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ルドルフのドレス  作者: 木谷日向子
第三章 ドレスにさよならを

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第九話 並行な白

 それからふたりは他愛ない会話を重ねた。

 会話を重ねるごとに、言葉があたたかみを増し、部屋の温度までが上がっていくようだった。真白い雪のようだったリヒトの頬の色も、あからんで桜色に染まっている。気のせいか表情もあかるくなってきており、時折輝のくだらない冗談にもけらけらと笑いを見せるようになってきた。

 輝はリヒトに毛布を被せる。リヒトは笑ったまま、やわいホワイトブロンドの髪を跳ねさせ、輝に飛びかかった。そのままふたりは子供のように戯れあう。そばのロイヤルブルーの背の低い丸テーブルに置いたマグカップは、彼らが揺れる振動でかたかたと鳴る。


「あはははは!!」


「はっはっはっは……」


 輝が下、リヒトが上になり、子供のように折り重なった彼らは、満面の笑顔の花を咲かせていた。


「おりゃっ」


「いてっ、何すんだてめっ」


 リヒトの白い手に引っ張られた輝の黒曜石色の髪のすじが、背後の窓から覗く雪景色に触れていっそう黒さを際立たせていた。

 リヒトはその黒につられて、窓の外を見やった。


「ねぇ、輝……。夜も深まってきたね」


「は? あ、あぁ……」


 急にみじかい髪を引っ張る力が緩んだので、

 輝は頬を叩かれたように目をぱちくりとさせた。

 そして雪が降り重なる温度のように、リヒトの吐息が輝の耳元に重なる。


「今日、君のベッドで寝てもいい?」


 ぞくり、と自分の耳が揺れるのがわかった。肌感覚が無くなって、声に皮膚が引き込まれるような。


(こいつ……)


 手慣れてやがる。輝はそう思った。

 視線だけをリヒトの方へ向けると、青に青を重ねたような、どこまでも深い海色のひとみが彼を捉えた。人工の真白いあかりが灯る中で、彼の視線だけが、自然をあらわしている。

 そして輝をあやうい気配を放つ深淵へと引き込もうとしていた。

 だが輝だけは、今までリヒトに絡め取られた者たちとは違う。彼だけには、彼のその攻撃は通用しなかった。彼はそれをただ友情のひとつとして捉え、リヒトの細い手首を両手で引くと、形勢逆転。彼の上へ覆う形となった。


「うわっ! ちょっと!」


「へへーん」


 輝はしてやったりというにやけ顔で、白い前歯を見せて笑った。

 リヒトはそんな輝の顔を見て、先ほどよりも頬の薄紅を濃くする。彼の中で、今までになかった「負けた」という感情が湧いていた。

 

 その晩、リヒトは輝のベッドを借りて眠った。雪はいよいよ深まり、外の景色の黒い部分がすべて白で塗り替えられてしまっている。

 リヒトは輝の枕を半分借りて、雪にも負けぬほどの白さを保つ彼の掛け布団から、ひとしくしろく細いゆびさきを少し出し、ゆるく曲げて出していた。


「見て。世界はまっしろだ」


「あん? お前まだ寝てなかったのかよ……」


 輝は閉じていたまぶたをリヒトの方に近いものを片方だけ開けた。窓からさす雪のひかりが、うっとおしいというように、眉を寄せて。青白くなった窓からのひかりが、輝の夏色の頬を撫でて輪郭を冬の色に染め上げていた。

 部屋のあかりはすでに消してある。先ほどまで人口のホワイトがあたりを覆っていたが、

 濃く深い青が、雪の流れに沿って、ゆらゆらと加減を変えて、天井や壁、家具の間を揺蕩っているようだった。


「こうして君と並んで眠っていると、ルドルフとふたりで毎夜眠っていた幼い日々を思い出す」


 リヒトは落ち着いた声で話した。彼の白い鼻筋や頬の上に、海月くらげのような水色のひかりが、輪を描いて揺れている。


「すごく落ち着く」


「ははっ、そりゃよかった」


 リヒトはまぶたを閉じてかすかに微笑んだ。

 輝は胸を揺らして天を仰いで笑った。鍛えた彼の胸筋が、ゆらゆらと揺れている。


「このまま眠ってしまいそうだ」


「寝ちまえよ」


「ああ……」


 そうつぶやくとリヒトは深く夜の空気を吸い込み、穏やかな寝息を立て始めた。まるいまぶたを閉じ、くすくすといった笑い声を漏らすと、己の体を軽く抱きしめ、輝の方へそっと寄り添った。無意識の行動だった。

 輝はさも驚きもせず、リヒトのホワイトブロンドが跳ねて彼の夜色に染まった頬にあたるやわらかな感触で、共に眠りに誘われた。

 外の冷気はいよいよ深まっていたが、今この部屋の、布団の中だけは春のようにあたたかだった。

 それは、ルドルフを失ってから最もリヒトが深く眠りの森へ潜れた夜であった。気づけば外の星や雪の色も、リヒトの髪とひとしく白金色に染まっている。そしてそれらは彼らの夢の中へ、降る彗星とひかりの束となって暗く沈んだ地上に並行な白を作るのであった。

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