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無力感との戦い


 もし貨幣を使わずに自給自足の暮らしをできるのなら、あるいは、貨幣の使用をごく少量に抑えることができたなら、行き詰った経済システムと距離をおいて比較的自由に暮すことができるのだろう。

 ところがそうはいかない。今の日本においては、貨幣を使わずに暮らすことなど、ほとんどむりだ。特に都会では、お金がなければなにもできない仕組みになっている。

 コンピューターシステムのユーザーがパソコンのキーボードを叩く時、もはや独立した一個人ではなく、システムの一部と化してしまうように(つまり、パソコンという道具の主人ではなく、システムの駒の一つになってしまう)、貨幣を使用した人間は、もはや独立した一個人ではなく、経済システムの一部と化してしまう。いささかシニカルな表現をすれば、貨幣の使用者は己の人生の主人公ではなく、経済システムの奴隷となる。今日の経済システムは社会を発展させるためのものではなく、大規模な搾取装置と化しているので、なおさら厄介だ。奴隷は搾取され続ける。筆者も含めて、多くの人々がこのような苦境に陥っている。真面目に働いても、暮らしが成り立たない。懸命に働いても、もっと働かなければ飯の種を取り上げるぞと脅される。職を変えようにも、新しい職は容易には見つけられない。

 この経済システムへの対処法は人ぞれぞれだ。

 システムをうまく使ってのしあがろうとする人もいれば、自分の身辺に小さな調和を築きシステムを見てみぬ振りをしようとする人もいるだろう。ここで誤解しないでいただきたいのは、それが悪いことだと言いたいのではないということだ。誰でも成功できるものなら、成功したいと願うものだろう。嫌なことなら、見てみぬ振りをしたいと思うものだろう。筆者もそう思う。経済システムがあまりにも強大なため、実際問題として、今のシステムに問題があるとわかっていても、ちょっとやそっとでは変えようがない。ほかに現実的な対処法がないため、そのように適応するほかに術がない。すくなくも、苦しいなりにも息をつくことができる。

 ただし、うまくのしあがろうとしても、人口のほんの数パーセントの人間を除いて、このシステムの上位に立つことはむりだ。砂の絶壁を駆け上るようなものかもしれない。よほど才能と環境と運に恵まれた人でなければ、成功はむずかしい。また、見てみぬ振りをしてやりすごそうとしても、ますます苦しくなる状態におかれたまま無力感を感じさせられ続けることには変わりない。

 では、「真面目に働いている人間がまともに生活できないのはおかしい」と異議申し立てをすればよいのかと言えば、これもまた簡単ではない。

 システムは頑強だ。このシステムに対して異議申し立てを述べようとする人は、無力感どころか、絶望感にうちひしがれるかもしれない。

 搾取システムの要は、ウォール街を本丸にしている金融資本だ。金融資本は様々な分野の様々な企業に投資を行ない、手っ取り早く利益を上げるように要求する。企業はそれに応えるために、リストラや合法的な下請け叩きを行ない、労働者の生活を奪い、下請け企業の利潤を奪う。一次下請け企業は、二次下請け企業を叩き、二次下請けは三次下請けの製品やサービスを買い叩く。どの企業でも、生き残るために人員整理や工場の海外移転をせざるを得なくなる。働き口がなくなってしまえば、消費は冷え、企業投資も冷え込み、世の中の資金の巡りが悪くなる。こうして、日本は恒常的なデフレーション状態となってしまった。現在のアメリカでも状況は同じだ。アメリカのほうが日本よりもっとひどいかもしれない。物を作って輸出しようにも製造業がほぼ空洞化してしまったのだから。

 金融資本による大規模な搾取は暴力の変形だから、この暴力に対抗するためには別の暴力を用いる必要がある。暴力を牽制できるものは、別の形の暴力でしかない。デモを行なったくらいでは金融資本は態度を変えない。それくらいは問題の想定内として織り込み済みだろう。では、たとえばウォール街&シティ爆弾テロといった過激な暴力を使うよりほかにないのだろうか? 答えは否だろう。過激な暴力の応酬は、たとえば、テロ抑止のための国家権力による統制といった別の種類の暴力に活躍の場を与えるだけの話だからだ。合目的ではない。

 もちろん、今のシステムを軌道修正すればすべて丸くおさまるのかと言えばそんな単純な話でもないが、ただ一つ言えるのは、どのようなシステムであろうと未来永劫続くものではないということだ。システムを変えるためには、たとえ簡単ではなくとも、デモをしたのになにも変わらなくて無力感に襲われようとも、誰も耳を傾けてくれないと嘆きたくなっても声を上げ続けるよりほかに道はない。黙っていたのではなにも変わらない。「希望」はいつでも自分自身のすぐそばにる。あとはそれに気づくか、気づかないかだ。

 時代の闇は濃くなるばかりだが、無力感に白旗をあげるわけにはいかない。絶望感に飲みこまれるわけにもいかない。それが相手の狙いなのだから。


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