頭の痛い中国のインフレ
中国はインフレが続いている。
中国の経済がのぼり調子ということもあるけど、いちばんの要因はアメリカがドル紙幣をじゃんじゃん刷って、市場をマネーでどぼどぼにつけていることにある。
経済がずたぼろになってしまったアメリカはそうして世の中にカネを回して、なんとかひと息ついているわけだけど、経済の基礎状態がよくないから、アメリカ国内だけではよぶんに刷ったドル札を吸収できない。そこで、あふれたお金が中国といった景気のいい国の投資に回る。つまり、中国へ資金が流入するわけだ。
通常、為替相場がこのような資金の流れを調整する。
中国に資金が入りすぎれば元高に動いて入ってくる資金の流れを細くしようとし、資金の入りが少なければ元安になって資金を呼び込もうとする。
ところが、中国政府は実質的には為替相場を市場を決めさせず、政府自身が決めることにしているので、この調整機能が働きにくい。
中国政府は元高を嫌う。
人民元が高くなれば輸出価格が高くなり、輸出産業が打撃を受けるからだ。もうすでに繊維産業といった低賃金の産業の工場は中国を脱出してベトナムなどの賃金のもっと安い国へ移っている。元高が進めば、ほかの産業にまでこの動きが波及してしまい、失業者が増えて社会不安が起きてしまう。
というわけで、中国は為替を調整してアメリカからやってくる過剰なマネーをとめることができない。もちろん、中国としても外国からの投資は歓迎なのだけど、ある一定限度を超えるとその害のほうが大きくなってしまう。
僕は広東省の省都・広州に住んでいるのでこのインフレの影響をもろに受けてしまう。
たとえば、近所のお粥店のピータン豚肉粥はこの二年ほどで五角(約七円)ずつ三回も値上げして、元の値段の一・三倍になった。去年、僕が借りているマンションの部屋の大家さんは一〇%(!)の値上げを要求してきた。なんとか値切って五%でおさめさせたけど、そんなに上げられたのではたまったものではない。
広州の大卒初任給は三〇〇〇元(四万円弱)。この相場はこの少なくともこの十年間は変わっていない。前回、前々回の『賄賂文明』で書いたキックバックをもらえるような人たちや、商売で成功したり会社でとんとん拍子で出世するような人たちはいいけど、キックバックとは縁のない庶民の暮らしは苦しくなる一方だ。
もちろん、中国政府も物価安定に躍起になっている。中国の地価の値上がり幅は最近落ち着いてきた。だけど、全体的にみれば、根本の原因を放置して対処療法ばかりしているので成功しているとはあまりいえない。
アメリカはインフレターゲット政策をとることにした。二%が目標数値なのだとか。つまり、もっとドル札を刷って市場にマネーを供給するということだ。そうなれば、アメリカから中国へ流入する資金はさらに増えるだろう。中国のインフレはしばらく続きそうだ。大家さんがまた家賃の大幅値上げを要求してこないかといささか心配だ。