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苛政は虎よりも猛なり
一般的には、「苛政は虎よりも猛し」という読み方が流布しているかもしれない。この故事成語は『礼記』に載っている。
ある未亡人が墓の前で泣いているのを孔子が見かけた。嘆き方があまりにも激しいのでその訳を問うと、彼女は義父も夫も息子も、虎に襲われて死んでしまったという。むりもないだろう。孔子がどうして他所の地へ移らないのかと訊いたところ、苛政がないからだと彼女は答えた。このことから、「苛政は虎よりも猛なり」という言葉が生まれた。国家機構が暴力装置にほかならないことを端的に表現した言葉だ。
苛政とは、収奪できるだけ収奪する政治を指す。国民が窮状にあえでいるにもかかわらず、理屈にならない理屈をあれこれつけては増税、徴発、徴兵を繰り返す暴政のことだ。
人喰い虎が象徴する自然の脅威は、たしかに人を苦しめる。だが、悲しいことに、人間を最も苦しめるのは人間そのものにほからないのかもしれない。