マッサージ万歳
悲しいかな、歳をとれば、あちらこちらにがたが出てくる。
バックパックを背負って放浪の旅に出ていたあの頃の俺は今いずこ。もうかなりくたびれてしまった。
そんなわけで真面目なマッサージへ定期的に通うようにしている。
「真面目な」と書いたのはわけがある。中国へ遊びにきた日本人が「マッサージへ行きたい」と言い出せば、不真面目なところへ行きたがっていることが多い。自称他称清純派の野鶴としては、そういうところではなく、真面目な店へ行っていることを強調しておきたい。わざわざ強調するところがあやしいと思う読者諸子がおられるかもしれないが、やはり力説したい。
広州の街角にはあちらこちらにマッサージの店がある。「盲人按摩」の看板を掲げた小さな店もあれば、中医(漢方)治療を謳った病院風の店もある。病院風のマッサージ店では実際に漢方医がいて、薬を調合してくれたりもする。
真夜中に日本人の男二人で街角を歩いていたら、突然、
「マッサージ、やすい。やすいネ!」
と、シャッターの降りたビルの前に立っていたおばちゃんに日本語で呼び止められたことがあった。無視して通り過ぎたら、追いかけてくる。もちろんん、こんな手合いは不真面目なマッサージの呼び込みだ。二百メートルくらい歩いてもまだ「マッサージ。やすい!」と叫びながら蟹股で追いかけてくるので、走って逃げた。なんだか山姥に追いかけられているようで、あれはちょっと怖かった。
今は行きつけの店を決めて、頼む人も決めている。
男のマッサージ師だと力が強すぎて痛いので、女の子で比較的力の強い人に按摩してもらっている。女性に触ってほしいからではなく、適切に揉んでもらうために女のマッサージ師にお願いしていることを強調しておいきたい。なにしろ、僕は清純派なのだ。わざわざ強調するところがあやしいと思われるかもしれないが、大切なことなので力説したい。
肩と背中を中心にして一時間半くらい揉んでもらう。終わった後は、すっと身体が軽くなる。足のむくみも取れる。とても気持ちいい。
昼はパソコンに向かって仕事をして、夜は家で書き物をしているので、肩と背中がバキバキに凝っている。アンメルツやキンカンを塗ってなるべく凝りをとるようにはしているのだけど、やはり揉んでもらわなければ乾いたセメントみたいにカチカチになってしまう。
中国には「刮痧」という伝統療法がある。
コインを水で濡らし、肩や肩甲骨の裏のあたりを軽くこする。もちろん、こすれたところは真っ赤になるのだけど、すこし傷つけることで逆に肌を活性化し、自然治癒力で肩の凝りをとるというものだ。
「ほんとに凝りまくってるね。刮痧をしたほうがいいことあるよ」
といつも頼んでいるマッサージ師のお姐さんに勧められたので、一度やってみてもらったことがあった。ところが、僕の体の状態が悪すぎたせいで、赤色どころか紫色になってしまい、彼女は、
「こんなの初めてみたわよ」
と、驚きを通り越して吹き出してしまった。身体が硬いから、凝りやすい体質ではあるのだけれど。翌日は痛くてかなわなかったけど、紫色は三四日でひいてくれ、その後は背中が軽くなって楽になった。刮痧はたしかに効く。
なんだか、おやじくさい話を書いてしまったなあ。でも、おやじだからしかたないか。