。遠足で電車に乗った時には、窓の外に見えるカブトムシをみんなで数えっこしたりした。
ただ悲しいかな、子供のことなので、翌朝になると自分が何台数えたのかもう忘れてしまっている。それで次の日はまた一台目から数え直していた。
今は、後継車種のニュービートルが走っている姿を時々見かける。昔のビートルを未来っぽくした感じだ。新しいビートルを見かけるたびに、小学生の頃に千台数えておけばよかったなあとぼんやり思ったりする。