なんてことのない労働節休暇の一日
中国は建前上、社会主義国家なので、今でも五月一日は祝日となり、会社はお休みだ。法定休日は一日だけなのだけど、国家の決まりとして土日の休みを移動させて三連休にする。今年は、先週の土曜日を月曜日へもってきて、日月火の三連休になった。毎日なんだか慌しいので、三連休になるとほっとひと息つける。
休暇だからといって、僕は特別なことをするわけでもない。
夕べは四川料理のレストランで中国人の友人と酸菜魚鍋をつつきながら遅くまで珠江ビール(広州の地ビール)を飲んだ。友人は職場を変えようかどうか迷っているところで、その話を聞いてもらいたがっていたので、僕はビールを注ぎながら相槌を打つ。部屋へ帰ったのは午前三時だった。それからベッドに転がりながら本を読み、寝たのは朝の六時前。
今日は正午に起きて昼ごはんを食べに行った。
近所に純喫茶みたいな日本食カフェがあって、そこでランチをやっている。料理もそこそこおいしいし、なによりふかふかしたソファーが気持ちいいのでたまに行ってゆっくりすごしたりしている。以前は毎日中華料理を食べても全然平気だったのだけど、この頃、歳のせいか脂っこい中華料理を食べるのが多少しんどくなってきた。たまに日本食を食べないと胃がもたない。
ランチを食べ終えて珈琲を飲んでいると顔なじみのウェイトレスがやってきた。よもやま話をしているうちに、ウェイトレスは、
「野鶴さんは早く彼女を作って結婚したほうがいいよ。この間、連れてきた女の子はどうなのよ?」
などと言う。
「いい感じなんだけど、まだ完全には追いついていないな。もうちょっと時間がかかるかな」
「お花をプレゼントしてあげたらいいじゃない。女の子は花をプレゼントされるのが好きなのよ。それにね、彼女の仕事が終わった時に職場まで迎えにいくといいわ。そうしてもらえると、女の子はとてもあたたかい気持ちになれるのよ」
「わかったよ。そうするよ」
はずかしくなった僕は、
「今君を追いかけている男の子はいないの?」
と訊き返して彼女の恋話を聞き出す。
好きな男の子がいたのだけど、彼女が彼を想っていたとき、彼のほうの反応はいまいちで、こんどは逆に彼が彼女を追いかけはじめると、彼女はふつうの友達にしか思えなかったそうだ。
「縁がないのね。でも、いい友達よ」
と言ってけらけら笑う。
こんなふうに中国人とたわいもないおしゃべりするのがとても楽しい。がんばって中国語を覚えてよかったと思う。
ウェイトレスの女の子は愉快そうに自分の恋話をしていたのだけど、そのうちふと、
「野鶴さんの話を聞くつもりが、どうしてわたしの話になっちゃったのかしら」
と、顔を赤らめて店の奥へ逃げこんでしまった。
彼女と入れかわりに雇われ店長のお兄さんがやってくる。彼は僕より三つ年下だ。「車が増えたよねえ」だとか「昔は家の鍵をかけなくてもすんだからよかったよ」などと、こちらもよもやま話。
そうこうするうちに四時を回ってしまったので、僕はお勘定をすませて部屋へ帰った。カフェで書きかけの小説の推敲をするつもりだったけど、結局、一字もできなかった。推敲はいつでもできるから、べつにいいんだけど。たまの休みだから、誰かとおしゃべりしたい。
もうお日さまもずいぶん傾いてしまった。窓から外を眺めると、ビルの谷間に夕暮れが漂っている。
なんてことのない労働節休暇の一日。