第4話 クラスの親睦会
今日は人に褒められたおかげか良い気分で学校も終わり、金曜日の放課後といえば、2日間お休みである。まだ登校して日も浅いというのに、常に緊張状態でいるせいか凄く疲労を感じている。やっと部屋でゴロゴロと過ごせる。
HRが終わり帰宅しようとすると、ナルミさんが立ち上がり、クラスのみんなに聞こえるように大きな声で呼び掛けをする。
「今日の20時から親睦会やるので、参加したい人はグループチャットに書いてある場所に来てください」
みんなはそれぞれ返事をして、バラける。私はどうしようかと迷いながらも教室を後にする。
部屋に戻り、先程の親睦会に行くかどうか考える。
正直なことを言うと、この世界の親睦会とはどのような物なのかと気になりつつ、面倒な気持ちもある。
この学校には来てから校長のおじさん以外とはしっかりとした会話はしておらず、同世代の友達も欲しいのが本音だ。そうではないと、グループワークのとき浮いてしまう。
だが、私が口を滑らし人間だとバレると大変なことになるのも目に見えている。嘘をつくのがあまり得意ではないので、上手く誤魔化せるかも微妙なのである。
だから、今後の自分のためにも行くか行かないか迷うが、この場合行った方がメリットが多い気もするので、短い時間だけお邪魔しようと決めて、親睦会へ向かった。
親睦会の会場は学校を出てすぐ右に学園通りという学生向けの飲食店や洋服や雑貨等のショップなど並んでいる通りの真ん中辺りにある小洒落たレストランのようなところだった。
中に入ると20時目前だったため、パッと見た感じほぼ全員参加しているようだ。
少し歩くと私の姿を見つけたナルミさんが話しかけてきた。
「ヒマリも来てくれたのね!嬉しいよ!
ーーこっちにおいで!」
そう言ってみんなの輪の中に入れてくれた。
みんなの話を聞いていると、やはり別世界に迷い込んでしまったのだなと改めて実感する。
全く知らない土地や暮らし、流行しているものなど、みんなの話に私も知っている風に頷きつつ、正直全くついていけないのだった。
ここでも話を回してくれるのがナルミさんで、本当にクラスの女子リーダーという感じだった。
「そういえば、ヒマリは中学までどこに住んでたの?
この学校に来るまで誰もヒマリのこと知ってる子いなかったけど、結構遠いところから来たの?」
ついに私にもスポットライトが当たる。これに関してはクラスの女子だけでなく男子も聞きたいようだ。みんなの視線が私に集まる。
緊張の余り言葉が詰まる。
「えーっと、そう!遠いところから来たんだよね」
あまりに下手くそな嘘に自分でも笑えるほどだ。
「ヒマリの種族って、私たちゾンビ族に似てるけど、ちょっと違いそうだよね?ヴァンパイア族みたいにフルネームで名乗っていたし、まるで人間みたいだよね」
ナルミさんは核心を付くように質問をしてきた。
正直本当のことを言いたくなるが、半分本当で半分嘘をつくことにした。
「これはあんまり外では話すなって親から言われているんだけど、私も生まれはゾンビタウンなんだけど、私の祖母が実は人間だったらしいの。
そのせいか昔から人間っぽいってよく言われてるんだよね。
小さい頃におばあちゃんから人間の話を聞いていたから、みんなよりほんの少し詳しいだけだよ」
たぶんこれも本来話すことはNGだろうが、少しでも人間っぽい要素のある子という印象を作った方が、今後動きやすいと思い、嘘の話をしてみた。
意外にもみんな驚いている様子だった。
「なるほどね、なんとなくヒマリが人間ぽいなって思っていたけど、やっぱりそうだったのね!」
ナルミさんが自分の推理を当たって嬉しそうに話していた。
他のみんなも彼女を賞賛していた。
そんな中、ヴァンパイア族のユアさんが初めて声をかけてきた。気品溢れる彼女が目の前に来ると、オーラが凄い。何を言われるか怖いと思いながらも、彼女の顔を見る。
「ヒマリさん。ワタクシもあなたのこと血の匂いからしてゾンビ族ではないと思っていたのだけど、やはりそうでしたのね!感激ですわ!!
ワタクシ、昔から人間に憧れていましたの!まさかこんなところで人間との混血の方にお会いできるなんて本当に嬉しいわ」
私の手を握り、可憐な少女のように笑う彼女は綺麗だった。
あと、こんなオタクみたいに早口で喋る子だとは思わなかった。ユアさんの後ろから同じでヴァンパイア族のシュウヤくんが彼女の饒舌な語りを止めた。
「ほら、ヒマリさんが驚いてるだろ。
一旦勢いだけで話すのはやめろ。悪いな、ヒマリさん。
ユアは人間に他社よりも興味があるから、つい喋りすぎる癖があるんだよ」
彼は困り気味話した。
私も正直このテンションに呑まれてしまったらつい口を滑らせて話してしまいそうだったので、止めてくれるのありがたかった。
「なるほど。私もユアさんと仲良くなりたいので、またお話できる時にしましょう!」
「ヒマリさんありがとう!」
ユアさんは私の手を握って、感謝を言った。シュウヤくんは私からユアさんを剥がすようにこの場を後にする。
この後も私はクラスのみんなに質問攻めに合いながら、みんなも人間に興味がある人ばかりなんだなと改めて実感した。
親睦会が始まってから2時間経つ頃、私は眠気に襲われながらも、まだ終わらないのかなとぼんやり思っていた。
周りはピンピンしているので私だけ睡眠薬なんか飲まされたのか?と思うぐらいみんなは元気である。これが世にいう深夜テンションなのか。
私は質問攻めから解放されて、眠気を吹き飛ばすために親睦会のために用意してもらっていたご馳走を口にする。
このレストランは人間の料理を提供してくれるお店であり、洋食屋さんなのでつまみやすいサンドイッチ、サラダ、ケーキやクッキーにタルト、チョコレートフォンデュができるチョコマウンテンなどもあり、高校生の親睦会にしては豪華な仕様であった。
夕食も食べていなかったのと、この2時間緊張で何にも口にしていなかった。1口食べ出したら止まらなくなるほど美味しかった。
もぐもぐと料理を噛み締めていると、隣の席のイブキくんが私の近くの椅子に座り、取ってきた料理を口にしていた。彼も私のように1人でいるタイプの人間である。
「ーーなあ、本当に人間のクォーターなのか?」
声のした方を向く。イブキくんにいきなり話しかけられてびっくりした。
「うん、そうだけど」
「……そうか」
彼は再び黙ってご飯を食べていた。かなりあっさりとした会話だった。
いきなりどうしたのだろう?と彼のことが気にながらも食べ続ける。
3時間が経過し、23時にもなりそろそろお開きにならないかなと思い、ナルミさんに聞きに行く。
「これからみんなとやりたいゲームがあるんだけど、やりたい人!」
彼女は張り切って言っていたが、私は眠気に耐えられず離脱することを話すと、残念そうに私を帰られせてくれた。
クラスのみんなにバレないよう、ゆっくりドアに近づき、あまり音を立てないようドアを閉めて、抜け出す。
外は春なのにまだ冬の寒さが残っており、風が吹くとまだ寒かった。この学園通りのお店は23時過ぎても明かりが付いているお店が多く、まだまだ営業していることに驚いた。
目に入った飲食店のドアに吊り下げてあるボードに書いてある営業時間を見ると、そもそも17時オープンの27時クローズと書かれている。他のお店も同様に夜しか営業していないお店ばかりだった。
不思議に思いながらも学園寮に着き、疲れたがなんとかシャワーを浴び、就寝する。