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正直はいけませんねぇ

 

 ある日の夕方、そろそろ終業時刻になりかけた頃、アシスタントのアニメちゃんがため息をついた。ずっと翻訳作業を続けていたので疲れてはててしまったようだ。

「ああー」

 と彼女はアニメ声で言い、両手を広げて机に突っ伏す。お猿さんのぬいぐるみのようだ。

「こら、寝たらだめ。疲れたんだったら、そのあたりを散歩して気分転換してきなさい」

 僕は机をこつこつ叩いた。翻訳は根を詰めるのでたしかに疲れる。それはわかるのだけど、がんばってもらわなければならない。

「野鶴さん、残業したくないです。残りは野鶴さんがやってください」

「あのなあ。君の責任で仕上げなさいって言ったんだから、最後までやらなくちゃだめだよ。今日中に仕上げなくっちゃいけないから、終わるまで残業だよ。残業代がつくんだからいいだろ」

「ついてもつかなくても、残業はしたくないですぅ」

 一般的にいって、中国人は残業したがらない。自分の生活のペースを乱されるのが厭なようだ。

「僕なんか残業代なしでいっぱい残業してるんだぜ」

「野鶴さんは典型的な日本人で人生灰色って感じですよね」

「人の人生を勝手に灰色にすんなっ。なんで人生灰色だなんてそんな日本語ばかり覚えるんだよ。――とにかく、きちんとやりなさい。上司に向かって残業したくないなんて言ったら、普通はくびになるんだぞ」

 引き締めなければいけないと思ってヘッドロックしようとしたら、

「正直、残業はしたくないです。ますますしたくないですぅ。でも、社会へ出たら正直はいけませんねぇ」

 としょぼんとしたアニメちゃんはしみじみつぶやく。僕はヘッドロックする気力が失せてしまった。

 たしかに、残業したくもないのに夜遅くまで仕事したりしているのだから、日本人は他人にも自分にも嘘をついているのかもしれない。

 正直でお気楽な君がうらやましいよ。

 生まれ変わったら、広東人の女の子になろうかな。


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