第81話 秘密の共有
衝撃的な昨日を送ったせいか、起きてからベッドの上で昨日のことが頭の中で思い出されてしまうため、気分転換を兼ねて公園に行こうと部屋を出た。
日曜日の午前中の公園は静かなため、緑豊かで穏やかな景色が広がっていた。
なんとなく近くのベンチに座り、空を見上げた。
今でも昨日のことが夢だったんじゃないかって思うぐらい濃い1日であった。
両想いになって付き合うことになったら退学が決まるなんて、事実は小説より奇なりという言葉があるが、正にその通りである。
そんな大きなことが2つも重なってしまったら、私の頭はパンクしてしまう。
どちらも大切なことだからこそしっかりと考えないといけないが、パンク中の頭は言うことを聞いてくれない。
一体これからどうしよう。
ため息をはいて、再び空を見上げた。
「どうしたの?」
背後から声が聞こえて振り向くと、イブキくんがいた。
ランニング終わりなのか、息があがっているが爽やかであった。手にはペットボトルの水を持っていて、それを1口飲んでいた。
「イブキくん!?」
「そうだよ?」
彼は顔を徐々に近づけてきたが、私は顔を背けながら隣に座るようにベンチをトントンと叩いた。
すると、隣に座ってくれた。
「それで、ヒマリは悩んでいそうだけど大丈夫?」
イブキくんは心配そうにこちらを見た。
「正直ね、全然大丈夫じゃないかな」
イブキくんは珍しく目を見開いていた。
私が正直に心の内を話すのは初めてかもしれない。
「そうか。実は僕も落ち着かなくて走りに来たんだ。
ヒマリもそうだったんだね」
「え、イブキくんもなの!?
全然そうは見えないけど?」
「冷静な振りをして落ち着かせてるだけだよ。僕の心は散らかってるよ」
「そうなんだ。私も全然昨日のこと受け入れられてなくてさ」
突然彼は私の右手を握った。
「それって、僕が恋人になることも受け入れられてないってこと?」
「いや、そういう訳ではないけど、まだそれも自分の中では落とし込み出来てないというか」
「どうすれば、僕が君の彼氏ってことになる?」
「そんなこと急に言われても」
「大事なことだよ。教えて」
再び綺麗な顔を近づけてきた。私は顔を背けようとするが、両頬を押さえられて逃げられなくなった。恥ずかしい気持ちを殺して、正直に気持ちを伝える。
「イブキくんは私の彼氏です。好き」
すると、彼は満足して手を離してくれた。
「ありがとう。でも、今回は無理やり言わせたみたいだから、次は普通に好きだって言って欲しいな」
無理やり言わせたじゃないかと心の中で思っていたが、黙っておく。
「言いたくなったら言うよ」
「その時を楽しみにしてるね」
彼は魅惑的な笑みを向けて、いきなり顔を近づけ、おでこにキスをしてきた。
「いきなりなに!?」
「恋人になったんだから、いいよね?」
「うん?まあ、いいけど、今後は断りを入れてからにして欲しい」
「じゃあ、キスしていい?」
「ダメです」
「聞いてもダメなの?」
「今はでこキスでお腹いっぱいです」
「そっか。今日は我慢するよ」
再び私の右手を握った。
少し沈黙が訪れたが、それも悪くないと思った。
今度は背筋を正して真剣な顔でこちらを向いていた。
「ヒマリ、昨日はごめん。
僕が君のことを言わなければ退学にもならなかったのに」
「ううん。私も隠しきれなかったのが悪いんだよ。だから、イブキくんが悪いって思ってないから気にしないで」
「いいや、僕が悪いんだ」
彼は自分を責めているようだった。その感情をどうにか落ち着かせてあげたいと思い、彼の頭を撫でていた。
「僕のこと、小さな子供だと思ってる?」
「違うよ?イブキくんが求めてるかなって」
「……。
ヒマリの手は温かいからか、心が安らいできたけど、今度は抱きしめて欲しいな?」
「ど、努力します」
「ヒマリは難攻不落の城みたいだね」
「そうかな?恋愛に不慣れすぎてどうしたらいいか分からないんだ」
「もっと素直になればいいんだよ?」
「それが難しくて恥ずかしいの」
「僕は好きな人の前でなら、恥ずかしいとかないかも。むしろ、僕の好きな気持ちが伝わって欲しいなって思ってる」
「イブキくんの気持ちは伝わってるよ。自惚れるかもしれないけど、私の事好きなんだってわかる」
「自惚れていいよ。僕はヒマリのこと大好きだから」
よくぽんぽんと甘いことを言えるな。それを言われて嬉しくて、気持ちの悪い笑みが漏れている。
話がかなり逸れてしまったが、彼は何を言いたかったのか気になった。
「ーーそれで、なんで急に謝ってきたの?」
「僕が悪かったからまず謝りたかったんだ。
あとね、一方的にヒマリの秘密を知ってしまったから、僕の秘密を共有しようと思ったんだ」
「なるほどね。それで、イブキくんの秘密ってなんなの?」
普通の声で話せないのか耳元に口を近づけた。
「僕の秘密は2つあるんだ。
1つは僕の先祖は人間なんだ」
衝撃で口に出してしまいそうになるが、慌てて口を塞いだ。
彼はここから普通に話を始めた。
「ヒマリは知っているか分からないんだけど、エミリーという女性を知ってる?」
どこかで聞き覚えのある名前な気がする。
「エミリーはこの世界で初めて人間を誕生させた人間なんだ。
元々は異世界から連れてこられたんだけど、彼女の血が特別で貴族たちに好かれていて、子孫をたくさん産んで亡くなってしまったんだ」
そうだ。ユアさんの別荘で読んだ本に出てきた人だ。
「ヴァンパイアと人間に出てきた人だよね?」
「そうそう、よく知ってるね!僕も実は彼女の子孫なんだ」
「それって……」
口に出すか悩んでしまう。
「そうだけど、そうじゃないんだ。
僕はハーフなんだ」
どうしてなんだろう。
「どうして?と思うでしょ?」
心の声が読まれたようだ。
「僕たちの一族は男が産まれるとヴァンパイアのハーフの子、女が産まれると人間が産まれてその子は貴族の子と婚約を結ばれてまた人間を産むような運命になるんだ。
それで、僕の母親は女の子を産むことが出来ず、僕と一緒に追い出されてしまったんだ。
2つ目の秘密になるけど、僕の母は僕が12の頃亡くなってしまって、僕は一人ぼっちになって、そういう子を集めている施設に入っていた。
ある日この学校の校長が僕たちみたいな子を救うために、この学校の存在を教えてくれたんだ。それで、僕はここに来たいと思って、校長にどうすれば入れるかって聞いたんだ。
そしたら、入りたい気持ちと勉強すれば入れると教えてくれた。
その後、僕は校長が施設に送ってくれた本や教材をたくさん読み、勉強をして、この学校に入学出来たんだ。
あの人は凄いよね。この世界の1番上の地位に登りつめたのに、僕たちみたいな最下層なものたちにも救いの手を差し伸べてくれるなんてウィザードって凄いなって尊敬しているし、感謝をしているんだ」
おじさんは偉大なことをしていたんだと知って、改めて凄い人なのかと実感した。
優しい人なのは知っていたが、イブキくんのことも助けていたなんて凄い話である。
「校長先生って凄いね」
「そうなんだ。だから、校長先生には感謝しているんだ」
「イブキくん、大切な秘密を教えてくれてありがとう」
「僕の話を真面目に聞いてくれてありがとう」
イブキくんは少しスッキリしたような晴れた顔をしていた。
「イブキくんの秘密って思ったより大きくなくてよかった」
「そう?僕の中ではかなり大きいことだと思ってたけど、ヒマリって不思議な感覚を持っているね」
世間外れな発言をしてしまったと思い、気を付けなければと思う。
「そ、そうかな?
秘密を共有したもの同士、これからもよろしくね」
私は握手しようと右手を差し出す。
イブキくんは私の右手を握ってから軽く引っ張って、私を優しく抱きしめた。
「よろしくね」
彼の雰囲気にのまれてつつ、それも悪くないと思った。しばらくそのままだったが、そろそろ離れようとするが、彼はまだ離してくれない。
「あの、そろそろ離してもらえません?」
「まだダメ」
「離して欲しい」
「なら、大好きって言って欲しい」
「そんな!ハードル高いよ」
「そうじゃないと離せない」
小さい子供みたいに駄々をこねる姿が可愛いと思った。
「わかった。
ーーイブキくん、大好きだよ」
「ありがとう。僕も大好きだよ」
本当に離してくれてびっくりしつつ、今の私の顔を見て欲しくなかったので、離れたくもなかった気もした。
「私、そろそろ帰る!」
「唐突だね、どうしたの?」
「気持ちも整理出来たし、イブキくんと話せてよかった」
「僕も。ここでヒマリと偶然会えて、話せてよかった。ありがとう」
「私も!ありがとう!!
ーーじゃあ、また明日学校でね」
「うん。また明日」
ここはすんなり帰してくれるんだと思いながら、寮へ歩き出した。




