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16.School Day ~泥遊び無双~

 いらっしゃいませ! ではいつもの席へどうぞ! 今回は第十六話! いよいよ生徒会選挙開幕でございます!

 では、スタート!!

 早朝4時、珍しく場所はヒョットコ院家の豪邸の一室、侠華の部屋。彼女の部屋は和室作りになり、一面が畳になり、箪笥や机、座布団に至るまで全てが一級品だった。そんな部屋の押入れがガラリと開き、中からこの部屋の主、侠華が寝巻姿でのそりと現れる。髪は下ろされ、胸がちらりと肌蹴る。「うぅ……お茶ぁ」と、裸足でペタペタと歩き、高大な居間に足を踏み入れる。

そこには自称執事のテツヤが角度90度の礼で迎え、テーブルに朝食を用意する。「本日の朝食は玄米、納豆、ホウレンソウのお浸し、アジのひらき、味噌汁でございます」

「味噌汁の内容は?」

「赤味噌使用で、ナメコです」

「んふふ、素晴らしい」と、箸を持ち、手を合わせて「いただきます」とはっきりとした声を出す。見た目とは裏腹に丁寧な動作で飯を口に運び、上品に食べる。隣ではテツヤが茶を入れていた。最後の一滴まで湯呑に注ぎ、湯気を立てながら彼女の前に静かに置く。

「本日はどうされます?」テツヤが朝刊を脇に抱えながら口を開く。

「洗面所、稽古場、シャワー、学校」と言いながら味噌汁を啜る。「……母さんが作ったのか?」

「いいえ、私が」すると、侠華が彼の背中を思い切り叩いた。「おう! 何を!」

「やるじゃん! さすが兄貴」食べ終え、飲み頃の温度になった茶をゆっくりと飲む。

「執事、です」

 その後、洗面所で顔を洗い、時間をかけて自慢のポニーテールに髪を整え、侠華は稽古場である道場へ運動着で向かい、軽い準備運動(片腕立て、腹筋、背筋、スクワット、片腕懸垂、200回×3セット)とラジオ体操第2を行い、テツヤを相手にスパーリングを行った。

【ヒョットコ院侠華VSヒョットコ院テツヤ】

「侠華さん、生徒会長選挙はいつです?」

「中間テスト後だから……2週間後かな?」

「自信の方は?」

「さぁな。あまり全校生徒からは好かれてないからなぁ」一見、学園に伝説を残すスポーツ・ウーマンの様に思われがちだが、実際は『目立ちたがり屋』『でしゃばり』『お嬢様』『てか、ポニーテール邪魔』など陰口を叩かれ、多くの生徒から疎まれていた。

「自然体が一番。別に生徒会長になれなくても……」途中までテツヤが口にすると、侠華の拳が鼻先をかすめ、襟を掴まれ柔道に持ち込まれる。「ぬ!」

「そういえば兄貴、なんで副社長の座を蹴ったよ。父さんは兄貴を後継者にする為に養子にしたんだろ?」一本決めようと隙を伺うが、そうはさせず、とテツヤ。

「……卑しい身分の私にそんな資格はありません。それに私には侠華さんのお世話や守る義務が!」

「そんなのいらねぇよ!!」と、一本背負いを決めるが、寸でのところで着地される。「くっ!」

「後継者に相応しいのは貴女……故、それを見守るのが私の使命です!!」と、体落としを決めるが、返される。「やりますな」

「へん! 敷かれたレールを走るつもりは毛頭ないし、父さんも縛る気はないってさ!!」

「ですが!」

「世襲なんて古臭い事を言ってんのは兄貴だけなんだよ! アホな事を夢見てないで大人しく父さんの後継者になれぃ!!」ついに隙を見つけ、技に掛かる侠華。

「甘い!!」再び技を返し、侠華を羽交い絞めにして彼女の眼前に拳を置くテツヤ。「勝負あり……です」

「な?」侠華は悔しがる素振りも見せず、にっと笑う。「アタシより強くて頭の回転も速いんだ。兄貴が社長になっても誰も文句は言わないさ」

「……本気ではなかったでしょうに」まるで負けたかの様な表情になるテツヤ。

 その後、侠華はシャワーを浴び、再び髪を整え、櫛でとかし、制服に腕を通す。一度ピシッと着たが、その後から整えるかの様に1か所1か所を緩ませたりボタンを外したりし、スカートの下にダブついたジャージを履く。「準備よし!」と。大理石作りの玄関で靴を履き、テツヤから水筒を受け取る。「今日のお茶は?」

「ダージリンでございます」

「おぅ、じゃあ行ってくる。付いてくるなよ?」と、扉を勢いよく開け、ドタドタと駆け足で学園へ向かった。

「……自家用機がありますのに……」と、呟きながらも警備室へ向かい防犯装置の操作パネルをすべてオンライン(監視カメラ、対人センサー&レーザー兵器、自動通報装置、吊り天井、ビームバリア、etc…)にし、テツヤもこっそりと学園へ向かった。

 

 

 昼休み、雨田達は体育館裏で一塊になって昼飯に齧りついていた。「で、もうすぐ生徒会選挙だがな」密山がお馴染みの戦略ノートを出す。「まず、生徒たちの心、つまりは信頼を勝ち得るのが1つ。その為のはまず……」と、続けようとすると侠華が彼のノートをヒョイと取り上げた。

「ふんふん、ほー」ワザとらしく頷きながらページを捲る。そして、ノートを閉じ、ビリビリに破き、地面に叩き付ける。「くっだらね」と、水筒を豪快に呷る。

「あぁ! 俺の20分の労働がぁ!!」

「たった20分で……」犲河が無残に破られたノートの切れ端を拾い上げる。

「こんな策略染みた事、アタシゃごめんだね。アタシの好きにやらせて貰うぜ」と、腰を上げ、尻に付いた砂を払う。「さてさて……おいツバキ、放課後空いてるか?」

「う? あたしですか? 空いてますが、喧嘩の相手は……」と、彼女とヤり合った時の事を思い出し、顔を青くする。

「ははは、お前にアタシの相手が務まるかって! ちょっとな、面白いもんを見せてやろうとな」そう言いながら彼女は自分の教室へ帰って行った。

「面白いもんだってさ……タツノリは興味あるぅ?」

「……そういやぁ、あの人のことあまり知らないな……ちと興味ありだ」と、顎に手を置く。すると、3人の目線が彼に集まる。「なんだよ」

「まぁ覚えてないわな」紅雀がふふっと笑いながら口にする。あの時、雨田は意識を殆ど飛ばした状態で侠華に襲い掛かっていた。その時の事を思い出し、「あん時はヒーローにもみえたんだが……」残念そうに首を振り、くすくすと笑う。

「まぁ運がよかったんだ、あの時は」密山は腕を組みながら頷いた。「さて、昼休みも終わりだ。戻ろうぜ」と、背を向ける。そんな彼の背を紅雀がさりげなく睨んでいた。



 放課後になると、紅雀は雨田達とは行動を共にせず、密山の耳を引っ掴んで屋上へ連れ出した。「いだだだだだだだだだ!! なんですかぃ!」

「この前の話だ。ハッキリさせて貰おうか?」と、厳しい目を向ける紅雀。

「この前ぇ? ……え? なに? 一緒にラーメン食べた日?」

「違う……お前が、誰の命令で動いているかって話だ」彼女がアヤカの手で大怪我をした日の話だった。あれから彼女は独自に密山の近辺情報をあさり、彼の尻尾を掴もうと静かに動いていた。恩人であり、友人である彼にはあまりやりたくない行為ではあったが、今後の関係を崩さず、壊されずに置くための彼女なりの措置であった。

「あぁ……あれね。別にぃ~大した……」

【白熱火球拳!】と、彼の頬に掠らせる。「いつものおふざけはナシだ。この学園の資料室を漁り、お前の個人情報をスミから隅まで目を通したぞ」このセリフに密山の目の色がギラリと変わる。「中学時代はとても真面目に学業に専念し、成績はトップ、風紀委員長も務めたそうじゃないか……反面、固すぎる性格から友人は少なく……」そこまで言うと密山が拳を彼女の鼻先に掠らせる。

「それ以上、言わない方がいい……」彼女らには見せた事のない表情を作る密山。目の下を黒くさせ、下から彼女を睨みつける様な、寂しい顔だった。

「友なら話してくれるよな?」

「誰がお前らの事、友達だって言ったよ……」

【密山瞭VS紅雀玄】



 その頃、雨田と犲河は侠華に連れられ、野球部がよく使うグラウンドに来ていた。昨日大雨が降ったため、一面が泥でぬかるみ、本日野球部は校外の練習場を使っていた。「ここで何を?」犲河が訊ねる。

「ぶっちゃけ、アタシも知らん。だが、予想はつくんだよね♪」と、指の骨を鳴らし、これから始まるお楽しみを今か今かと待ち望むような表情になる。

 すると、遠くから2名の学生が姿を現す。その者の一方は、侠華と同じく生徒会長候補の田畑充子だった。「ヒョットコ院侠華ぁ!!!」気合の入った声を上げ、指を突きつける。

「おぅ! 用ってなんだぁ!!」

「あんたには生徒会長候補を降りてもらうよ!! あんたはどう考えても相応しくない!!」このセリフに頷きそうになる雨田。それを引っ叩く犲河。

「アタシもそう思う。で? どうやって降ろす気だぁ? アタシぁ自分から降りる気はないぞぉ!! 負け犬にはなるつもりはねぇなぁ!!」腕を組み、腹から声を出す。

「そういうと思ったよ。なら、勝負だぁ!!」

「そういうと思ったよ。で、隣の男は誰だぁ?」田畑の隣で腕を組む男子学生を指さす。彼は生徒会の者ではなかった。

「彼は私のダーリン♪ 筆丘現太郎ヒツオカ・ゲンタロウよ! 私のパートナーよ。加勢してくれるって。ね♪」と、目くばせすると筆丘も答える。「あなたの流儀だと、乱入、武器使用上等なのよね? だから両方使わせて貰うわよ!」

 このセリフに犲河と隠れていたテツヤが抗議しようとした瞬間、侠華が足を踏み鳴らし、2人を黙らせた。「おぅ! 上等だよ。ツバキ達、手ぇだすなよ。いいな?」

【ヒョットコ院侠華VS田畑充子&筆丘現太郎】

「いくよ!!」と、田畑がグラウンドに手を置く。すると、その彼女の頭に筆丘が手を置く。「愛の!」

【合体技・泥田坊・芸術造り!!】と、グラウンドの泥が蠢き、一般成人男性並みの泥人形が出来上がる。それがまるでギリシャの石膏像のような筋骨隆々な姿になり、生きているように動く。「さらに!」と、両腕を付ける。【合体技・人海戦術・泥田坊無双】その隣から次々と泥人形が出来上がっていき、彼女らの周りを100体以上の泥人形が囲んだ。

「おうおう、壊し甲斐のありそうな人形だこと」侠華は犲河に向かって上着を投げ渡し、掌の唾をつける。「おら! いくぞぉぉ!!」と、疾風の如く駆け出した。



 屋上でも、激しい戦いが繰り広げられていた。

「なんでそんな寂しい事を口にするんだ!!」紅雀は吠えながら彼の拳を防ぎ、カウンターで切り返した。

「うるせぇ! 俺もギリギリん所で踏ん張ってるんだよ! いきなり首を突っ込んで滅茶苦茶にしてくれるな!!!」心から吠え、自慢の脚力で空へ逃げる。

「させるか!! 頼む(おう!)」彼女の髪の色が一瞬で紅色に変わり、一瞬で彼に追いつくほどのジャンプを見せる。「答えろ!!!」と、彼に掴みかかる。

「くそ! 離せよ! 9mm弾装填」

【BERETTA】鋭い左拳で彼女の太ももを撃ち抜き、拘束から逃れて着地する。

「くそ!」不時着し、膝を痛める紅雀。髪を深緑色に戻し防御態勢に移行しようとした瞬間、顔面に足の裏が置かれる。

「首を突っ込むんじゃねぇ!」冷たく言い放つ密山。

 悔しげな表情を見せ、奥歯を噛みしめる紅雀。「なぜだ……なぜそんな……ツバキ達にも同じ態度を取るのか!!!」

「あんたが余計な事を言わなければな」睨みを効かせる密山。

「……わかった。お前の過去の事には触れないし、ツバキ達には口外しないことを約束する……だがな!」と、負けじと鋭い目で彼を睨み返す。「もしツバキに……わたしらに危害を及ぼすマネをお前や……お前のボスがしてきたら……真っ先にお前らを殺すからな」腹から怒ったような声を引く下し、殺気を漂わせる。

 すると、密山はふふっと笑い口を開いた。「それができれば、俺も苦労はしないさ……」と、踵を返して屋上の出口へ姿を消した。

「あいつ……」紅雀はその場にしゃがみ込み、歯茎を剥きだして地面に拳を振るい、皹を入れた。「なんで、なんで私らを頼りにしない! 散々人の事を助けておいて! 

何故だ!」

 その頃、密山はポケットに手を突っ込み、猫背で廊下をトボトボと歩いていた。その背後にヒタリと何者かが現れる。「密山君」生徒会書記長の柳だった。

「……なんだよ」不機嫌な声で返事をする密山。

「一言も漏らしてないでしょうね?」

「あぁ……当たり前だ」

「もし、一言一滴たりとも周りに零したらどうなるかわかってるでしょうね?」柳の手刀が密山の首筋に置かれる。軽く笑い、いたぶる様な表情を覗かせる。

「あぁ、承知してる。その代り、俺が素直に協力している間や計画終了後に……あの3人に危害を加えたらどうなるか……」と、口にした瞬間に密山の体全体に凍てつくような痛みが走り、思わずしゃがみ込む。「くあ!!!」

【神経・凍結獄・マイナス20°】「あらぁ? あなたそんな事をいえる立場ぁ? それにそんな約束はしてないわよ」

「いいや交わしたさ。あいつに……」再び神経を凍り付かせるような激痛があらわれる。「ぎゃぁ! くそ……やめてくれ!!」

「あいつ? あのお方をあいつ呼ばわり? 何様? このクズ! 何様よ?」しゃがみ込む密山の頭を足蹴にし、踏みつける。「この場であなたを消してもいいのよ? ん?」

【五臓六腑・灼熱獄・1000°】すると、密山の体全身に痛みが走り抜け更に【脳解剖・凍結獄・マイナス50°】頭を剣山で引っ掻き回す様な痛みが襲い掛った。

「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁ!!! やめて! やめてください! 柳さん、やなぎさぁぁん!!!」頭を押さえ、涙ながらに叫ぶ密山。それを見てあざ笑う柳。「お願いします!! やめ、やめて下さい!! 助け、わかりました! もう、もう生意気言いません!!! なんでも命令をお願いします!!!!」すると、激痛が引いていき、悲鳴が止まる。肩で苦しそうに呼吸を繰り返す密山、それを楽しそうに眺める柳。

「私らに逆らうとどうなるかわかった? 下手な真似したら、今まで以上の激痛を与えて悶死させるわよ?」と、トドメに踵で彼の手を踏みにじる。

「はぁっ! はぁ!」冷たい汗をどっとかき、未だに残る痛みに歯を剥きだす。

「いい? 上手く働きなさい。そうすれば、あの雨田くらいは残してあげる。かもね?」と、いじわるさたっぷりに言いながら【座標計算瞬間移動】でその場から消え去った。

 彼女の笑い声と気配が消えると、密山は廊下の隅へ這いずっていき、その場で咽び泣いた。「ちくしょう!!! 俺はなんて……卑怯で弱いんだ! 畜生! くそぅ!!」



「け、自慢の泥人形は見かけ倒しだなぁ」侠華は泥水混じりの唾を吐き捨てる。グラウンド中を埋め尽くしていた泥人形たちは無残に破壊され、地面に溶けていた。

「バカねぇ……私のモットーは泥臭く! ってね」と、笑うと再び彼女らの周りを泥人形達が囲んだ。「今までのは準備運動よ。本番はこれからさ!」を合図に泥人形達が先ほどよりも滑らかな動きで侠華を取り囲み、次々と拳や蹴りを放った。「ふふ、農家の娘である私は泥の性質、機嫌、味を知り尽くしているの。さっきのはこのグラウンドの土の質を知るためのもの! さぁ、覚悟なさい!」

「って、やってるこたぁさっきと同じじゃねぇかぃ!!」と、先ほどと同じ要領で剛拳を振り、泥人形を一撃で破壊する……と、泥人形が一塊の泥に姿を変え、侠華に纏わりついた。「うぉ!!」

【泥絡め】

「ふふ、水分を多く含む泥はみかけよりずっと重いのよ。さぁ、タタミみかけちゃって!」との合図で一斉に泥が侠華に襲い掛かる。

「重い内に入るかよ!」と、負けじと回し蹴りで次々と泥人形を破壊していく侠華。だが、それら全てが彼女に引っ付き、次第に身動きが取れなくなる。「ちぃ!!」

「さてダーリン。やっちゃって」と、口にすると筆丘が駆け足で侠華の間合いに入り込み、泥の付いた部分を撫でまわす。

「お前は確か、美術部の部長か? ぶっ」顔面に泥が付き、ついに全身泥まみれになる。そして、そんな彼女の周りを筆丘がぐるぐると回りだし、次第になにかの像の形になっていく。

「題名は『ヒョットコ院家、その心』」と、手の泥を払い、一礼する。その作品は、ヒョットコの面を被った侠華が扇子片手に舞を披露している様な姿だった。見事なポニーテールまで再現され、それを見た一同は自然と拍手を送っていた(テツヤも含め)。

すると、像がガタガタと震え、中から侠華が蒸気を上げて出てくる。「がぁ暑苦しい!!」

「あぁ、折角の名作が!!」筆丘が口にすると、侠華の拳が飛ぶ。当たる寸前で泥の壁が現れ、彼を守った。

「あれくらいでくたばるわけないか……なら!」

【泥潜水】と、プールにでも飛び込むようにグラウンドへダイブし、そのまま沈んでいく。

「……まるで土竜だな」侠華が呟くと、筆丘が距離を取り、地面に手を置く。すると、地面から田畑がヌッと現れる。「そこかぁ!!」と、叩くと泥が弾け飛ぶ。「く、ダミーか!」

【合体技・泥土竜】次々と田畑の精工なダミーが地面から生えてくる。

「あぁうっとおしい!!」と、口を開くと「べっ」口の中に泥の玉が入る。「げほっ」

「あぁら、はしたない口だこと~♪」田畑の憎らしい声がグラウンド内から響く。

「くそ、出てこいよ! こら!」と、田畑のダミーを次々と踏みつける。「そうだ、あの筆丘を殴ればダミーは消えるハズ!」と、筆丘に向かって足を出す。が……。

「かかった!!」

【底なし泥池】田畑がぬっと姿を現し侠華を地面へと引き摺りこむ。「さぁ、一緒に私の世界へいらっしゃい。窒息するといいわ♪」と、侠華と共に姿を地面の中へ消す。グラウンドに断末魔の様な泡がコポコポと立ち、やがてそれが消える。

「え? う、ウソ? 嘘だよね?! どうしよダーリン! 負けちゃうよ!!」犲河がワルノリして雨田に抱き付こうと近寄る。

それを気味悪がる雨田は「誰がダーリンじゃい!!」と、彼女の顔を掴んで突っ張る。

 すると、まるで地震のような地鳴りが轟き、グラウンドから煮えたぎる様な音と湯気が立ち上る。次第に揺れが激しくなり、ぬかるんでいたグラウンドがカチカチの地面に変わる。そして……「ずおぉぉぉぉぉりゃぁぁぁぁ!!!!!」轟音と共にグラウンド全体が爆発したように弾け飛び、中から侠華が拳を振り上げて現れた。

「なんてヤツ!!」田畑は勢いよく飛ばされ、背後の金網に激突し、落下する。

 グラウンドの土塊が落ち切ると、侠華は華麗に着地し、指をコキコキと鳴らした。「さて泥姫。アタシの番、だねぇ」と、不気味に微笑む。

 そんな時、田畑の目の前に筆丘が仁王立ちする。「ハニーに手を掛ける前に僕を倒して、」と言う間に侠華はデコピンで彼の顎を打ち抜き、昏倒させる。

「お、鬼! 悪魔! だからあなたには生徒会長を務める資格なんて!!」

「それはこの学園の生徒が決めるんだ! お前じゃねぇよ!!」

【ヒョットコ院喧嘩術・脱穀叩き!!】と、田畑の足を引っ掴み、今や脆くなったグラウンドに叩き付けた。人を叩くような生易しい音ではなく、鈍器で堅い地面をぶっ叩いたような物騒な音が鳴り響き、グラウンドに田畑充子というハンが押された。

「うっし! これでいいだろ! 終わりだ! ってぇことでお前ら、ここにトンボかけとけや。じゃないと野球部に怒られちゃうからな!」と、水筒を拾い上げ豪快に飲み下し、自慢のポニーテールを擦る。「かぁ~、こりゃシャワーで落ちるかなぁ?」

「……ダーリ、タツノリ……ここトンボでならせって……」唖然としながら全体万遍なくホックり返されたグラウンドを眺める。

「あ~あ、ピッチャーマウンドまで真っ平になっちゃった……」この侠華に言い渡された作業は、夜の8時まで行われたという。



 夜の学園の裏にある廃材置き場。そこで密山はある武刀と会話していた。「ここなら、安心だ……な」密山は柳やもう1人の存在に気をかけながら口を動かした。

「ったく、こんな時間しか話せないか……まぁ、俺とお前は目を付けられているからな……」武刀は新しく出来上がった素振り用竹刀を軽く振り、納得するように頷く。

「……前に話しましたよね? あいつらの企みと計画。そして、俺の計画」いつにも増して目を鋭くさせる密山。「俺の計画が、嗅ぎつけられた恐れがあります……」

「そうか、まぁ正直、俺はよくわからないんだが……詳しく話してくれよ。お前の言うことはよくわからない、というか突飛すぎて信じることがイマイチ出来ない。言われた通り、侠華を推薦して立候補させたがよ」と、口を尖らせる。「第一、黒幕がよりによって何であいつなんだよぉ。意味わからん」

「そこは信じてもらうしか……それに、侠華さんは残念ながら捨て駒です」と、暗い顔をし、申し訳なさそうな表情をしてお辞儀する。「そして、俺の計画にはどうしても雨田が必要なんです……そのために……犲河さんに犠牲になってもらうしか……」

「1人で色々と語ってくれるがよぉ、なんかお前も柳たちと変わらないなぁ」

「俺は奴らとは! それに、奴らの計画を阻止しなければ学園、いえこの町は終わりなんです!!」密山は膝と手を付いた。

「……意味わかんねぇな。イマイチ信用が……てかお前の話を聞く度に頭痛がするんだが」武刀は頭を片手で押さえ、頭の奥から響く心音に耐えるように表情を歪めた。

「その頭痛が何よりもの証拠! それにこれは尋江先輩からの頼みでもあるんです!!」

「なんだって?!」


 ってなわけで、如何でしたか? 次回は生徒会過去編その二です!

 解説タイム!

 サブタイは……昔買った『ザ・シンプソンズ』のCDに入っていた一曲です。もとの曲は聴いたことないんですが、なかなかいい感じのロックなんで、探してみては? な、感じでございますよ。

 ちとキャラ解説。今回久々に出てきた柳零さん。彼女は黒幕のひとりなんですが……なんか技が無理やりな気がしません? 私もします、はい。

 因みに生徒会の殆どの人々は、最初はまるで『某通信教育のミニ漫画に出てきそうな悪役』みたいな連中でした。それを何とか試行錯誤し、結果、あんな感じになってしまいました……なんか、はい……。

 次回も読みに来てくださいね! ではまた!!

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