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最終話 ルドルフのドレス

 夕日の照り映えた道を、ひとつの自転車がからからと音を転がしながら走っていた。

 小石が浮かぶその道は、日当たりにより砂金が鈍くひかっているようにも見える。


「風が気持ちいい」


「ああ」


 輝は、リヒトを背後に乗せていた。リヒトは輝を支えにして立ち上がり、最後の一着に残して置いた白いドレスを纏っていた。純白のそれは夕日に透けて、金色と茜にまだらに染め上げられているようだった。


「アキラ……ルドルフ」


 リヒトは丸い瞼を伏せたまま、己の着ていたドレスの腰紐に手をかけた。コルセットのようになっているそれは、交差するようにホワイトのリボンが重なっており、しゅるりしゅるりとリヒトがほどいていくたびに、緩んでいく。ついに最後のひとつが解けると、彼の肩に羽織るようにかけられていたパッドがとれ、肩甲骨が剥き出しになった。

 そしてリヒトがひとつ笑みをこぼすと、空へ飛び立つかもめのように、はらりと腕からドレスを脱ぎ去った。

 花弁を散らしたような模様をした、白く華やかなドレスは、段を置いてリヒトの腕から剥がれると、薄紅と紫に染まった空へ舞い上がっていく。


「あはははは!」


「おい、あんまはしゃぐなって」


 なぜか一瞬だけ、風が止んだ。

 輝の目の前に、先ほどリヒトが脱ぎ捨てたドレスが舞い踊るように落ちてくる。

 輝はそれを掴もうかと刹那、逡巡したが、やがて何かを悟って無意識にサドルから離して伸ばした手を引っ込めた。

 ふたたび風が起こり、ドレスは夕日色に染まりながら彼らの元を離れ、空や森へ還ってゆこうとする。


「さようなら、ありがとう」


 リヒトがひとみを開き、声を絞るように言った。

 ドレスを脱いだリヒトは、下に着ていたシャツど紺色のGパンだけになっていた。

 輝は晴れやかにも切なげにも見える背後のリヒトの表情を下から見上げながら、彼も朗らかな笑みをくちもとに浮かべ再び前を向いて自転車を漕ぐ速度を上げた。

 上向いたリヒトの顎を、何かがそっと撫であげる感触があった。その感触には覚えがある。遠い昔、ルドルフとふたりで横になって寝ていた時に、ルドルフがリヒトの顎の下を甘えるように撫でていたちいさなゆびさきの感触だった。


「……ルドルフ」


 見開いたリヒトのまつげが、駆ける風によってかすかに揺れる。そしてくちびるをひき結ぶと、まなじりから涙がひとすじ流れた。それが夕日に照り映え、金色に滲み、真珠色の肌に消えていった。

                                                                               (終わり)

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