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「おじいちゃん、進化って何?」と、話しについていけないミーナが苛立ち交じりに割って入った。
「魔物は時として魔力が増大するときがあるのだ。政治が乱れたり、戦争が起きたりして世の中が不安定になると、そういった人間の邪悪さを吸い取るかのように巨大化したり、強力になったりするんじゃよ」
「だから、鉤爪熊がそんなに大きくなっちゃったってわけね。もしかしたら、他にもそういうのが出るかもしれないの?」
「そうならないといいがのう」と、老人は表情を曇らせた。「かつて、王国に魔物の危機が迫ったことがあってな。そのときも魔力が乱れて、おかしなことがいろいろあったものよ」
クローレがキージェに視線を向けていたが、かつて黒衣騎兵だった男は、何食わぬ顔で従者を演じ続けていた。
不穏な会話を交わしつつも、老人は的確に査定を続けていた。
戦利品を一つ一つ確認し、帳簿にペンを走らせる。
「ヴォルフ・ガルムの牙、六本。鉤爪熊の爪、左右全部で十本。毛皮は上等、胆嚢も薬の材料になる。気嚢は金にはならんが、報告書には記載しておこう。こいつらを換金すれば、金貨四百枚ってとこだな」
「やったあ、そんなに!?」
クローレが目を輝かせ、両手で拳を振る。
「これで新しいマントも買えちゃうし、今夜はおいしいものを食べて、ふかふかなベッドで眠れるよ」
ミュリアがクゥンと鳴き、クローレの足元をくるくると駆け回る。
セルジオ爺さんの査定は妥当なものだろう。
クローレの色気には惑わされなかったか。
それとも、ミーナの視線に釘を刺されたか。
どちらにしろ、キージェの首にかかった賞金千枚がどれほど異常かが分かるというものだ。
――巨大な魔物より厄介者かよ。
しかも、卑劣な婦女暴行犯ってのが納得いかねえぜ。
心の中で舌打ちをしたキージェの表情をいぶかしげ眺めながら、老人が人差し指を立てた。
「ただし、ここは出張所なんで、それだけの現金は用意しておらん。今すぐ渡せるのは銀貨十枚で、後はギルドの預かり金になるが、それで良いかな」
危険を伴う冒険者はもともと大金を持ち歩かず、ギルドに預けておくのが普通だ。
銀貨十枚だって、二人で十日ほどは飯が食えるし、宿にも泊まれる。
次の町のギルドで引き出せばいいだけのことだ。
クローレは同意して書類に署名した。
「ねえ、ミーナ、食事できるところ、教えてよ」
「そうね、小さな村だから、あんまりお店はないけど、夜遅くまで開いてる店なら、すぐ近くにあるよ」
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