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二十四話「一撃の差」

 赤黒い星素と、青白い星素が激突した。


 轟音。


 衝撃が医療区画前の通路を駆け抜け、壁面の窓が一斉に砕け散る。


「ぐっ……!」


 涼介の身体が後方へ押し戻された。


 両足を床へ食い込ませる。


 靴底が削れ、二本の跡が床へ刻まれていく。


 剛脈によって全身の星素を右腕へ集中させた。


 筋力だけなら、現在の涼介が引き出せる最大出力。


 先ほどの星殻兵を破壊したものと同じ一撃だった。


 それでも。


 上位個体は、一歩も退いていない。


 胸部の外殻に、僅かな亀裂が入っただけ。


 対して涼介の右腕には、指先まで感覚を失うほどの痺れが広がっていた。


「これが……上位個体……」


 上位個体が顔のない頭部を涼介へ向ける。


 負傷した医療教官には反応しない。


 逃げていく学生たちにも目を向けない。


 最初から涼介だけを見ている。


「やっぱり、こいつは俺を追ってきたんだ」


 教官から受けた警告が蘇る。


 敵性反応の一部が、特定の学生を追跡している可能性がある。


 自分が標的なら、医療区画へ敵を引き寄せる。


 それを理解したうえで、涼介は命令を破った。


 助けを求める声を、無視できなかった。


 実際に、取り残された学生と医療教官を救出できた。


 だが、それで自分の判断が正しかったことにはならない。


 涼介が戻らなければ、この上位個体が医療区画へ来ることもなかった。


 上位個体が右腕を振り上げる。


「先生!」


 涼介が背後へ叫んだ。


「生徒たちを連れて、先に行ってください!」


「お前はどうする!」


「こいつを医療区画から引き離します!」


「鏡!」


 涼介は返事をせず、上位個体から距離を取った。


 西側へ進めば、避難する学生たちと重なる。


 東側は、崩落によって閉鎖された旧訓練棟。


 涼介が東へ走る。


 上位個体の頭部が、その動きを追った。


 次の瞬間。


 巨体が掻き消える。


「速い……!」


 涼介は反応速度へ星素を集中させた。


 視界の端へ、赤黒い影が映る。


 身体を沈める。


 上位個体の腕が頭上を通過し、通路の壁面を粉砕した。


 涼介は脚部へ星素を移す。


 床を蹴り、一気に旧訓練棟へ飛び込んだ。


 上位個体も追ってくる。


 予想どおり。


 涼介が立ち止まる。


 医療区画からは、十分に離れた。


 逃げるだけでは、いずれ追いつかれる。


 ここで止めなければならない。


 上位個体が正面から迫る。


 涼介は筋力へ星素を集中させようとした。


 その瞬間、訓練場で教官から言われた言葉が脳裏をよぎる。


 お前は力が足りないんじゃない。


 力を一つに集めすぎるんだ。


 涼介は右腕へ集めかけた星素を止めた。


 反応速度を維持したまま、上位個体の拳を引きつける。


 避ける。


 すぐに脚力へ切り替え、側面へ回る。


 上位個体が涼介を追って身体を反転させる。


 その動きが完了する直前。


 涼介は右腕へ星素を集中させた。


「剛脈!」


 拳が上位個体の脇腹へ突き刺さる。


 外殻に亀裂が走った。


 先ほどよりも深い。


 涼介はすぐに筋力強化を解き、脚力へ星素を戻す。


 上位個体の反撃が、涼介のいた場所を通過した。


「当てられる」


 出力では届かない。


 だが、切り替える瞬間を選べば戦える。


 最大出力を維持し続ける必要はない。


 避けるときには速度。


 攻撃を読むときには反応。


 受ける瞬間だけ耐久。


 拳を当てる一瞬だけ、筋力。


 上位個体が再び踏み込んでくる。


 涼介は身体を横へ流した。


 拳をかわす。


 脚部へ集中。


 背後へ回る。


 筋力へ切り替える。


 二撃目が上位個体の背中へ入った。


 黒い外殻が僅かに砕ける。


 すぐに離れる。


 上位個体の肘が空を切った。


「できる……!」


 これまでの涼介は、最も強い一撃を当てることばかり考えていた。


 力が足りないなら、さらに集める。


 倒せないなら、もっと強く殴る。


 だが、必要なのは最大の力ではない。


 必要な場所へ。


 必要な量を。


 必要な瞬間だけ流す。


 上位個体の拳を、涼介は耐久を強化した左腕で受け流した。


 同時に右腕へ星素を移す。


 三撃目。


 最初に生じた胸部の亀裂へ、拳を叩き込む。


 上位個体の身体が、初めて後方へ揺れた。


「押し返した……!」


 涼介は拳を構え直す。


 上位個体も動きを止めた。


 顔のない頭部が、僅かに傾く。


 赤黒い星素が全身を巡り始めた。


 先ほどまでとは、流れ方が違う。


「何を……」


 上位個体が動いた。


 右拳。


 涼介は反応速度を上げ、軌道を読む。


 回避。


 そのまま側面へ回ろうとする。


 だが、上位個体の左腕が既にそこへ伸びていた。


「読まれた?」


 涼介は耐久強化へ切り替え、左腕で攻撃を受ける。


 強い衝撃。


 だが耐えられる。


 反撃のため、右腕へ星素を移す。


 その直前。


 上位個体の膝が、涼介の腹部へ突き刺さった。


「がっ……!」


 身体が浮く。


 涼介は床を転がり、片膝をついた。


 呼吸が詰まる。


 上位個体が追撃せず、涼介の立ち上がりを待っている。


 違う。


 待っているのではない。


 観察している。


 涼介が星素を切り替える順番。


 攻撃へ移る瞬間。


 回避する方向。


 上位個体は、そのすべてを学習していた。


     ◇


 統合管制室。


 日和は、校内を移動する星素反応を追っていた。


 赤く表示された多数の反応。


 その一つが、他よりも遥かに大きい。


「蘭さん。上位反応が医療区画から東側へ移動しています」


「追ってる相手は?」


「鏡涼介です。他の学生には反応していません」


 蘭が涼介の位置情報を拡大する。


 士官学校の制服に埋め込まれた、緊急時用の簡易識別信号。


 通話機能はない。


 だが、校内の観測設備から学生の位置を把握することはできる。


「医療区画から離れようとしてる」


「敵を引きつけているんですか?」


「たぶんね」


 蘭は別の画面を開いた。


 校内へ侵入した星殻兵の移動経路。


 無秩序に見えた複数の線が、特定の学生のいる地点へ集まっている。


 十二人。


 GIFTED適合候補として抽出された学生たち。


 上位個体は、その中でも適合率が最も高い鏡涼介を選んで追跡していた。


「やっぱり偶然じゃない」


「星殻兵は、候補者を識別している……?」


「うん。最初から、この学校の学生を選別するために送り込まれてる」


 襲撃の目的は破壊ではない。


 星殻兵を候補者へぶつけ、その戦闘能力を観測する。


 あるいは、抵抗できない者を回収する。


 そのために士官学校の防衛機構が、旧統合管理権限によって内側から開かれた。


 蘭が通信回線を切り替える。


《空。聞こえる?》


『聞こえてる』


《医療区画の東側に上位個体が一体。鏡涼介を追ってる》


『鏡って、あの候補一位の学生か?』


《そう。今は旧訓練棟で交戦中》


『まだ生きてんのか』


《うん。でも、上位個体が動きを学習し始めてる》


 短い沈黙。


 次の瞬間、空の位置情報が高速で移動を開始した。


『場所を送れ』


《もう送ってるよ》


     ◇


 涼介は上位個体の拳をかわした。


 右。


 左。


 背後へ回る。


 これまでと同じ動き。


 上位個体が身体を反転させる。


 涼介は右腕へ星素を集めた。


 胸部の亀裂を狙う。


 拳を振り抜く。


 上位個体の手が、涼介の手首を掴んだ。


「なっ……!」


 攻撃へ切り替える瞬間を、完全に読まれていた。


 上位個体が涼介を引き寄せる。


 顔のない頭部が目前へ迫る。


 反対の拳が、涼介の胸部へ叩き込まれた。


 涼介は咄嗟に耐久強化へ切り替える。


 だが、間に合わない。


 星素が全身を覆うより早く、衝撃が身体を貫いた。


「ぐあっ!」


 涼介の身体が宙を舞う。


 旧訓練棟の壁へ叩きつけられた。


 壁面へ亀裂が広がる。


 肺から空気が押し出され、視界が明滅した。


 それでも意識はある。


 星素も残っている。


 涼介は壁へ手をつき、立ち上がろうとした。


 上位個体が歩いてくる。


 一歩。


 一歩。


 涼介は両腕を上げた。


 まだ動ける。


 次は耐久へ先に星素を流す。


 受け止めてから、反撃する。


 上位個体の姿が消えた。


「速――」


 目の前。


 上位個体の拳が迫る。


 涼介は両腕を交差させた。


 星素が骨格へ巡る。


 しかし、強化が完了する直前。


 上位個体の拳が涼介の防御へ触れた。


 破られる。


 そう理解した瞬間。


 スカイブルーの光が、二人の間を通り過ぎた。


 上位個体の拳が止まる。


 涼介の眼前。


 一人の女が立っていた。


 束ねられた長い金髪。


 白い制服。


 左腕に巻かれた、金色の隊長腕章。


 空が、上位個体の手首を片手で掴んでいる。


『学生相手に、随分むきになってんじゃねえか』


 上位個体が空へ顔を向ける。


 掴まれた腕を引き抜こうとする。


 赤黒い星素が膨れ上がり、床へ亀裂が走る。


 空の腕は動かない。


 涼介が全力で受け止められなかった力を、片手だけで完全に止めている。


 上位個体が反対の拳を振り上げた。


 空が一歩踏み込む。


 特別な構えはない。


 技の名も口にしない。


 ただ、右拳を前へ出した。


 空の拳が、上位個体の胸部へ触れる。


 次の瞬間。


 黒い外殻が、内側から爆ぜた。


 涼介の全力でも僅かな亀裂しか入らなかった胸部が、核ごと粉砕される。


 上位個体の巨体が後方へ吹き飛び、旧訓練棟の床を何度も跳ねた。


 壁へ激突するより早く、その身体が赤黒い粒子となって崩壊する。


 核の反応も消えた。


 再生しない。


 完全な一撃だった。


「……え」


 涼介は、何が起きたのか理解できなかった。


 自分は全力で殴った。


 星素の配分を変え、速度と反応を使い分け、何度も同じ亀裂を狙った。


 それでも倒せなかった。


 攻撃を読まれ、防御を破られた。


 空は、その相手を一度殴っただけで消滅させた。


「一撃……?」


 出力が違う。


 速度が違う。


 拳を打ち込む位置も、星素を集中させる瞬間も違う。


 何より、無駄がない。


 空の身体から放出された星素は、ほんの一瞬。


 それでも、すべてが破壊のための力へ変換されていた。


 同じ物理系。


 同じ身体強化。


 そのはずなのに、あまりにも遠い。


「これが……極星」


 空が涼介へ振り返る。


 上位個体を倒したことなど、既に意識から外れているようだった。


『まだ動けるな、学生』


「……はい」


『なら立て』


 空は手を差し出さない。


 涼介は壁へ手をつき、自分の力で立ち上がった。


 両腕は痺れている。


 胸部には鈍い痛みがある。


 それでも、戦えないほどではない。


「動けます」


『東側避難区画へ行け』


「東側に?」


『玲って副隊長がいる。森羅隊を率いて避難路を守ってる』


 空の戦術端末へ、蘭から新たな情報が届いた。


 空が画面へ目を落とす。


『東側に星殻兵が集まってる。人手が足りねえ』


「俺を戦わせるんですか」


『まだ動けるんだろ?』


「動けます」


『なら使う』


 空は即答した。


『怪我人を颯真とまこ先輩に引き渡したら、玲のところへ行け』


「了解しました」


『今度は勝手に動くな。玲の指示に従え』


「はい」


 涼介は空へ背を向け、医療区画へ戻ろうとした。


『学生』


 呼び止められる。


 涼介が振り返る。


『走れるな?』


「もちろんです」


『なら急げ』


「了解!」


 涼介が駆け出す。


 空はその背中を一度だけ見送った。


《空》


 戦術端末から蘭の声が届く。


《あの子、避難命令を破ったんだよ》


『聞いてる』


《何も言わなくていいの?》


『今は任務中だ』


 空は、上位個体が消滅した場所へ目を向ける。


『説教は、全員生きて帰ってからでいい』


     ◇


 同時刻、西側地下搬入口。


 空が上位反応のもとへ向かったあと、天衝隊の指揮は蓮司が引き継いでいた。


 赤黒い星素を纏った星殻兵が、複数の通路へ分かれようとしている。


「前衛は侵入路を塞げ! 後衛は学生の避難経路を優先しろ!」


 蓮司が最前列へ踏み込み、迫ってきた黒い腕を外側へ受け流した。


 生まれた隙へ、天衝隊員たちの攻撃が集中する。


 星殻兵の外殻へ亀裂が走った。


《蓮司さん、二体が北側通路へ抜けた》


 蘭からの通信が入る。


「聞こえてる。西側は第二班が維持。残りは俺について来い」


 蓮司は北側通路へ身体を向けた。


「隊長が戻るまで持たせるんじゃねえ。俺たちで止めるぞ」


 天衝隊員たちが、一斉に蓮司の後を追った。


     ◇


 涼介が医療区画へ戻ると、崩落していた通路は白い構造物によって固定されていた。


 造形系クラフト――「繭殻」。


 香坂真琴が、落下しかけた天井と壁面を白い殻で包み込んでいる。


「固定完了。これで、すぐに崩れることはありません」


 その横を、青白い影が通り過ぎた。


 鳴海颯真が、負傷した学生を背負って通路を駆け抜ける。


 避難区画まで運び、すぐに戻ってくる。


「残りは?」


「学生が二人と、医療教官一人!」


「了解!」


 涼介は医療教官のもとへ駆け寄った。


「先生、肩を」


「鏡……無事だったのか」


「話はあとです。移動します」


 医療教官の腕を自分の肩へ回す。


 真琴が涼介の制服と両腕の傷を見た。


「あなたも負傷しているでしょう」


「戦闘に支障はありません」


「それを決めるのは医療班よ」


「獅堂隊長から、東側避難区画へ向かうよう指示を受けました」


 真琴の目が僅かに細くなる。


「空隊長が?」


「はい。神楽坂副隊長の指示に従えと」


 真琴は涼介の両腕へ目を戻した。


 骨折はしていない。


 星脈にも、目立った乱れはない。


 星素の残量も、戦闘不能になるほど減ってはいなかった。


「分かったわ。ただし、痛みや痺れが強くなったら必ず申告して」


「了解しました」


「颯真!」


 真琴が呼ぶ。


 戻ってきた鳴海が足を止めた。


「この教官をお願い」


「はい!」


 鳴海が医療教官を背負う。


 その視線が涼介の破れた制服へ向いた。


「上位個体と戦ってた学生って、君?」


「鏡涼介です」


「僕は鳴海颯真。話はあとで聞くよ」


 鳴海が床を蹴る。


 医療教官を背負ったまま、青白い光となって避難区画へ向かった。


 真琴は残る学生を繭殻の内側へ誘導する。


「東側へ行くなら、この通路を直進して。途中の階段は崩れているから、第二連絡橋を使って」


「ありがとうございます」


「鏡君」


 走り出そうとした涼介が振り返る。


「空隊長があなたを送ったのなら、私から止めることはしないわ」


 真琴は涼介を真っ直ぐに見た。


「でも、今度は必ず現場指揮官の命令に従って」


「はい」


 涼介は短く答え、東側へ駆け出した。


     ◇


 統合管制室の大型画面には、士官学校全域の立体図が表示されていた。


 星殻兵の反応。


 アストラ隊員の配置。


 避難する学生たちの位置。


 それらが色分けされ、絶えず更新されている。


「上位反応、消失しました」


 日和が報告する。


「空隊長が現場へ到着してから、三秒も経っていません」


「空だからね」


 蘭は驚かなかった。


 別の画面へ、十二人の候補者を表示する。


 現在位置。


 星素反応。


 周囲にいる星殻兵の数。


 十二人のうち、五人が東側避難区画へ集まっていた。


 それを追うように、複数の星殻兵が校舎内を移動している。


「蘭さん。東側へ向かう反応が増えています」


「確認できる数は?」


「七体。北側から、さらに二体が合流する可能性があります」


 東側を守る森羅隊は、避難路の維持へ人員を割いている。


 戦闘へ回せる人数は多くない。


 蘭が通信を開く。


《玲。聞こえる?》


「聞こえています」


《そっちへ星殻兵が集中してる。確認できるだけで七体》


「進入経路は?」


《正面通路から四。右側の連絡路から二。残る一体は上層階を移動中》


「学生たちの避難完了まで、あと何分ですか」


《最短で六分》


「十分です」


《空が応援を一人向かわせたよ》


「天衝隊員ですか?」


《ううん。士官学生》


 玲が僅かに沈黙する。


「名前は?」


《鏡涼介。物理系クラフト、剛脈》


 蘭は涼介の能力情報を玲の端末へ送信した。


《筋力、速度、反応、耐久へ星素を振り分けられる。上位個体と交戦した直後だけど、戦闘継続は可能》


「空隊長が戦力になると判断したのですね」


《うん》


「なら、こちらで使います」


 玲はそれ以上尋ねなかった。


     ◇


 東側避難区画。


 篠宮澄香の周囲には、幾つもの透明な球体が浮かんでいた。


 造形系クラフト――「露標」。


 廊下。


 教室。


 階段。


 換気口。


 校舎内へ散らばった球体が、熱、煙、有害物質、振動を観測し、澄香へ送り返している。


「正面通路から四体。速度は一定です」


 澄香が目を閉じたまま報告する。


「右側連絡路に二体。上層階の一体は、まだ進路が定まっていません」


「正面は私たちが受けます」


 玲が答える。


「土門さん。右側を封鎖できますか」


「できる」


 土門岳が右手を床へ触れた。


 環境系クラフト――「地縫」。


 崩れかけていた床の亀裂が閉じる。


 反対に、右側連絡路の床が大きく隆起し、通路を塞ぐ壁となった。


 壁の向こうから、星殻兵が衝突する音が響く。


「長くは保たない」


「三分で十分です」


 玲が避難区画を見る。


 森羅隊員の誘導によって、学生たちが校舎外へ続く連絡橋を渡っている。


 その中には、星殻兵の標的となっている候補者もいる。


 敵は玲たちを倒すことが目的ではない。


 守りを抜け、候補者へ到達しようとしている。


「篠宮さん。星殻兵の核を探してください」


「やってみます」


 澄香が露標の一部を正面通路へ集める。


 透明な球体が、接近する星殻兵の周囲を漂い始めた。


「外殻が厚くて、内部まで熱を拾えません」


「振動は?」


「歩行時の振動を比較します。核がある部分だけ、衝撃の伝わり方が違うはずです」


 玲が頷く。


「お願いします」


 背後から足音が近づいてきた。


 森羅隊員たちが振り返る。


 破れた士官学校の制服。


 両腕に残る打撲痕。


 青白い星素を纏った涼介が、東側避難区画へ到着した。


「鏡涼介です」


 息を整え、玲の前へ立つ。


「獅堂隊長の指示で来ました」


 玲は涼介の姿を一度だけ確認した。


「負傷していますね」


「戦闘に支障はありません」


「分かりました」


 確認はそれだけだった。


「空隊長がここへ送った以上、あなたを一人の戦力として扱います」


「はい」


「物理系クラフト『剛脈』。筋力、速度、反応、耐久への出力配分が可能。間違いありませんね」


「間違いありません」


 玲は正面通路へ目を戻す。


「鏡さんは正面です」


「了解しました」


「土門さんが脚部を固定した個体へ接近。篠宮さんが核を特定したら、その一点へ出力を集中してください」


「追撃は?」


「不要です。攻撃後は即座に後退。次の個体へ移ります」


「分かりました」


「私の合図より先に動かないでください」


「了解」


 命令。


 その言葉が、涼介の胸へ重く残った。


 先ほどは、自分の判断を優先した。


 今度は違う。


 自分は一人で戦うのではない。


 神楽坂玲の指揮下にいる、一人の戦力として動く。


 右側を塞いでいた壁に、亀裂が走った。


「残り二分」


 岳が告げる。


「十分です」


 澄香の周囲に浮かぶ露標が、一斉に震えた。


「正面、来ます!」


 通路の奥。


 暗闇の中から、赤黒い星素が現れる。


 一体。


 二体。


 三体。


 四体。


 黒い外殻に覆われた星殻兵が、足並みを揃えて進んでくる。


 その頭部は玲たちではなく、背後の避難区画へ向けられていた。


 涼介が両拳を構える。


 岳が床へ手を置く。


 澄香が露標を星殻兵の周囲へ展開する。


 玲の身体から、無色の星素が静かに広がった。


「森羅隊」


 玲が右手を上げる。


「迎撃を開始します」

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