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女剣士(ヒロイン)拾っただけなのに ~なんで俺がラブコメの主人公にならなきゃならねえんだよ~  作者: 犬上義彦


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(9-9)

「宿は……」と、言いかけて設定を思い出し、キージェは敬語に変えた。「宿はどうするんですか?」


「そっか、先に見つけておかないと、また野宿になっちゃうか」


「それなら、宿屋じゃないけど、ここの隣が部屋を貸してるから、聞いてあげるよ」


 流れ者の冒険者に部屋を貸してくれる宿はありがたいが、中にはとんでもない経営者もいる。


 特にクローレのような若い女は寝ているところに押し入られたり、ひどいときは人買いに売られるなんてこともある。


 その点、ギルドからの紹介であれば、泊める側も身元がはっきりした客として受け入れやすいし、泊まる方も安心というものだ。


 セルジオ爺さんに査定のお礼を言い、ミーナに連れられて出張所を出ると、すぐ隣は石造りの立派な建物だった。


「前の村長さんの家なんだけど、亡くなってからは奥さんが一人で暮らしててね、空き部屋を商人とか旅人に貸してるの」


 中から出てきたのはキージェと同世代のご婦人だった。


 細い金髪を編み込みにしてまとめ、花模様の刺繍を散らした前掛けをつけた姿が家庭的で素朴な印象だが、身だしなみには気を配っているようで、唇には薄く紅も塗られている。


 年相応のややふくよかな体つきに柔和な笑顔が似合うご婦人だ。


「こんばんは、クレアさん。この人たち、ギルドのお客さんなんだけど、今晩泊まれる?」


「あら、そうなの。空いてるからどうぞ」と、ご婦人は上品に膝を折りながらしゃがんでミュリアの頭を撫でる。「賢そうな犬ね。一緒に中にどうぞ」


「いいですか」と、クローレは素直に館に足を踏み入れた。


 入ってすぐは食堂兼居間といった空間で、暖炉もある。


「わあ、すごい長弓」


 クローレが壁に飾られた弓と矢を指した。


 キージェは思わず声を上げそうになって飲み込んだ。


 ただの弓ではない。


 身長ほどもある長弓で、木と竹を組み合わせて木の繊維で補強し、それを粘着する樹脂で固めた強力な武器だ。


 最大飛距離は小さな森の端から端まで余裕で飛び越えるくらいあるし、一撃必殺の有効射程距離も長いから川の向こうにいる敵でも仕留められる。


 もちろん、弓術使いとして相当のレベルにないと使いこなせないし、初級者はそもそも射ることすらできない。


 だが、クレアは「私も若い頃は冒険者だったのよ。結婚して引退したの」と、なんてことのない思い出話のようにつぶやいただけで、ランプを片手に奥の階段を上がってしまった。


「こちらが泊まれる部屋よ」と、二階に上がってすぐの扉を開ける。「狭いけど、ちゃんと掃除してあるから」


 先に部屋に入ったクレアが窓際の小さなテーブルにランプを置く。


 ぼんやりとした光に浮かび上がるベッドは簡素な木製のものが一つだが、幅が広く、清潔なシーツで整えられていて寝心地は悪くなさそうだ。


「わあ、ベッド大きいね」と、早速クローレが腰を下ろす。「ふっかふかだよ、キージェ」


 それを俺に言われても。



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