鬼気迫る傑作――『歯車』を読んで
『歯車』(芥川龍之介)のネタバレを含みます。ご注意ください。
『歯車』は芥川龍之介の最晩年の代表作。
たしか、自殺直前に第一章だけ雑誌に発表して、残りは遺作として掲載されたのだったと思う。といっても、もちろん同時代で読んだわけではないのだけれど。
――恐らくは、我滅びん。
という文中の言葉からわかるように、このままでは自殺するよりほかないと覚悟していた芥川が最後の気力を振り絞って書いた短編だ。発狂しそうな自分の心理を見事に解剖している。
芥川が凄いのは、ばらばらになってしまいそうな心をなんとか持ちこたえ、作品に昇華させていることだ。ふつうなら、とてもまともに小説を書けるような精神状態ではない。
彼が追究していたのは、確固たる自我だった。だが、ひとつ間違えれば、自意識の牢獄もしくは地獄へはまりこんでしまう。心の闇を見つめれば見つめるほど、自分自身を蝕んでしまうことになるから。小説のなかに、分身が現れたという記述があるけど、もしかしたらほんとうなのかもしれない。
鬼気迫る傑作だと思う。
『歯車』は青空文庫で読むことができます。
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