第70話 始まりと終わり
校長室に入って席に着くと、真面目な顔でこちらを見る校長先生に緊張しながら、私とシュウヤくんは意見を伝える。
「僕たちがやりたいのはアイドルです。
この学校でも未だにやったことないことであり、人間の世界ではとても有名なものであることを知り、僕たちのクラスでやりたいと思いました」
シュウヤくんが僕と使っていると違和感があるなと思いながら、目上の人相手に当たり前だなと思った。そんなことに気をとられている場合では無い。
「私たちがやるアイドルは校内アイドルをイメージしています。
アイドルのグループ名は『Vish』、メンバーはリーダーのシュウヤ、ユイト、タクト、ヒナタ、ミズキの5人組です。ハロウィンパーティー限定のグループとして活動します。
彼らを認知させるために必要なことはまず、ビラ配りです。アイドルの下済み時代といえば、広場や駅など人が多いところで自分たちのグループを知ってもらうためにビラ配りをします。そこから私たちもスタートし、ファンを獲得するために行動します。
次にグッズの販売。
グッズは大まかに2つ。メンバーのソロ写真と各々のメンバーカラーをモチーフにしたバラのストラップ。これなら持ち運べますし、好きなところに付けてたり出来るのでこの2種類を制作して頂きたいです。
最後に曲と振り付けの制作。
1曲だけでいいので彼らのためにオリジナル曲をお願いします。そして、その振付を考えてくれる人もいたら大変ありがたいです。
また校歌を編曲してくれる方も探して欲しいです。
披露は2曲なのですが、2曲目はみんなも知ってる学校の校歌をアレンジして彼らに歌ってもらい、最後は会場のみんなで大合唱して終わる形にしたいと考えています。
ライブ&トークで30分の2日間計4公演。
始まりと終わりに曲を挟み、真ん中はミニトークと1つ企画をしたいと思います。
ーー以上が提案です。ご清聴ありがとうございました」
言いたいことをしどろもどろになりながらも伝えることが出来た。
校長先生は顔色ひとつ変えずにただ頷いていた。
「とても面白い。さすがはヒマリさんだね。どこでその知識を得たのかとても気になるが、今はそこを追求するのはやめておこう。
君たちの言いたいことはよくわかった。
僕に出来ることはできる限りやっておくよ。
君にすぐに連絡が取れるように交換しておこうか?」
「そうですね?」
校長先生の連絡先を持っているが、また交換するというか振りをした。
「ありがとう。
君たちの意見は素晴らしかった。僕に出来ることは何でもするので、また気軽に相談してほしい」
無事にプレゼンを終えて、ら私たちは校長室を後にした。2人で廊下を横並びで歩きながら教室まで向かう。
「ヒマリ、校長にしっかりと意見が言えて凄いな」
「そんなことないよ!シュウヤくんが隣にいてくれたから言いやすかったんだよ」
シュウヤくんは足を止め、ため息をついた。
「……ヒマリ。好きでもない人にそんなこと言わないでくれ。俺はまだ諦められてないんだ」
私の鼓動は早くなった。まだシュウヤくんは私のことが好きみたいだ。
「でもシュウヤくんがいてくれたから言えたのは事実だよ。ありがとう」
「まっすぐ感謝を伝えてくれるのはヒマリの良いところだ。こちらこそ俺たちじゃ考えもつかなかった意見を出してくれてありがとう」
お互い感謝し合っていたら、ヨルくんが私たちを見つけ、手を振ってこちらへとやってきた。シュウヤくんは少し不機嫌そうな顔をしていたが、ヨルくんはいつも通りの爽やかな笑顔だった。
「ハロウィンパーティーの準備は順調かい?」
「問題ない」
「それはよかった。君たちのクラスはアイドルをやるらしいね!凄いね〜!誰が考えたのか知らないけど、その発想力うちのクラスでも欲しかったな」
「ヨルくんのクラスは何をやるの?」
「俺たちは喫茶店だよ!ちゃんと燕尾服やメイド服着て給仕するから、ヒマリちゃんたちも遊びに来てくれると嬉しいよ」
「へぇー!喫茶店いいね!ちゃんと服装も用意するのは本格的だね!暇を見つけて行くね」
「ありがとう、待ってるよ。
そうだ。ヒマリちゃんと2人っきりで話したいことがあったから、借りてもいいかな?」
「どうぞ」
シュウヤくんは早足でこの場を去って、私たちは人気のない外のベンチへと移動した。
「単刀直入に言うね。俺と別れてほしい」
「え?」
衝撃的な言葉によって私の脳は動かない。
「元々は3か月限定ではあったけど色々と事情が変わってさ、今のタイミングに別れても大丈夫になったんだ」
「事情が変わったって、どういうこと?」
「実はさ、俺の父と母にアイドルをやっている事がバレてしまったんだ。でも怒るとかもなく俺のやりたいことならやればいいって言ってくれたんだ。これは俺も予想外の反応でとても驚いたけど、正直嬉しかった。
ヒマリちゃんと付き合ったおかげで俺が人を好きになれるって親にも伝わって結婚相手を見つけろって言われなくなったし、君と交際したことで恋人と過ごす楽しさを知れて楽しかった。
ーーだけど、君は俺のことを本気で好きではないよね?」
そんな切なげな顔でこちらを見ないで欲しい。
確かに、本気で好きかと言えば違うと思うけど、それをストレートに伝えるのはヨルくんを傷つけてしまう。
答えるまでに沈黙が訪れた。
「……」
「だから、これ以上キミを僕だけのものにするのはズルいと思って、一旦この関係性を終了するという意味で別れようと言ったんだ。
別れたからって、僕たちは友達だ。何でも頼って欲しい」
「わかった。ありがとう。これからも友達としてよろしく」
私は右手を差し出し、彼と握手をした。
短かったが、意外と楽しかったこの関係性が終わってしまうのは少々寂しいが、偽りの関係を続けるのは苦しかった。
ヨルくんがここで別れようと言ってくれて、心の中ではホッとしている自分がいた。
「それじゃあ、言いたいことも言えたし教室に戻りますか」
ヨルくんは私の教室までいつものように送ってくれた。
教室に入り、みんなの元へ行くとその様子を見ていたのか、少し雰囲気が悪かった。
「何の話をされていたのですか?」
教室までの道中でヨルくんにそういう質問をされる事が読めていたのか、別れたと話していいよと言われているので、正直に言う。
「あんまり大声で言えるようなことではないんですけど……」
「大声で言える話ではない?
ーーということは破廉恥なことでもされたのですか?」
ユアさんは変な方向に勘違いをしていた。
「違いますよ!!」
「では一体、何の話だったのですか?」
「私たち別れたんです」
みんなの動きが止まり、私の方を向いた。
「ごめんなさい、もう一度聞いてもいいかしら?」
「私とヨルくんは先程別れました」
ユアさんは笑みが零れており、隠そうとしていたが手で口を押さえても丸見えだった。
みんなはヨルくんとの交際に反対していたから、心なしか嬉しそうにしていた。
「でも、これからも友達なので普通に接しますけど、みんなにはいち早く知って欲しかったので、言えてよかったです」
「それは本当に嬉し、悲しいことがありましたね。
これからはワタクシたちと仲良くすればいいだけの話ですから、また一緒に過ごしましょうね?」
「ありがとうございます!」
「そういえば、クラス代表で校長先生に意見を伝えて下さり感謝いたしますわ。
ヒマリさんのプレゼンが素晴らしかったとシュウヤから聞きました。ヒマリさんに任せて良かったですわ」
「そんな大袈裟な!私はただまとめた意見を言っただけなので、まだまだこれからが本番ですよ」
「そうですわね!これからもっと忙しくなりますが、頑張りましょう」
準備は校長先生の協力もあってミズキくんのこと以外は滞りなく進み、あっという間にハロウィンパーティーまで1週間を切っていた。




