佛山市女児轢き逃げ事件について
二〇一一年十月十三日、広東省佛山市で轢き逃げ事件が発生した。
佛山市は広東省の省都・広州市の南西にあり、各種製造業の工場が建ち並ぶ工業地帯だ。日系メーカーも多い。
まず、路地を歩いていた二歳の女の子が白いワゴン車に轢かれた。ワゴン車は前輪で女の子を轢いた後、後輪でまた彼女を轢いて走り去った。通行人が三人通り過ぎたものの、誰も関心を払わずに通り過ぎ、第二の車がまた彼女を轢いた。合計十七人の通行人が女の子をそばを歩きながらも無視して、十八人目の通行人がやっと女の子に手を差し伸べた。女の子は病院へ運ばれたが八日後に息を引き取った。なんとも痛ましい事件だ
この映像は街角に設置してある監視カメラに録画されていて、テレビのニュース番組で報道された。ニュース番組や新聞報道では、案の定、女の子を見殺しにしたことについてモラルの低下といったことが叫ばれたが、ことはそう単純ではない。
中国人の知人とこの事件のことを話した時、まっさきに、
「ペテン師が多すぎるんだよ」
という反応が返ってきた。
つまり、轢き逃げされた女の子を助けようとして関わりになった場合、「女の子をこんな目に遭わせたのはお前だろう」と逆に無実の罪をなすりつけられてトラブルに巻きこまれる虞があるというのである。
「なにかの罠かもしれない。関わりになりたくない」
これが一般的な中国人の反応だろう。
広州の街角を歩いていると、
「パンをめぐんでください」
と呼び止められることがあるが、地元の人間には、
「絶対にあげちゃだめ。関わりになったらどんな目に遭わされるかわかったもんじゃないから、絶対に無視すること」
と、何度もアドバイスを受けた。
中国に限らず、日本でも、都会に暮す人々は無用なトラブルに巻きこまれないように用心している人がほとんどだろう。モラルを高めろなどといってもむなしいばかりだ。ニュースキャスターや新聞記者はそれで溜飲を下げられるかもしれないが、なんの解決にもならない。
人々の絆が断ち切られた社会では、他人に無関心にならざるを得ない。そうしなければ、自分を守れない。問題はここにある。たぶん、佛山市女児轢き逃げ事件のようなことは、毎日、この広い中国のどこかで起きているのだろう。佛山市の事件はたまたま監視カメラにしっかり記録されていたので、大々的に取り上げられたにすぎない。
――恐ろしい世の中に住んでいるのだな。
とふと思う。