第71話 アイドルとは
ハロウィンパーティーが今週に開催されるのに、未だにミズキくんは練習にやってこない。
彼が来ることを信じて5人版で練習しつつも、みんなは内心諦めているようにも思えた。
だけど私は5人でやって欲しいと思い、もう一度ミズキくんと話すべく、いつもすぐに帰ってしまう彼の後を尾行する。
ハロパの準備期間でどのクラスも忙しない雰囲気の中、彼は人気のないB棟側のベンチに腰をかけるとカバンから紙を見て、ため息を吐いていた。
私は彼から見えないようにベンチの後ろの草陰に隠れながら、彼の様子を覗う。
何の用紙を見ているのかとスマホの拡大機能を使ってみると、私たちがまとめたダンスの振りや歌の歌詞割りを凝視していた。
注意深く周囲を見渡してから、彼は立ち上がり、カウントをしながらステップを踏み始めて、歌い始める。
1曲終えると、彼はベンチからスマホを拾ってから座り見ていた。先程の自分の動きを撮影していたのか、その動画を見てぶつぶつと何かを言っている。
「歌が安定していないし、このステップが甘い。まだここの振りが曖昧だから自信がなさそうに見える」
自分の改善点を淡々と述べている。
この様子を見る限り、彼はみんなに隠れて練習をしているようだった。
わざわざ人気の無いところに行ってこのように練習をしていたのだろうかと尋ねたいが、もしこれがバレてしまったら彼は激怒するだろう。
ミズキくんが1人でコソ練していたことをみんなに知らせようと後退るが、落ちていた枝を踏み、パキっという音が鳴った。
「誰かいるの?」
彼は恐る恐るとこちらに近づいてきた。
私も逃げようと身を隠しながら動くが、彼に見つかってしまう。
「何故キミがここにいるの?」
「ミズキくんにどうしても練習に参加してもらいたいと思って、後をつけました」
正直に告白すると、彼は大きなため息を吐いた。
「キミに知られてしまったからには彼らにも隠せないだろう。いいよ、教えてあげる。
僕はここで1人で練習をしていた。彼らと一緒に練習をしたくないからね。
ただそれだけだよ。当日に合わせればいいと思っていたから、キミ達には言っていなかっただけだ」
事実を端的に話していた。彼の本心も入っていそうだが、本当にみんなと練習したくないのだろうか。
「みんなと練習したくないの?」
「そうだよ。さっきからそう言っているだろう。
僕は人間以外とは関わりを持ちたくない」
「そうだけどさ、こういうグループでやるものって個人の練習も大切だけど、みんなで練習しないと良いものって完成しないと思うよ?」
「それはそうだけれど、当日に合わせればいい」
「当日の少しの時間でみんなの動きに合わせられるの?」
「……」
彼には申し訳ないが、痛いとこを突かせてもらう。
「1人でこっそり練習してるってことは自分のパフォーマンスに自信がないからでは?」
「いや!そんなことない」
「じゃあなんで、みんなと練習しないの?」
「それは……」
もう少し反発してくると思ったけど、案外脆そうだった。
「それは?」
「キミの言う通り、自信がないからだ」
「何で自信がないの?さっきパフォーマンス普通に良かったよ」
「僕は彼らの前で堂々と苦手だと発言しているだろう。その手前、僕がもし足を引っ張って公演が失敗してしまったら彼らは僕を責めるだろう。
そうならないように、僕は一人で練習をしているんだ」
ミズキくんの中でみんなは本当に恐ろしい存在として映っているのだなと実感する。
どうすればもう少しミズキくんが歩み寄ってくれるだろうと考えるが、ミズキくんの考えを変えることは難しいし、どうしたらいいのだろう。
「僕は絶対にみんなと練習はしないよ」
「うん、それは分かったんだけど、1人で練習してもクオリティを上げる方法が無いかなって探してるの。
誰かいたような……?」
喉に小骨が刺さっているようなこの痛痒さを感じながら、思考を巡らせてようやく閃いた。
「わかった!!ヨルくんを呼べばいいんだ」
「誰?」
「ちょっと待って」
早速ヨルくんに連絡をして、ちょうど時間が空いているようでこっちに来てもらうことに成功する。
「ヨルくん来てくれるって」
「その人はどんな人?」
「うーん、みんなに優しいけど、本心がよく分からなくて、でも人間界で地下アイドル活動しているからとても詳しいんだ」
すると、体がホールドされていきなりバックハグされた。
「呼んだ?」
耳元で彼の声が聞こえて、ビクッとする。
「もう別れたから、こんなことしなくていいんだよ?」
「そうだった、癖でついやっちゃった」
ミズキくんは私たちの様子を若干引き気味で見ていた。
「ねえ、キミ達って、付き合っていたの?」
「そうだよ、ねえ?ヒマちゃん?」
「そうだね、訳ありだけど」
「タキモトさんってこういうチャラついた人が好きなんだ」
「いやいやいや」
ミズキくんの発言に思わず否定する。すると、ヨルくんは珍しく爽やかスマイルが崩れて少しイラついているように見えた。
「ミズキくんだっけ?凄くストレートな物言いをするね?俺はキミみたいなタイプ嫌いではないけど、みんなからは好かれなさそうだ」
「僕は人間以外とは関わる気はないので、それで構わない」
「そっか、手厳しいな」
「それで、ヒマリさんはこの人に何をしてもらうつもり?」
「あ、そうだった!ヨルくんは先程も言った通り地下アイドル活動をしているので、この学校1アイドルに精通していると思い、ここに呼び出しました」
ミズキくんは私の言葉を疑うような鋭い目つきでヨルくんを流し見た。
一方私の隣にいるヨルくんは嬉しそうにこちらを見ている。
「ヒマちゃんにそう言われると嬉しいな」
「このヨルさんが地下アイドルやってるからと言って、本当に実力があるかどうかは分からない」
「そうだね。ヨルくん、この動画見て振り付け覚えられる?」
「1回じゃ無理だけど、何回か見ればいけるかも?どれどれ」
シュウヤくん達が4人で踊っている映像をヨルくんに見せて、振りコピをしてもらい、ミズキくんにヨルくんの実力を知っていただこう。
3回ほど見終えると、振りをなんとなく体に入っていそうな動きをしていた。
「ミズキくん、ヨルくんの隣で踊ってみよう」
「本当に踊れるの?」
彼はヨルくんを挑発するように言った。
「さあ?やってみないと」
彼もその挑発に乗りつつ、余裕があるように見える。
「2人とも準備はいい?」
ほぼ同時に頷き、私は音楽を流して、スマホで2人の様子を撮影した。
ヨルくんはたった3回しか見ていないのに、自分のもののように馴染んでいて凄い。そして、自分がメインではない時は、観客であるこちらを見る余裕もあり目線を合わせてくれて、ファンサされた気分にもなれた。
一方ミズキくんはまだ自分のダンスに自信がないのか、踊ることに精一杯で周りが見えていないように感じた。これが彼の言っていた課題のように思えた。
「どうだった?」
「ヨルくん凄い!!ほんの少しの時間でここまで出来るのは天才だよ!!流石だね」
「いやいやそれほどでもないよ。俺も同じクラスだったら出れたのにな〜」
「……」
ミズキくんは黙ったまま下を向いており、様子がおかしいと思い、声をかける。
「ミズキくん」
「ーーヨルさん、ダンスを教えてください」
ミズキくんはヴァンパイア族の彼に頭を下げた。
「俺とは関わりたくなかったんじゃ?」
「先程はそう言いましたが、僕が間違えていました。
あなたのダンスを見て、僕に足りないものがよく分かりました。だから、あなたと一緒にダンスをすれば、僕はもっと上手になれると思った。
ーーお願いします。僕にダンスを教えてください」
「分かった。僕も忙しいからゆっくり教える時間は無いけど大丈夫?」
「もちろんです。あなたに合わせます」
「オッケー!俺はミズキくん専用のダンスコーチということで、よろしく!
ヒマちゃん、俺がミズキくんを立派なアイドルにするから、楽しみにしていて」
アイドル育成ゲームのプロデューサーみたいな発言をこの世界で聞けるなんてと、つい感動してしまう。
「うん!楽しみにしてるね」
「あと、4人が練習している動画を毎日送って欲しい。みんながどんな風に踊っているのか知りたいからさ」
「分かった。ヨルくん、ミズキくんのことをよろしくお願いします!」
「任せて!一緒に頑張ろうね?」
「はい」
私はヨルくんにミズキを任せて、教室へと戻り、先程ヨルくんのダンスを見て感じたこと、みんなに意識して欲しいことを伝える。
「みんな、私はとある人のダンスを見て気が付いたことがあったんだ。
みんなは振り付けになれてきたけど、ファンの人を見ていないよね?
まだそんなに余裕がないのは分かるんだけど、目線がお客さんの方に向くだけで見ているこっちはよりワクワクしたり、ドキドキを味わえることに気が付いたの。
だからみんなも視線を意識して、動いて欲しいと思いました」
「なるほどな。俺はどこを見ていればよく分かっていなかったが、お客さんの方を見ればいいのか」
シュウヤくんは私の意見を汲み取ってくれた。すると、ヒナタくんが挙手する。
「はーい、質問なんだけどさ、お客さんを見るって具体的には誰を見たりすればいいの?」
「うーん、誰を見ればいいか分からない時は知り合いだったり、友達を見つければいいんじゃないかな?
その人に気持ちを届けたいと思ってパフォーマンスすると、その気持ちが見ている人たちにも伝わるような気がする」
「なるほど〜!!分かった!」
そのことを伝えてからもう一度パフォーマンスをしてもらうと、先程よりも表情やダンスが生き生きしているように見えた。
「みんな凄く良くなった!!この調子でもっと完成度を上げていこ!!」
そうしてハロウィンパーティー当日を迎えるのであった。




