天津にはきたけれど
飛行機の出口から外を見て、一瞬目が点になった。
亜熱帯の広東省広州から北の天津へやってきた。
広州の日中の気温は十八度くらい。朝晩はすこし冷えるから上着を着るけど、昼間はシャツ一枚で十分だ。これに対して、天津の最高気温は三度くらいで、最低気温はマイナス三度くらい。とても寒い。
コートを持ってきたのだけど、うっかり油断していて、機内預けのトランクに入れてしまった。背広しか着ていない。
てっきり空港の建物のすぐそばについてそのままターミナルのなかへ入れるとばかり思っていたら、あろうことか、飛行機はだだっ広い駐機場に着いてしまっていたのだった。タラップを降りて、バスに乗ってターミナルへ行かなくてはならない。外気の温度は二度くらい。
なんとも手荒い歓迎だ。寒いよ。僕は寒がりなんだ。
亜熱帯からくる便なんだから、ターミナルのそばにつけてくれよな、と文句を言っても始まらない。体をすくめてバスまで走る。幸い、バスは人がびっしりでおしくらまんじゅうをしているようだったからなかは暖かかった。助かった。もっとも、天津の寒さはさわやかだ。ふだん亜熱帯で暮らしていて、うだるような暑さと湿気にやられてなまっている頭が冴えるような気がする。
さて、天津には出張でかれこれ七回くらい来ている。二か月に一回くらいのペースで来ているのだけど、いつも郊外の飛行場からそのまま郊外の経済開発区――つまり工場や倉庫がいっぱい建っている工業団地で仕事して、また郊外の飛行場へ戻って飛行機に乗って広州へ帰る。まだ一度も天津市の中心部へ行ったことがない。一度くらいゆっくり市内見物をしたいけど、時間に追われているので、なかなかその時間が取れない。
「天津ってどんなところ?」
と友達に訊かれても、
「いやあ、工場がいっぱいあったねえ」
としか答えられない。天津のお土産はスーパーで買う甘栗と天津名物のお菓子だ。市内へ行けばほかにも土産になるようなものがほかにもいろいろあるのだろうけど。
テレビで天津市内の映像を見ると、古い洋館があったりする。中国の悠久の歴史のなかでは、かなり新しい町だけど、見所はありそうだ。せっかく中国で暮らしているのだから、いろんなところを見てみたい。
今回の出張も市内見学するゆとりはなく、工業団地でお仕事をして広州へとんぼ返り。なんともとほほな感じなのだけど、そのうち余裕ができればすこしくらい時間を取ってささやかな観光をできるようになるんじゃないかな、と淡い希望を抱いている。




