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Blue Lover  作者: 花園
10/16

神奈からも解放され、頬の事を言われては薬布を渡された。次には愛羅を探してくるようにと促される。あなたは彼女の従者であるのだ、当然じゃないかと。

そう言われセラは迷うことなく行動を移す。移したのだ、が。昨夜の失態を思い出してか、頭の中で考えをぐるぐると考えているうちに現在話題沸騰中の《女神》・ヴィオラがいる森へと迷い込んでいた。もしかしたら考えずとも自分の主もそこにいると考えていたが、浅はかな考えでもあった。そこには自縛霊であるヴィオラしかいなかった。

「あら、セラ?」

主と似たような顔立ちに雰囲気。幽霊特有の透けている感はなく、どこからどうみても普通の人間にしか見えない少女は口を開く。

「さっきまで話し込んでたんだけどねー?貴方との話題切り出したら急に口を開かなくなってねー?……なにかしたの?」

「……」

誘うように口をへの字にまげた彼女はセラの出方をみようと顔を覗き込む。そんな彼女にセラはこめかみを押さえて渋い顔をした。

それからヴィオラの溜め息がこぼれる。

「主従揃って口を開かないとはお堅いわねー。そんなになにかやらかしたの?」

そんなに?いや自分にとってはそれ程までではないが、愛羅からしたら大問題なんだろう。キスの種類にも色々あるが、自分は何もかもすっ飛ばして主である愛羅に愛情表現である唇にキスした。

「……はぁ」

「セラも大変ねー。まぁ私たちよりは難しく……あ、『主従』という壁に悩まされているのかな?」

見せつけるかのように自分の頬を人差し指でちょんちょん、と軽く叩いてはセラの頬について問う。

「ヴィオラは人の心を読む業でももっているのか」

「やーん業とかそんな大したこと…え、嘘。やだ、本当に?」

そう聞く彼女はどこか面白そうに、噴出しそうになる声を我慢して口を押さえる。神奈でも分かり易いといわれるのだ。士郎を含めた身内では多分バレバレなんだろう。しかし当の主には気づかれていないという。不幸中の幸いと言いたい。というか逆に気づかれていないのが凄いとしか言えない。

愛羅は幼い頃に両親を失い心がどこか欠けている状態で、時が待ってくれないまま『領主』というまだ先の未知に頭が、体が、一杯いっぱいだったのだ。物心ついた後はある程度の習い事や最低限度の礼儀作法を習うなどしていたが、世の娘のように身なりや趣味に、ましてや色恋沙汰などに関してのことは全くの無縁。それだからなのか、あんなにも戸惑う主は可愛いと思う他なかった。

「繊細可憐な愛羅ちゃん……言ってくれればお姉さんが色々アドバイスしたのに。いや、したかったな~…」

「…似たような顔で言われると複雑だ」

「失礼しちゃう!!そうねぇ~。従者なんだし過去とか隠し事とか一切しないで打ち明けるとかどうなの?ほら、私もバレリの本来の姿見るまで獣だって気づかなかったし」

「過去……」

自分の過去。そこまで汚れてはいないが決して綺麗と言えるほどまでじゃない。

「しびとに聞かせても無駄か…」

「まー!セラさっきから失礼ね!!」

ぷりぷりと怒るヴィオラだが、セラから見ればそこまで恐ろしくない。むしろ自分の主に重ね合わせてしまい愛らしく見えるくらいだ。

「……」

重症だ。セラは確信した。

*

「アイ……愛羅」

「なに?バレリ」

ヴィオラの待つ女神像まで歩いていると、愛羅の後ろからついて来る神獣バレリは何か言いたそうに、しかし躊躇いがちに片手で口を塞ぐ。

「なに?言ってくれなきゃ分からないよ」

そんな駄々をこねる子供をあやす母親のように言っては、愛羅はバレリを見上げる。

「愛羅がヴィオラ《女神》じゃないのは分かった…。分かった、けどどうしても信じられない。君は…」

「私は黄の守り神じゃないよ。蒼の国が領主、愛羅・ハートフィール。ヴィオラさんと同じようにただの人でしかないよ」

「あ、神様の声は聞こえないよ!?」とも付け加える。

そんな愛羅に戸惑いながらも微笑むバレリ。そんなふとした笑顔に少し戸惑う愛羅。そして同時に早く2人を再会させてあげたいという気持ちも生まれる。ただそれだけの感情しか今の愛羅は持ち合わせていなかった。

だがそんな思いも一瞬で消える。何か察知してかバレリは愛羅の前に進み出る。

「……とまって、アリ…愛羅」

「え?どうし――」

まだどこか彼女の愛称で呼ぶバレリに愛羅は尋ねようとする。しかし遅れて彼の目線を辿ってみると目の前には見慣れた人物がいた。

「セラ…」

目の前にはいつもような無表情の顔に、どこか驚きと少しの怒りが見えたような表情をした従者がいた。そんなバレリの姿をみても引こうとしないセラ。逆にどこか迫ってくる勢いも見えて愛羅は口を開く。

「誰だお前。人間ごときが僕の目の前で平伏さないなんてなんて愚かな」

「そういうお前こそ誰だ。なぜ俺の主人を連れている」

その前に2人のトゲトゲとした会話が始まってしまい愛羅は慌てる。バレリに関しては先程一緒に会話をしていたとも思えないような口ぶりだ。それほどまで人を軽蔑視しているのだろうか。

「セラ!この人なの!ヴィオラさんの探してた恋人、バレリが!!」

「!?…おい話で聞いた時は獣だと聞いたぞ。なぜ人の姿なんだ」

「大人の時期を迎えると自然と人型にもなるって…。従兄さん、セラには資料本渡してないの?」

「…士郎、あいつ」

今いない従兄に怒りをぶつけるセラ。どうやら愛羅が見た本はセラにはまだ手がいってなかったようだ。

そしてセラはヴィオラが言っていた『本来の姿』、というのを思い出してか溜息を吐く。どこか聞き逃していたからだ。

「本当の姿は獣であって、今の人型のかたちも本当の姿、てことか」

そう真正面から品定めするかのようにバレリを頭から脚のつま先まで見るとセラは渋々ながら言う。

「来い。お前の待人に会わせてやる」

そう言うときびすを返すセラだった。

*

「バ…バレリ…?」

「うん、そうだよ。僕の-女神-(アイリ)」

そう深くないであろう森の中。黄の守り神である彼女の石像前ではある2人がある再会を果たした。1人の美女は夢か幻かと思うほどに目を見開く。念願の再会が叶った2人は手を絡ませながらぐるぐると回り、次には男が女の手を引き、大事そうに抱きかかえながら倒れこむ。

「本当に…、本当にバレリなのね…!!あぁ…、バレリ。私の愛する者…!」

ヴィオラは今にも泣き崩れてしまいそうなほどに、瞳にたっぷりと涙を浮かべる。そんな彼女の涙をぬぐっては微笑むバレリ。

「アイリ…よかった。やっと君に会えた…。この時までいったいどれ位の月日が流れたか…」

ヴィオラの上体を起こしながらバレリも体を起こす。しばし見つめ合った2人は照れくさいように微笑み合い口づけをする。

そしてそれを見つめていた1人の少女は照れくさいというかのように顔を背け両手で顔を隠す。もう1人の青年は2人の嬉しそうな表情をみて呆れそうな顔をする。

次にそんな主従2人を忘れ気味だった女神が気づいては「あっ」と声をあげる。

「愛羅ちゃん!本っ当にありがとう!!セラも!まさか2人がこんなにも早く成し遂げてくれるなんて思いもしなかったから…。お姉さん嬉しいー!!」

「ひゃぁあ!?」

愛羅に近づいてくるなり抱きついてきたヴィオラは笑顔で、それを予知していなかった愛羅は咄嗟のことで尻餅をつく。そんな女性陣をみる男2人の瞳はどこか複雑という表情をかもし出していた。

「はぁ~…やっぱり似てるよねぇ?バレリ。本当そっくり」

「愛羅はアイリの生まれ変わり…?」

「え、えーと…」

「瞳…いや髪…の毛は流石に違うか。やっぱり雰囲気?」

2人の熱い再会は終わり、気づけば愛羅に標的がいったように彼女を熱心に見つめては会話しだす。そして愛羅の髪を結んでいたリボンは解かれ、代わりにヴィオラは自身のベールをかぶせると、更に熱が増したかのように話が盛り上がる。

「セラ…2人のこの会話を止めたいんだけど…どうすれば」

ちらりと従者に助け舟をだす愛羅だがセラはふむ、と少し考え、しばらくして返答が返ってくる。

「…もう少しの辛抱だ」

「セラ!!」

そのやりとりを見ていたヴィオラは「ふふ」と笑い出す。

「こーんなにもベッピンさんだものねー。そりゃ見惚れるのも分かりますよ、ええ。あ、愛羅ちゃんにはこのベール差し上げます!」

「ヴィオラさん!?」

「あ、でも流石に未成年に手を出す愚かな紳士ではあるまい?」

「そこの獣と一緒にするな」

危ない発言をするヴィオラに即答するセラ。そして何故か頬を膨らませてそっぽを向くバレリ。セラと話しているヴィオラにヤキモチを妬いているのだろうか。そんな3人に愛羅は無理やり話の展開を変える。

「そ、それで!聞きたい事があるんですけど…どうしてこの森のなかに2人はいたのに、何千年も会えないままでいたんですか?」

それを聞いたバレリは切なそうな表情をだした。

「探した…。探したさ、自分が霊になったなんて信じてないまま…。けどここの…アイリがいたこの空間…。他の場所は行き来できるのに…ここだけ、知らなかった空間みたいだった。なにか、膜が張ってあるみたいに…ずっとアイリの存在を、認識できないでいた」

新たな発見に息をのむ愛羅。しかし次にバレリに見つめられたかと思えば、彼はこういう。

「その時だった。アイリに似た君と出会ったのは」

「私…?」

「初めて出会ったときと一緒だった。倒れていた僕を見つけてくれた。雰囲気も…どこか似てて。いつの間にかアイリに重ねていた」

そういうバレリは申し訳なさそうにこうべを垂れる。

「でもこれでやっと、アイリと共に逝ける。ありがとう、愛羅」

「そんな…!私まだ、」

言いかけた途端で愛羅の唇はヴィオラの人差し指に止められる。

「終わりよければすべてよし。2人に急に頼み込んで急に消えるのはしゃくだけど…。でも悔いはないわ…勝手で、ごめんなさいね」

それから「あ、あと」とヴィオラは付け加える。

「士郎にも、宜しくいっておいてね。『勝手に消えた私を許して』って。それから…キャンディ、ありがとう」

「キャンディ、ですか?」

「うん。何といったって当時士郎と知り合った際に貰ったのがキャンディだから。私が生きていた時代での砂糖は高価だったのよー?そんな材料をふんだんに使われたモノをあっさりとまぁくれちゃって。驚いちゃったわ」

どこか呆れ気味に笑うヴィオラ。当時の士郎。つまり17年経った、と言っていた士郎の言葉から愛羅が生まれたか生まれていないとき。そんな時幼少時の士郎はこの女神と会っていたのだ。それも飴の1つで仲良くなったという。そんな愛羅の疑問はよそに、目の前の女神はお願いね、と両手を合わせ顔を傾けて笑顔で頼みこむ。

そしてしばし話し込んだ後、彼女たちは光の粒となってその場から消えていった。

*

ヴィオラから授かったベールが空に消えてしまわないかと思い、愛羅は無意識のうちに放すまいと両手で掴む。結局、愛羅とヴィオラの双子であり姉妹のようなそっくりな面立ちと、バレリが言っていた結界というようなものに関しては今だ謎のまま幕を閉じた。

そして次にひと風ふくと、愛羅の亜麻色の髪はベールと共にふわりとなびく。

まるで先程までいた彼女がいたずらの様におこしたみたい、と感じるほどに。

「……」

「愛羅」

空を背景に女神像をしばらく眺めていると、次には低く透きとおった声が愛羅の耳に届く。

振り返れば自分の従者がそこにはいる。

「セラ…」

「……」

「?どうしたのセラ」

「もう、大丈夫なのか?」

「『もう』…?」

従者が尋ねた意味に首を傾げて少しばかり考え込む。たった今までいた彼女らのことだろう。

しかし問題解決したその恋人2人は消え、今この場には愛羅とセラの2人しかいない。今までの私情を一旦捨て、ヴィオラ達のことで頭がいっぱいだった愛羅はそれが解放された途端、言葉が痞える。

そして今までどこか視線を合わせてくれなかった従者の顔を見つめては、頬に貼ってあった薬布をみて、別のことを思いだしたかのように顔を赤くして固まる。

「せ、セラ!えと、その……怒ってる、よね?」

「怒るも何も…悪いのは俺だ。愛羅が気にかける事でもない」

「~でも、叩いたのは事実だし…えーと、」

「愛羅」

「はい!」

従者に対しての対応じゃない主にセラは少し焦る。


「愛羅」

「?」

「――好きだ」

「え…?」

従者からの突拍子もない告白に愛羅は言葉を詰まらせる。嘘と聞き間違えてしまいたかったが、従兄のように冗談をいう人物ではないのでより本物めいて聞こえる。

「…えと、家族とか『Like』的な意味で…?」

「恋人の『Love』的な意味で。…本当はお前に伝えずにいるつもりだったが、今回の件でタガが外れた」

即答で答える従者にまたもやどう返答していいか分からず、顔を赤くしながら口をぽかん、とさせることしかできなかった。そして愛羅は女神ヴィオラから言われた『従者』とは別の感情も向けている、という意味に気づく。

「私で…いいの?」

口にしたのは疑問だった。

「まだ、領主になりたてと言ってもいいほど仕事はやり慣れてないし、我がままばかり言って皆に迷惑かけるし…それから、えーと」

「それでも。そんな愛羅だから好きなんだ」

自分の短所ばかりあげていく愛羅に、それがなんだ、と関係ない様に薙ぎ払って返答するセラ。

そして思わず顔をあげてセラに視線を戻した愛羅は失敗した。セラの真剣な表情に何も言えなくなってしまうのだから。さっきまで自由に動いていた手足は金縛りにあったかのように動かせず、目が離せない。

「私よりも綺麗な女性は沢山いるのに?」

「ああ」

「一国の領主が仕事も満足にできず恋とか、ふざけてるんじゃないか!!って、思われたら…?」

「言わせておけ」

「まだ…恋愛とか、そういう事に不慣れだよ?」

「ああ。それでも愛羅がいい。心配せずとも俺が教える」

なんだか凄い発言を聞いてしまったようだが、それはひとまず置いといて。

ふと一拍おいてからセラが問う。

「愛羅は?」

「え?」

「俺だけの気持ちだけじゃなく、お前からの気持ちも聞きたい」

「私…。私はセラがいてくれれば…それだけで十分だよ?一緒にいて、笑ったり泣いたり怒ったり…、時に私が道を踏み外しそうになったらセラに止めてほしいし…これからも傍にいてほしい。…セラ」

「?」

「…不束者ですが、宜しくお願いします。セラ」

笑顔でそう答える愛羅にセラは何かが溢れそうになって、緩みそうになった顔を引きしめる。

「愛羅」

「ん?」

「目、閉じてくれないか?」

どれくらい、と聞くだけ無粋だろうか。言われたとおり素直に瞼をおろして少ししたとき。彼の指がそっと顎の下に触れる。

愛羅の唇にセラの口づけが舞い降りる。

いつからだろう。セラに対しての気持ちが恋心と分かった途端、愛羅は今の今までの記憶を洗いざらい思い出すハメになった。

「あちゃー遂に、かヴィオラ。神獣も、この瞳に焼き付けておきたかったなー…」

(こう)の城に戻り、報告した後、黄の領主・士郎は頬杖をついて少し残念そうに、しかしどこか満足そうな笑みが含まれていた。

「でも良かったじゃないの。2人は無事に成仏。士郎の肩の荷も少しは降りたんじゃない?」

そういう神奈は表情変えずに愛羅とセラの2人を見つめる。

「…2人の問題も解決したようでなによりなことじゃない」

「え、なに?なにそれ神奈ちゃん。僕初耳だよ?」

神奈の言っていることに理解不能な士郎。少し赤面する愛羅と、視線をそらすセラを見て思い当たる点が出たのか、士郎は顎に手を添えてセラをまじまじと見る。

「あー…。ははん、へ~そう…」

「おい、気持ち悪い詮索はやめろ」

「全くセラは面白みがないなー。僕が知ってる従者はもっと主に忠実であるイメージなのに。隠し事しないでずばずば言えばいいのに。ねぇ愛羅?」

「…?セラは従者として真っ当な事をしてますよ?」

話をふられた愛羅はきっぱりと答え、それを聞いたセラと士郎は固まり、神奈は面白そうに唇を笑みの形にしながらも笑いを堪えるかのように口に手を添える。

「ちょっと…泣いていい?僕いろんな意味でメンタル弱くなりそう…。ポジティブが取り得なのに」

「え?…えぇ!?なんですか従兄さん!!」

「お嬢、従者バカも大概にしないと色々と痛い目みますよ」

訳が分からないという愛羅に士郎は誤魔化しながらも返答しなかった。

「でもまぁ、良かったよ。愛羅にまかせて正解だったね」

しかし笑顔で話を紛らわされた愛羅はどこかふくれっ面だった。

「……」

「こらそこ、悶えてないでお嬢を止めなさい」

空には雲ひとつない、抜けるような青さに澄み切っていた。そのなかにはどこか小さな温かみを帯びた風が吹いていた。


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