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無敵陰陽士Dタイザン  作者: 岸辺 嗣雄@IKフィルコム
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第21話 逆襲のハロウィン!? 幽霊を驚かせ!②

 晴明の召喚した仮装した形代たちはあたかもパレードの行進のように町中をずんずんと練り歩く。その一見愛らしい姿は本当の子供たちと見間違えるからか、周りの大人たちは疑うことなくお菓子を手渡していく。

 その様子を晴明やカケルたちが陰から見守る。

 ただじれったく思ったのか、カケルは不満げに晴明の顔を見る。


「結局にーちゃん、何をするつもりなの? お菓子の自動回収?」

「違う違う。アレはヘルガイストをおびき寄せるエサだ」

「エサ?」

「お前らの中にヘルガイストが紛れ込んでいたろ? その時の状況をワザと作り出してるんだ。やっこさん、そろそろ引っかかるぞ。俺の出した形代は四体、対して今いるのは?」


 カケルは人差し指を出して何もない空間をチョンチョン、とタップするように形代の数を数えだす。


「あっ! 五人いる!」

「つまりあの中の一人はヘルガイストで間違いないだろうな」


「なるほど……」とカケルは口にする。

 彼らに見られていることを察知したのか、ヘルガイストはサッとその場を離れようとする。カケルは慌てて晴明の袖を引っ張るが、それに動じない。


「あっ! 逃げられちゃうよ!」

「大丈夫だ、アイツは簡単には逃げられやしないさ。ヤツの気配は完全に検知したからな」


 晴明はすぐにヘルガイストを追いかけずに、おもむろにスマホを取り出して誰かに電話をかける。スピーカーから漏れる野太い声から察するに相手は康作だということはわかる。


「……あぁ、それからトラバインも用意しておいてくれ」

『了解じゃ』

「そういうこった。奴をおびき寄せるから準備、頼んだぞ」

『おうよ!』


 電話を切るとカケルが訊ねて来る。


「ばんちょーに何の電話してたの?」


 晴明はジャック・オ・ランタンよりもいたずらっぽく口角を上げて笑う。


「これから至る所で罠が発動するのさ。その準備だよ」

「罠って……?」

「無論、お前らにも協力してもらうさ」



 ☆☆☆☆☆



「お兄ちゃん。こんなに大量のカカシなんて用意して、晴明さんと何を企んでるの?」


 康作の妙な行動に妹のいなほが不審そうに眺める。

 だがそんな彼女の疑問には一切答えず、カカシの脇に置いてある白いシートをコンバインに乗せるよう伝える。


「んも~。……ま、晴明さんとならヘンなことはしないでしょうけど」

「なっ!? いなほ~、ワシ一人じゃったら何かしでかすと思うとるんかッ?」

「ったりまえでしょ。何年妹をやってると思って……あれ? なにこれ?」

「てかなんで晴明のヤツとじゃと大丈夫って結論になるんじゃ~」


 嘆く康作を無視して白いシートをどかすと、大量のかぼちゃが姿を現す。かぼちゃといってもすべてプラスチック製のジャック・オ・ランタンだが……。つやつやとした光沢を見せるその一つを手に取って被る。


「……こんなものをこんなに用意して、いよいよ本当に何するのさ?」


 康作はトラクターとコンバインのイグニッションキーを捻ってエンジンを唸らせるとにんまりと笑顔を向けて答える。


「ハロウィンじゃからのう、収穫祭じゃ!」


 ☆☆☆☆☆



「いいぞ、ヘルガイスト……。そうやってこんなくだらないお祭りを台無しにしてやるんだ! 嫌な思い出を残させてハロウィンなんか二度としたくなくなるようにしてやるんだ……」


 ヘルガイストによる被害はすでに三、四件にも及んでいた。

 その一部始終を榎戸は卑屈そうに、だが愉快に笑いながらヘルガイストのいたずらを水晶越しに眺める。


「阿倍野晴明が出しゃばってきたときはどうなることかと思ったが、ヤツを欺いても見せた……。このままヘルガイストを成長させてこの町全体に失望感与えてやる……ッ!」

『しかし、――』


 榎戸に水を差すようにジャシーンが口を開く。


『あの阿倍野晴明が一度ヘルガイストを見失っただけであきらめるものだろうか』


 その言葉に榎戸は打って変わって不機嫌そうにスンと表情をなくす。さしものジャシーンも彼の情緒不安定さには苦笑いせずにはいられなかった。


「……あのヘルガイストはガキどもに紛れているんだ。阿倍野晴明がむやみやたらにそいつらをつまみ上げて、正体を暴くなんてことをするはずがないだろう」

『……』

「それにもしまた見つけられたとしても無駄だよ。さっきみたいに認識疎外を起こさせて適当なガキとすり替えてしまえば手は出せやしない。完璧さ」

『……ふむ。まぁ、見ものではあるな』


 いちいち癇《かん》に障る物言いをするジャシーンにフンッ、と鼻息を鳴らし榎戸は再びヘルガイストの様子を見る。

 どうやら次の標的を見つけた様だ。

 ヘルガイストはフラフラ~と所在なく歩くジャック・オ・ランタンを被った集団に向かって近づいていく。自らも彼らに溶け込むべく同じ姿に形を変える。

 何の疑いもなくヘルガイストが集団に割り込んだ瞬間、彼らの姿がフッと視界から消える。

 突然のことに状況が呑み込めないでいると自らの足元への注意がおろそかになり、踏み外してストーンと落ちてしまう。気づけば道路工事で掘られた穴にハマっていた。おそらく工事看板があったはずだが、集団の陰に隠れて見えなかったのだろう。

 仰向けになりながら上空を見上げると、先ほどの仮装集団が羽織るシートを揺らめかせながら《《フワフワと宙に浮いている》》のだ。

 ヘルガイストは思わずギョッとして、うろたえながら穴から這い出る。


「一段階目成功! ばんちょー、次そっちへ行くよ!」

『おうし! どんとこい!』

「よし、カケル。俺たちも次の場所へ向かうぞ!」

「OK!」


 晴明は掴んでいた《《タコ糸》》から手を離すと、かぼちゃを被ったカカシたちがどさどさと音を立てて落ちて来る。



 ☆☆☆☆☆



 ヘルガイストは自身の身に降りかかった出来事に取り乱しつつも、それはだんだんと怒りに変わり、次の標的を見つけんと躍起になる。

 それが冷静さを欠いた結果の行動だとも知らず、再びハロウィンを楽しむ一団の中に飛び込む。

 だが、やはりここも様子がおかしい。

 誰もが俯《うつむき》きがちに行進しているだけだった。なんとなく居心地の悪さを覚えながらバスケット内のお菓子に手を伸ばした瞬間、その腕をガイコツのような華奢な指ががっしりと掴んでくる。

 自身もお化けのはずなのに、背筋が凍る思いがした。本来恐怖を与えるはずのヘルガイストが逆に与えられる側になったのだ。

 必死に腕を振り払い後ろへ下がると、かぼちゃ頭たちは統制がとれたように均一な動きで、カクンッ……、と一斉に振り向き、怪しげに目を光らせながらヘルガイストのことをジッと睨みつける。その光る眼差しの奥は吸い込まれてしまうのではと錯覚するほど深く底知れない。

 かぼちゃ頭は軽い木材がぶつかり合うような小気味の良い音を気味悪く鳴らしながらジワジワと近づいてくる。ヘルガイストは一歩一歩後ずさりしていると、突然かぼちゃ頭の群れは飛びかかって襲ってくる。

 間一髪、ヘルガイストがそれを避けると、目標を見失い互いにぶつかり合った――正体がカカシであるかぼちゃ頭たちは、バキバキッと乾いた音を立てて四散し、壊れていく。

 その背後にはピンッと張られた糸が伸び、エンジンの鈍い重低音と共に康作が搭乗したトラバインが姿を現す。トラバインの指にはまるでマリオネットを操るかのように糸を絡ませていた。

 その正体に気がついたヘルガイストはカッカッと怒り、ジャック・オ・ランタンの姿を模したまま巨大化していく。その時背中にドン、と鈍い衝撃が打ち据《す》える。

 振り返ると――、そこにはDタイザンがズゥン……と佇《たたず》むように構えていたのである。


「康作、意外と器用じゃねぇか」

「まぁの、こやつ(トラバイン)を扱わせたら右に出るもんはおらんて」


康作は自慢げに鼻の下を指でこする。カケルたちも巨大化したヘルガイストに対して恐怖心すらなくキャッキャと歓声を上げながら叫ぶ。


「やった! 第二段階もほぼ大成功だね!」

「ククク。その通り! 恐怖は十分に味わったと思うだろう、ヘルガイストォ……。これが第三の罠(Dタイザン)だ!」


 ヘルガイストの受けた衝撃は水晶越しの榎戸にダイレクトに伝わった。


「なッ……、Dタイザンだと!?」

『ほぉ……。阿倍野晴明の策に見事引っかかってしまったわけか』

「ジャシーン! 感心している場合か……。クソッ、ヘルガイスト! Dタイザンを破壊しろ! い、今のうちにッ……!」


 榎戸の憤慨にジャシーンは答えず、ただ侮蔑《ぶべつ》するように鼻でフッ、と笑う。


⦅……十分な霊力を持たず、未熟なまま無謀にも挑む、か。まるで宿主にそっくりではないか。どこまでやれるか手並みは見せてもらおう⦆


 榎戸の命令にヘルガイスト・ジャコ《ジャック・オ・ランタン》はマントの中からソード|《西洋剣》を抜き出しギラリと刀身を光らせDタイザンに斬りかかる。だが晴明はそれをかわして胴部に重い蹴りを入れる。

 よろめきながら倒れるジャコにDタイザンは右手の人差し指を向けた。


「子供たちの楽しみを奪い、いやしくも自身の肥やしにするヘルガイストめ。このDタイザンが胸の五芒星に代わって成仏させてくれる!」


 言うが早いかDタイザンはタイザン・ファルクスを手に取り、地面を蹴って倒れたジャコに近づき、首元を狙う。ジャコは慌てて口元から火炎放射攻撃を見舞い、Dタイザンの接近を妨げる。


「コイツまだそんな手を持っていたのか……!」


 少しの隙を得たジャコは体勢を立て直したのち、その場にしゃがんで両手を地面についたかと思うと、ドプッ……と妙な湿っぽい音があたりを包む。

 カケルたちは急に足が沈みだしたので後ろへ下がりヘルガイストの方を見ると、奴はその突き出した両手の先から道路を液状化させ泥沼を作り上げていた。その泥沼は道なりに合わせてまっすぐと伸び、Dタイザンの足元まで到達する。逃げ遅れたDタイザンは泥に足をとられ機体が地面に沈み始める。


「しまっ……!」


 晴明はペダルを思い切りベタ踏みして這い出ようとするが、もがけばもがくほどずぶずぶとマシンは沈んでいく。ジャコの切れ長の目がさらに深くニヤけたようにも見えた。再びソードを構えて哀れなDタイザンの姿を刀身に映し出す。


「ダメだッ……。下手に動けばかえって足をとられる!」

「晴明ッ! 不整地はトラバインに任せい!」


 そんな彼のピンチを見かねて、トラバインが思い切り沼に突っ込んでくる。康作はクローラーをフルに回転させ、沼地をスイスイと突き進み、ジャコを背後にタックルをくらわせる。

 顔面から泥に突っ込んだジャコを余所にトラバインの腰部からワイヤが射出され、沈みかけるDタイザンに勢いよく巻き付ける。ウインチを巻き上げながらクローラーを逆回転させてDタイザンの機体を引き上げた。


「すまん康作、助かった!」

「感謝を言うとる場合じゃないぞ、晴明! 奴が泥沼に変えた道がどんどん広がっとる!」


 泥沼が波紋のように広がり、近隣の住宅まで徐々に沈み始めた。子供たちのうすぐ後ろにある家は、基礎まで液状化したのか、ミシッ……ミシッ……と痛々しく音を立てて崩れていく様は彼らに恐怖を誘う。


「い、家まで沈み始めとる……。晴明! はよう、ヤツを仕留めんと……ッ!」

「分かってるよ。カケル、それにみんな悪いがさっきまで集めてたお菓子は使わせてもらうぜ!」


 Dタイザンのツインアイが明滅し、足元で見守る子供たちに了解を得る。それに対しカケルたちは親指を突き出しにっこりと笑う。


「いいよ! その代わり絶対に倒してね!」

「兄ちゃんたちのためなら安いもんさ!」

「Dタイザン、負けるなー!!」


 晴明は不敵に笑うと「康作、ランバス・ミサイルを使う! 機体を安定させたいから地面を掘ってくれ!」と要請する。頼まれた当の本人は晴明が何をするつもりかは分からなかったが土魂《どこん》グワを取り出し、どろどろの地面を掘りだす。


「行くぞぉ、晴明! フィールド・リバーサルじゃあ!!」


 ジャコの放つ火球をDタイザンがファルクスで打ち返しながら、トラバインはクワで泥沼をガシガシと掘り進めると、やがて固い地面に到達する。Dタイザンが入ることができるだけのスペースを確保し、呼びかける。


「晴明、できたぞ!」

「よっしゃ!」


 晴明はその穴の中にDタイザンを飛び込ませ、地面を踏みしめる。


「よし、これで発射後の反動にも耐えられる……」


 晴明は独り言のようにつぶやくと、照準をジャコの頭上よりもさらに上に合わせてミサイルを放り込む。上空に放たれたミサイルはバババッ! と炸裂し、その中から無数の何かが飛び散り降り注ぐ。

 ――包装紙に包まれた《《飴玉《あめだま》の雨》》だ。


『……ッ!?』


 ジャコはDタイザンたちをそっちのけに、つい条件反射でその飴玉に反応してしまう。

 晴明は予想通りといった満足げな表情を見せた。


「名付けて|ドロップ・キャンディー《飴爆撃》……。お前の負けだ!」


 ジャコは、無数の飴を集めきろうと、自らの頭部を開いて回収しようとする。その隙だらけの姿に向けて、Dタイザンはペンタグラム・ホールドを撃ち込む。星形レーザーに完全に固定されてしまったジャコはいまだ飴玉に執着しつつも身動きが取れず、ニヤけていたはずの目元がしだいに悲しげな表情に変わる。その目からはまるで涙を流すかのように集めた飴玉が零れ落ちる。


「……欲に囚われすぎたな、ヘルガイスト! ドーマンセーマン、現世の恨みごとヘルガイストを燃やし尽くしてしまえ! 必殺、エクスペル・バーン!」


 アミュレットから撃ちだされた業火はそんなジャコの全身を覆い、燃やし尽くす。最期まで……、それでもなお何か思い出でも取り戻そうとするかの如く必死になって飴玉をとろうと腕を伸ばし続ける姿に晴明は憐《あわれ》みさえ覚える。


「へ、ヘルガイストが……また何もできずに……。それも、あんな楽しげにしているガキども相手に……。なぜ、いつもいつもいつも……」

『……』


 結果が分かり切っていたという風に、ジャシーンは興味を失い愕然とうなだれる榎戸に厳しい視線だけを送り続けていた。



 ☆☆☆☆☆


「にーちゃんたち! ありがと!」


 Dタイザン、トラバインから降りてきた晴明たちのもとへ、子供たちが駆け寄る。

 

「これ、にーちゃんからのもらい物だけどお礼に。他に渡せるものもヘルガイストと一緒に無くなっちゃったからさ……」


 カケルは晴明の胸元にクッキー缶を押し付けるように差し出し、蓋を開ける。

 晴明は缶からクッキーをひょいと一枚取り上げ、それをサクッと噛む。


「おうよ。駄賃に一枚もらってくぜ。……お、本当にうまいなこれ。お前らも食え食え」


あまりのうまさにニッコリとした笑顔のまま口をもぐもぐとしていると、急に目の前の子供たちと康作の顔が青ざめる。

晴明はそんな彼らを不思議そうに見つめながら。もう一枚もらおうと手を伸ばす。


「どうした、お前ら。めちゃめちゃ旨いのにコレ。いらないんなら貰うぞ?」


すると後ろから恨めしそうな低い声が響く。


「へぇ……、随分とおいしそうに食べるわね……」

「あぁ、高そうなだけあるぜ。めっちゃ旨……、えっ……?」


伸ばした手をピタッと止め、声のする方をゆーっくりと振り返ると般若のような形相をした晴明の母が立っていた。


「あんた……。随分と帰りが遅いからどこをほっつき歩いているかと思ったけれども、こんなところで楽しくお菓子パーティですかぁ……。で、私の分は? 《《晴明君》》?」

「あ、いや……。その、まだ買ってきてないです……ハハハ……」


クッキーが口の中の水分を奪ったせいか、晴明の乾いた笑いは段々と小さくなっていく。いつの間にか康作や子供たちはそそくさとどこかへ立ち去り、この場には晴明と彼の母の二人だけが残された。


(あ、アイツら……! 薄情な……ッ!!)


母はたじろぐ晴明にゆらりと近づき……静かに、だがやけに威圧感たっぷりに答える。


「そう……、それじゃあしょうがないわね……」

「お、お母様……?」


頬をやけに冷たい汗が一筋伝う。

母は思い切り息を吸い――、

そして町をも揺らす大きな声で叫ぶ。


「アンタはしばらくご飯抜き!!」

「そ、そんなぁ~! 殺生な~ッ!!」


道路は液状化から戻ったはずなのに、晴明はその場に沈み込むように力なく倒れていく。

晴明はハロウィンの夜『トリック・オア・トリート《お菓子を上納しなければ、飯を抜くぞ》』を告げられてしまうのだった……。


第22話もお楽しみに!!

次回更新は2026年11月7日(土)17時30分を予定しております。

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