第80話 約束
イブキくんと想いが通じ合い、心がほわほわしている中、隣にいる彼がいつもよりも輝きが増していて、カッコよく見える。
「そんなに見つめてどうしたの?」
「なんかいつもよりカッコイイなって」
彼の口元は緩み、「そうかな」と照れくさそうに首を触っていた。
その様子を見て、私も恥ずかしくなり顔を逸らした。
そんな空気も悪くなかった。
これが恋愛なんだなと少しだけ分かったような気がする。
その後、彼とご飯を食べたり、フラワーズパーク内をゆっくりと回り、気付けば日も暮れかけていた。
「今日は楽しかったね」
「うん。人生で1番楽しかった」
「そんな大袈裟な!」
冗談で言ってると思ったが、隣をを歩く彼の顔を見たら、全然そんな顔はしていなかった。彼は足を止めて、こちら向いた。
「本当だよ。僕には楽しいことが少なかったから、ヒマリと出会ってから色々なことが知れて楽しいんだ。
だから、そんな君と両想いになって、僕の彼女になってくれるのは本当に幸せなことなんだ」
そんなこと言われたら、嬉しすぎて昇天しそうだ。
自分でも気持ち悪い顔をしているのはわかっているが、そのニヤニヤを収められるほどの表情筋は鍛えられていない。
そんな顔を見られたくないので、手で顔を隠すと、彼は意地悪な顔で覆い隠す手を解いた。
「もっと可愛い顔を見せて」
私の体温は上昇し、心臓の脈打つスピードは最高潮となった。
これ以上のドキドキに耐えられなくなり、彼の手を解き、背を向ける。
「ーーごめん、嫌だった?」
本気で心配していそうな声に申し訳なくなる。
「違うよ!ただイブキくんにドキドキしすぎて恥ずかしくなっただけ」
すると、彼からハグされた。
「そんなこと言われたら、もっと好きになっちゃうよ」
耳元でそんな事を言われ、私の心臓は破裂し、もぬけの殻となった。
しばらく放心状態のまま、歩いていたらもう寮の手前までやってきていた。
「前から聞きたかったことがあったんだ」
「なに?」
「ヒマリって……人間だよね?」
2人の間を通る風が吹き荒れる。
「今、何て言った?」
「人間なんだよね?」
私の脳みそは再びエラーを出す。緊急事態が発生していることは分かるが、何と言ったらいいのか分からず、口からは何にも出なかった。彼の顔は私を安心させようとしてるのか、穏やかな顔であった。
「僕には隠さなくて大丈夫だよ。前にも話したけど、僕も人間とのハーフだから、何となく似てると感じる部分があったんだ」
「そ、そうなんだ」
「だから、君は人間のクォーターじゃなくて、ハーフか人間そのものなんだと思う」
まずい。見抜かれている。
これを正直にそうだと肯定してしまったら、私は退学決定である。その事情を知らないイブキくんはどうしてもこの答えを聞きたがっている。
「こんなこと誰にも言えない大きな秘密だって、分かってはいるよ。
そうだとしても、僕だけでも君の味方でいられると思うし、君の力になりたいんだ。
ーーだから、正直に答えて欲しい。
君は人間なんだよね?」
ここで違うと言っても、また同じ状況になって詰められそうな未来は見えるので、正直に答えた。
「そう」
突然外にいたはずなのに、2人とも何故か校長室に移動していた。
「やあ、お二人さん」
「校長先生!?」
目の前に現れた校長先生に驚き、2人で顔を見合せた。
「早速本題に入るけど、何故君たちがここに呼ばれたのか分かるかな?」
私はもちろんわかっている。だけど、隣にいる彼はまだ状況が飲み込めていなさそうだった。
「ヒマリさん答えてくれるかな?」
「私が人間だということを知られてしまったからです」
「その通りだ」
隣にいたイブキくんは目を丸くしていた。
「以前にも約束していた通り、1人でも君が人間だと知られてしまったら退学という話だったけど、覚悟は出来ているよね?」
「……はい」
正直ここで退学するのかと残念な気持ちだった。まだまだやりたいこともたくさんあるのに、ここで終わるのか。
「ーーあの、2人の間でそういう大事なことがあったことを今初めて知りました。
ヒマリが退学することになったのは僕のせいということですよね?それなら、彼女の代わりに僕が退学します。そしたら、ヒマリが退学しなくてもよくなりますか?」
「いや、それは不可能である。1人に知られてしまったということは口に出してはいないだけで、イブキくんのように感の鋭い子は気付いているかもしれない。だから、この事実を知られてしまったら、退学にせざるを得ないぐらい大きなことなんだ。難しいことかもしれないけれど、分かって欲しい」
「僕が聞かなきゃヒマリは今すぐに退学しなきゃいけないことは無かったんですよね?」
「そうだね、"退学"をすることはまだなかったけれど、僕もそこまで鬼じゃないから、今すぐに退学して出ていけとは言っていないよ」
「え?」
その言葉に俯いていた顔が自然と上がった。
「退学をすることが正式に決まっただけで、今退学しろとは言っていないよ。
まず、こちらも準備することがたくさんあるんだ。みんなの記憶を消して書き換えたり、手続きとかもあるからね。色々と時間を要するんだ。
ーーつまり、まだここにいて大丈夫なんだよ」
その言葉を聞いて、少し肩の荷が下りる。
「だからって、いつまでもいられる訳ではない。
準備するのに、そうだな。今は11月だから、来年の3月はどうだろうか?
僕の息子が卒業するタイミングでここを去るというのは?」
「チアキくんと一緒に私もここを出ていくのはいいと思います。
でもそんなに長くいても大丈夫なんですか?」
「大丈夫にするから、安心してほしい。
僕だって、君を入学させた責任はあるし、共犯者だからね」
「おじさん!!」
「おじさん?」
思わず、口が滑った。
「校長先生ありがとうございます」
「いや、いいんだよ。おじさんは悪口じゃないよね?」
「すみません。安心したら、つい校長先生のように優しいおじさんが私にもいまして、出てしまいました」
「それならよかった。それと、イブキくん。君は全く悪いことはしていないから、自分のことをどうか責めることはしないで欲しい」
イブキくんは先程からずっと浮かない顔をしている。
「はい」
「それでは話はここまでだ。休みなのに呼び出して済まなかったね。ゆっくり休んでね」
校長が指をパッチンと鳴らす、また外に戻っていた。
女子寮までは歩いてもう少しのところだったので歩き始める。その数分間は2人とも無言のまま到着した。
「イブキくん今日は色々あったけど、ありがとね!!また学校でね」
入口に向かおうとしたら、手首を強く掴まれた。
「行かないで」
「どうしたの?」
「ヒマリ、どこにも行かないで」
今にも泣き出しそうな子供が母親に縋るようなそんな悲しい顔をしていた。
「まだ一緒にいようか」
私たちは気持ちを落ち着かせるように構内を散歩した。
歩いている間に気持ちの整理ができたからか、少しだけ心が軽くなった。
「イブキくんそろそろ戻ろう」
「わかった」
再び女子寮前に戻った。
「またね!」
彼に手を振り、彼の表情はまだ暗いが手を振り返してくれた。
入口を通り抜けてから、彼の様子が気になって、思わず戻ると、彼は暗闇に紛れてそこにはいなかった。
流石にいないよねと肩を落とし、戻ろうとすると誰かに手を引かれて抱きしめられた。
「イブキくん!?」
「やっぱり離れるなんて無理だよ」
抱きしめる腕は強いが、声は弱々しかった。
「私も寂しいよ」
しばらく抱きしめあって、ようやく離れた。
イブキくんに私の手を握っていた。全然帰してくれなさそうだ。
「流石にそろそろ離れないと」
「うん」
「帰らない?」
「帰りたくない」
「もう戻らないとだよ」
「分かってるけどもう少しだけ」
そうして数分後、ようやく解放された。
「また学校でね」
「うん」
また手を振って、私は部屋に戻った。長かった1日がようやく幕を閉じた。
いつも拝読ありがとうございます!!
誠に勝手ながら今月は忙しいため、連載を1ヶ月ほど休止します。
次回更新は9/12です。よろしくお願いします!!




